100 映画「哀れなるものたち」
こんにちは。
なんだかんだ、このエッセイもとうとう100話目となりました。なんか書いてる本人が信じられない気分です(笑)。
ともあれさっそくですが、本日もまた映画のご紹介を。
〇「哀れなるものたち」(原題「Poor Things」)
2023年製作
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:トニー・マクナマラ
主演:エマ・ストーン
イギリス 142分 R18作品
こちらはまあ、各所で話題にもなってましたしね。インド映画に明け暮れるかたわら、こういう映画のほうにも次第に食指が動くようになってまいりましたつづれです(笑)。
ご存じのかたも多いかと思いますが、こちらは第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最高賞である金獅子賞を受賞。このほか、第96回アカデミー賞でも主演のエマ・ストーンが主演女優賞、さらに美術商、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています。そのほか第81回ゴールデングローブ賞では最優秀脚本賞。
原作のある作品で、もとになっているのはスコットランドの作家アラスター・グレイによるゴシック小説なのだそうな。
監督は、「女王陛下のお気に入り」や「ロブスター」「聖なる鹿殺し」などで奇才の呼び声も高いヨルゴス・ランティモス氏。とはいえこちら、わたくし未見でして。今回の映画を観て、ぜひそちらも観てみたいなと考え中です。
ということで、ちょっとだけストーリーのご紹介を。
冒頭は、人生に疲れたような表情を見せている美しい女性の自殺シーンから始まります。そこは青が印象的なカラーの画面なのですが、その後、なぜかしばらくモノクロ映像に変わります。
そこでは、冒頭の女性と同じ顔をした不思議な女性が、これまた不思議な屋敷の中でさまざまな奇行を繰り返していました。
なんといいますか、まるでやんちゃな幼児のような態度と行動。歩き方もなんだか違和感がある。初対面の男性の顔面をいきなりぶったたいたり、突然大笑いしてみたり……という。でも見た目は完璧に大人の女性なのですよね。
この女性ベラは、実は自身が妊娠していた赤ん坊の脳を、天才外科医・ゴッドウィン・バクスターによって移植された存在だったのでした。
その業績を示すかのように、屋敷のなかには頭がアヒルで体が犬、というような不気味で奇妙なキメラ動物がいろいろ飼われています。
つまり体は完璧な大人の女性、頭は胎児(あるいは幼児)というアンバランスな存在として登場。
バクスター医師は彼女を屋敷から一歩も外に出そうとしないのですが、ベラは「外の世界をこの目で見て感じたい」と強く願っています。そこへつけこんでくるのが、放蕩ものの弁護士ダンカン。あれやこれやとベラを誘惑し、とうとう屋敷からつれだしてしまいます。
この作品のすさまじいところは、R18作品であり、赤裸々なセックスシーンなどが随所にありながらも、決してそれがいわゆる「エロ」とは結び付かない表現になっているところ。
ベラは様々な男性とのセックスに興じていくことになるのですが、本当に純粋に、ただただそれを「快楽」「楽しいこと」ととらえて大喜び。楽しい遊びやスポーツにめぐりあった子供とまったく変わらない反応で、男性と体を重ねる……という描写になっています。
彼女を誘い出し、「ちょっと遊んだらポイしよう」と思っていたらしきダンカンは、最初の思惑とはうらはらに、あまりに純粋で奔放な彼女に逆にほれ込んでしまい、あっけらかんといろいろな男とのセックスに平気でうち興じるベラを次第に支配したくなってきて、どんどん精神的に病んでいきます。
本来、性的に搾取されがちなのは女性なわけですが、彼女はなにをどうやっても他人から搾取される側にはなり得ない。「え? そんなのイヤよ」で終了。
また逆に、お金がなくなってしまって困ると、やっぱりあっけらかんと娼館に足を運んで娼婦になっちゃう。しかしそこでも普通の娼婦とはまったく違う行動に出て、周囲を驚かせることになります。
果たして彼女の見た世界とはなんだったのか、そこから彼女はどう成長していくのか……と、目が離せません。主演のエマ・ストーンの体を張った演技、そればかりでなく、ベラの目つきや歩き方からして、最初と最後ではまったく違う。この演技力のすさまじさよ……。
あと、お衣装もとても印象的です。
ちょっと前の近世をイメージした街並みなのですが、ベラは大抵すごく大きなふっくらお袖にミニスカート、ハイヒールブーツみたいなファッション。これが妙にかわいくてスタイリッシュなのですよね~。
ともあれ、この映画には、いろんなことを考えさせられました。
いわゆるフェミニズム映画でもあるんだろうと思いますが、タイトルでもある「哀れなるもの」とはいったいだれのこと? と考え始めるとね……。
どう考えても、あっけらかんなベラよりは、社会規範にしっかりつかまっている上に、彼女に翻弄されまくる周囲の男性たちのほうがずっと哀れに見えてきてしまう。
あいや、でもあまり言うとまずいですね。
やっぱりご自身の目でご覧になるのがよろしいかと思います。
ではでは!




