116 「さす九」について思うこと
はいこんにちは。
唐突ですが皆さんは「さす九」という言葉をご存じでしょうか?
とあるSNS内で少し前に広まっただけの造語(?)なので、ご存じでないかたも多いだろうと思います。
ということで、先に軽くご説明をいたしますね。
これは要するに「さすが九州」という言葉を省略したもの。しかも決して褒め言葉として使われるものではありません。
別に九州地方だけのことではないのでしょうが、日本にはまだまだ男尊女卑の考え方や習俗が根強く残っている地方があります。特に田舎ではその傾向が強いと言われます。
今回またこの「さす九」という言葉がクローズアップされたのは、西日本新聞のとある記事がもとでした。
当該の記事は有料記事のため私も全文は読んでおりませんが、タイトルのみ引用すると
「男尊女卑やゆ『さす九』SNSで拡散 九州の住民から「地域差別だ」の声」
《西日本新聞より》
とのこと。
前々からこの「さす九」という言葉に対して九州に住む人たちから「そんな人と一緒にしないで」「全部がそうなわけじゃない」「それが証拠に、うちではまったくそうじゃない」といった不満がちらほらと聞こえてきておりました。この記事は、こうした感情をまとめて「それは地域差別ではないか」と疑問を呈する内容だったものと推察されます。
すでに書きましたが、この男尊女卑の傾向は、別に九州に限ったことではありません。敢えて申せば日本全体にはびこっているもので、最近になってようやく、都会ではかなり薄まってきただけ……という気がしております。
ではその「男尊女卑」とはいったい、具体的にはどういうものか。
まず第一に、食事の場面で見られるもの。
たとえば地域の祭りや親類一同が集まったときなど、男たちは華々しく目立つ部分や、楽しく娯楽に興じるだけの部分を担当し、並んだ料理を楽しんで飲めや歌えで楽しむ一方、女性たちはふるまわれる料理そのほかを作り、準備し、かれらに供するために一日中台所や水まわりでの地味な仕事をする。一日中、男性たちと同じ卓につくことも許されず、料理を作って運んだり汚れた皿を引いてきて洗ったりといった地味な雑事をすべて任される。
出ているご馳走など、作った女性たちの口に入るはずもなく、残り物などで作った他のものを土間などでちょっとつまむぐらい。座れるのはトイレに入ったときぐらい……だというのです。
そのほかにも「一番風呂は家長から入る」とか。次が男の年長の家族、女の年長者……ときて、最後が嫁、とかね。
洗濯物を干すのも男の竿(高いところ)と女の竿(低いところ)に分けられていて、うっかり間違えて干してしまうと、激怒した父親(あるいは祖父)などにせっかく干した洗濯物を叩き落された、とか。
ところで、私の母方の祖父母は四国住まいでしたが、その息子である伯父は広島へ転居し、そこで家族と暮らしています。そしてそこでも、親戚の集まりがあればこれらと全く同じ光景が展開されていたものでした。
男性たちは宴会のテーブルから一歩も動かない一方で、他からやってきた家族である私たちでも女と見ればこき使われる。たとえ子どもでも「おさんどん」仕事に使いまわす。それがそこでは当たり前であり、「常識」でした。
一方で、男である弟たちは最初からまるで当然かのように「手伝いなさい」の声すらかからない。
こうしたことが、子ども心にもずっと疑問でしたし、不満にも感じていました。
宴会などの席のあれやこれやは私の実家でもほぼ踏襲されており、普段の食事のときから、「まず父から食事を出す」「父と弟たちは食卓から動かずテレビなど見ているだけ」である一方、母が料理のほとんどすべてを作って長女の私のみが当然のようにその手伝いを要求されていました。
しかも母は専業主婦ではないばかりか、むしろ全時間で働く看護師。夜勤もあり、相当な激務であるにもかかわらず、それでも家事・育児の一切は母が担っていました。そこへある程度成長した「女」であるところの私が手伝いをすることを期待されていた形です。
ちなみに父は愛知県出身であり、べつに九州とは関係ないのですが、それでも家庭内はこんな感じでございました。
はじめは不満に思いつつも「弟たちが幼いうちは、皿を落としたりしても困るんだろうし、仕方ないか」と無理にも自分を納得させて従っていたものですが、やがて彼らが中学生になり、高校生になっても事態がまったく変わらないことに気づいてからは非常ないら立ちを覚えました。そうして次第に、ゆるやかに絶望していったのを覚えています。
つまり「これはただの性別による差別・格差だったのだ」ということにだんだんと気づき、心がどんどん冷めていったわけですね。
母が看護師だったことも大きいのでしょう。つまり「こんなのアンフェアすぎないか?」と考えやすい環境だったわけです。
さて。
我が家ではそこまでのことはなかったものの、今回の件を通じて、九州地方の習慣についてよく知る方々がSNSでそのほかの様々な経験を披露されているのを見ることになりました。
どうやらあちらでは「男女別の学歴格差・就学差別」とでも呼ぶべきものが存在する様子。
親や親せきから「女には学歴など要らない」と堂々と宣言され、成績の悪い弟がたくさんの学費を出してもらえて大学へ行ける一方で、優秀な姉が高校すらまともに行かせてもらいにくい、まして大学など「もってのほか」とまで言われ、「金など出してやらんぞ」と責められるそうで。
奨学金で行こうと思っても、親にはお金があるわけなのでそれも難しくなります。進学が八方塞がりに持っていかれる。そうして若い女性が外へ出ていきにくいように足を引っ張り囲い込み、そのうえでなるべく早く地元の誰ぞかと結婚させようと周りが動く。
とある女性が書いておられましたが、進路が決まらず悩んでいたら、あっさりとどこぞから見合いの話を持ってこられたと。しかも相手はかなり年の離れた、40代や50代の男性だったり……。
そして、嫁にきた女性が万が一にも四年制大学を出ているなどと知られようものなら、家族・親戚一同で悪口雑言大会となる。学歴のある女性が周りじゅうからひどい言葉で集中攻撃までされる、というのです。
もう悪夢ですね。ここまでくると。
これが「男女差別」でなくしてなんだというのか。おっそろしい世界やね。
わずかながらも「あの空気」を知っている身としては身の毛がよだつような現実です。
そんな現実が、もう令和になった今の世にまで残っているとは……。
何度も言いますが、もちろんこれは九州地方にだけ限った話ではなくほかの地域にもある話なので、「さす九」という言葉そのものには問題もあるのでしょう。
……と思っていたら思い出しました。
四国の祖父母のルーツって、確かむかーし、子どものころに「九州だ」と聞いた覚えがあるのですよわたくし!(苦笑)
いやいや……私の中では結構な答え合わせになってしまったわけですね、これが。
今回の記事に関連したみなさんのご意見や報告を見ていると、当の地方にいる男性たちはむしろ「なんの問題もない」「女性たちは満足して暮らしている」と反論する人が大勢見受けられます。
この手の反論でよく見かけるのが「むしろ家の中では女の方が強い、外では男を立てているだけ。女が男を手のひらの上で転がしてうまいことやってるんだ」というもの。
このセリフは実際、女性の口から聞くことも多いです。私も耳にしたことがありますしね。
ですが、果たしてそうなのか?
「女はこういう生き方が幸せなんだぞ」と生まれた時から刷り込まれていれば、何が本当の幸せかななんて考えることも、疑問に思うことすらもできないのでは?
そうやって女性たちから思考力も選択肢も可能性も奪って、自分たちに都合のいい形に育てておき、自分のいる地方や家の中に押し込めておこうとする。これには凄まじいまでの執念というか執着を感じて恐ろしい気がしてきます。
ところで男性たち自身、そこまで「自分は男尊女卑だ」という認識の人は多くない様子。というか無意識にそのようにふるまっているように見えます。まあ男性だって、生まれたときからそのように育てられてきていればそうなる。当然ですよね。
差別の最も怖い部分ってコレなんだろうな……と思ったり。
差別する者は、えてして自分の差別する傾向に気づいていない。むしろ「私はいい人だ」と信じて疑わなかったりするもの。
これはむしろ、自分自身の中にもある危うさであろうと思います。「あらゆる側面に対してフェアでいることができる人間」なんていません。人はどこかで、なにかしらの偏りを持って生きているものです。それが、ある種の人々への差別心でないと自信をもって言える人は本来、いないはずなのです。これは本当に、謙虚な気持ちで自戒していきたいところですね。
そもそも認識もできないもの、認識すらしていない自分の傾向は「無いもの」と見做される。ゆえに何十年たとうが何百年たとうが改善されることがない……いや、かなり改善されにくい、のだろうなと。
ともあれ、こんな風に若い女性たちを囲い込み、洗脳して動きが取れないようにあやつって地元にとどまらせようという企みも、そろそろ限界が来ることでしょう。
事実いま、地方から若い女性たちはどんどん逃げ出しているとのこと。さもありなん、ですね。
九州から逃げ出してきたという女性たちの多くは「さす九はあるよ」といい、地元にとどまっている男性たちは「そんなものはない」と言う。その事実は、かなり正解を暗示しているような気もします。差別というのは、する側よりされる側が強く認識するものだからです。
どうか九州に限らず、似たような状況にある地方の女性たちが、どうにかしてその檻から抜け出し、男女差別意識の薄い場所で平和に生きていけるようにと心から願うものです。
ではでは、今回も長くなってしまいましたがこのあたりで。




