61 某アニメ・性加害シーンについて その2
こんにちは。
今回は前回の件についてちょっと追加したいことが出てきたので、付記ということでもう少し語らせてください。
レイプ未遂シーンのあるアニメの件は、SNSであれ以降もしばらく燃えておりました。
私としては、当該のアニメ作品を糾弾するとか、ましてや発表するなとかいう主旨ではないことは先にお断りしておきたいと思います。規制というのは少しゆるすと、どどどっと進んでしまう恐れもあるナイーブな問題でもあり、取り扱い注意だという考え方です。
あれは一応深夜帯での放送だったということで、未成年がほいほいみられる状況とは言えず、まずまずゾーニングされているかな……という立場である、というのは前回も言及した通りです。
もっとも、「本放送ではそうでも、ネトフリ等のほかのサイトでは子どもでも簡単にみられてしまうのが問題」とおっしゃる方もあり、それには納得。深夜帯放送の作品には、やっぱりオールフリーにしてしまうのでなく、ある程度の制限をかけないとマズイものも多いですからね(汗)。
さてさて、それはそれとして。
この作品の例のシーンとそれ以降の表現については、ひとつ気になっていたことがありまして。
それは、「ほんの一瞬のシーンであったから」とか「未遂(要するに挿入がなかったという意味)のうちに主人公ヒーローに救い出されている」「加害者たちはすぐに殺害されている」という、もろもろの擁護意見を眺めているうちに湧きおこってきた疑問でした。
実は擁護する立場の(多くは男性であろうと思われる)人たちのこういうご意見は、かなりの数で散見されていました。
その数の多さを目にしているうちに、特に強く疑問に思うようになったことです。
それは、
「襲われていた(キャラクターの)子たちはその後、どういう描写がされていたのだろう?」
ということでした。
寡聞にしてわたくし、当該の原作小説もアニメも存じ上げなかったのでわからなかったのです。
もしもこの後、その少女キャラクターたちが「未遂だったんだから平気~。主人公さまありがと~(ハートマーク)」みたいな感じで、あっけらかんとなんの心の傷もない姿を描写しているだけなんだとしたら、かなり疑問が残るなあと思ったのです。
当該シーンでは、少女たちは暴漢たちによって服を引き裂かれ、殴られ(顔に傷があるためそのように推察)、四肢を拘束されて卑猥な言葉を投げつけられながら無理やりに足を開かれる……といったところまでの描写がありました。
絵自体はよくある萌えアニメのかわいいものですが、行為の描写そのものにはかなりリアリティがありました(本当のレイプならもっとずっと凄惨だ、というご意見もあり、それもまた事実だと思いますが)。
リアルの女性であったならこれだけでも心に傷を負うものだし、人によっては男性恐怖症になり、家から出られなくなるような人がいてもおかしくない。
事実、そういう事件が原因で家にひきこもるようになる人もあると聞きますし。こういう暴力の実数はなかなか把握しにくくて、公式ではほぼ出されませんから、確かな数は不明ですが。
「未遂じゃないか」とは言っても、「殺人未遂」も犯罪であるのと同様、これも立派な犯罪です。無罪なわけはないし、被害者の、とりわけ心の被害は甚大です。
何十年も前の話をします。
私の友人は未遂ではない状態の性犯罪被害者でしたが、本当に心を病み、精神病院に入退院をくりかえした挙げ句に、みずから死を選んでしまいました。
性暴力というのは、それだけ被害者の心に多大な傷と、人生への影響を与える、許しがたい犯罪なのです。
もしも当該アニメが被害者少女たちの「未遂だったから平気~。もうなんにも気にしてない、ハッピー!」みたいな描写しかしていないのであれば、やっぱりある種の問題があるよなあと感じざるを得ない。
それはなぜか。
視聴者に対して「挿入さえなければ大したことないんだ」「女の子たちにはなんら傷を負わせたことにはならないんだ」という、まちがった認識を流布しかねない、と思うからです。
これはかつて大流行したスカートめくりなんかでも同様の状況が見られていました。
フィクションの登場人物である女の子は、スカートをめくられようが入浴中の姿を覗かれようが、基本的に主人公(たいていは男の子)に対して好意的で、そのときだけは「こらっ!」なんて怒る様子は見せても、翌日にはもうケロッとして、もとのように主人公と仲良くしてくれる。
こんな描写が、昭和の時代には山ほどあった。
ここから全国的に男児が女児のスカートを人前を構わずめくるといういたずらが横行しましたが、本気で腹を立てたり泣いたり傷ついたりした女の子たちの声はほぼ黙殺されていました。
「男性から(今で言う)セクハラを受けてもサラッと聞き流せるのがイイ女」といった、男性にとってのみ都合のいい歪んだ価値観が蔓延していたからでもあるでしょうね。
それが近年になって次第に「あれはハラスメントだ」「性加害だ」とはっきり認識され、糾弾されるようになってきた。
すべて「それはおかしいんじゃないの」と声をあげつづけた人がいたからです。
SNSで当該作品をよく知る人によれば、あのシーンは本当に主人公を紹介するための前座のような扱いにすぎなかったといいます。
物語としても別にセクシーなことが主題ではなく、ひどいことをする悪漢たちを倒して弱者を救うヒーローを描くもの。その主人公を端的に紹介するために、冒頭でレイプ未遂シーンが挿入されたにすぎない……みたいな。
まあ昔からよくある手法ですよね。
「北●の拳」なんかでも、ひどい暴力と搾取と、(少年漫画なのでそこまで具体的には表現されなかったものの)女性を思うままにむさぼるタイプの悪漢を、ヒーローがバッタバッタと容赦なく殺していく。
ああいうパターンはほかの作品でもしばしば使われていたと思います。大人気でしたしね。かくいう私も好きな作品でしたし。要は、(特に)男の子の夢なのでしょう。
だからこそ「様式美だ」「昔からあったじゃないか」みたいなご意見も多かったのでしょうが、さて。それが反論として成り立つだろうか。
「昔からあったのだからいいじゃないか」は、正直、論理としては通用しないかなと思う。むしろ破綻している。
先ほども述べたとおり、昔はかなりの場面で「女は文句言うな」「男のセクハラぐらい聞き流せ」のような土壌が強かったこともあり、なかなか批判の対象になってこなかっただけの話です。
職場にエロいグラビアアイドルの水着や半裸のポスターがでかでかと貼られていても、男性たちが卑猥な話をして同僚女性が嫌がる様子を見て楽しんでいても、ひたすら女性はだまってニコニコしていろと強要されているも同然の状況。そんなことも今は昔です。そんな職場、令和の今じゃほぼ考えられない。
最近になってようやく人間としての発言が普通に認められるようになり、セクシャル・ハラスメントや性的な表現について女性たちからの批判が自由になされ、堂々と表ざたにされるようになってきたのは、社会がそれだけ成熟し、人権問題について敏感になってきたという証でしょう。
男も女も、それ以外の性別の人たちも、等しく人間である。
それぞれが人としての権利をもっていて、それを行使し自分の尊厳を守る権利を持っている、ときちんと認識されつつある。
レイプという犯罪を軽々しく物語に導入し、なおかつ被害を受けた女性たちを「大したことはされなかった、よかったね。めでたしめでたし」のように軽く扱うことは、やはり特に未成年の視聴者の認識をゆがめてしまいそうな気がして、私は不安や恐れを感じます。
そういえば、こういう話をするとよく「エロアニメ・エロコンテンツが、それをみている人間を性犯罪にするというなら証拠を出せ」とか「根拠はなんだ」といった反論を試みる人がいるわけですが、これもどこか卑怯に思われる。
なぜなら、本当にこの問題について実証実験をしようと思うならまず、以下のように行うことが求められるからです。
①遺伝的に同等と考えられる、一卵性双生児を準備し
②片方には性的にどぎついシーンを含む作品を無制限に与え、片方には一切を禁じ
③成人したタイミングで、認知にどのような差異が生じているかを検証
しかもこれを一例ではなく、最低でも数百例は検証しなくてはならない。
……となると、もう①や②の段階ではっきりと人権侵害であり、実験そのものが不可能、ということになる。
しかも数百人も一卵性の双子を用意? しかもできれば赤ん坊を? 無理やろ。
まったく現実的とは思えない。親が許すはずもない。
恐らく反論する人たちも、そういうことがわかっていて「どこにそんな証拠がある?(嘲笑)」みたいなことを得意げに言いまくっているのでしょうが、いかがなもんかなとは思っていますね。
ますます他人から忌避され、「ああいう人たちには常識がないんやな」「他人を思いやる気持ちに欠けているんやな」というレッテル貼りが加速するだけだと思うのですが。
全然よろしくない。非常に悪手だと思う。
今回、ご自身もR18作品を書くという女性の書き手さんがこのアニメの件について意見したところ、「オタク」と呼ばれる男性たちと思われる人々からすさまじい攻撃を受けたそうです。
SNSのダイレクトメールなどを使って、「じゃあお前がオレたちの相手をしろよ」とか、もっと卑猥な内容を送り付けてすさまじい脅迫(犯すだの殺すだの)と嫌がらせをおこなったそうです。
ここまでくると、もはや本物の犯罪者ですね。早急に情報開示され、警察案件になることを望みます。
私個人もR18作品を書く人間であり、表現の自由については侵されたくないという思いがありますが、それは「許された範囲で発表する」にとどめるべきだとも思っています。
思考力がまだきちんと定まっていない年齢の人たちにまで簡単にレイプ未遂シーンを見せつけ、なおかつ被害者が「完遂されなかったからハッピー!」のような、誤った表現を見せつづけられたら、いったいどんな影響が出るものか。
今はまだ時が浅く、その結果がわかっていないだけだと思われます。
不特定多数に向けて発表される作品は、たとえエンタメといえども視聴者、特に子どもたちの心の育成という点で、ある程度の配慮をしてしかるべきだと私は思う。
そういうことまで度外視して「オレ(私)たちの大好きな作品の表現の自由を侵すな!」と叫ぶのは、やっぱり通らないかなと。
……ふう。
付記だといいながらかなり長くなってしまいましたね、すみません。
皆様はどのようにお考えになるでしょうか。
ではでは、今回はこのあたりで!




