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偽物側

作者: 弥生

 カタタタタタタタ、と殺意の銃弾が打ち出され、銃は跳ね上がる。

 その結果を観測する必要はない、と射手は考えている、背を向けた相手に対しての至近距離からの一撃であるからだ。

 衆目の集う憩いの場、不意の一撃。

「どぉだぁ、殺っただろ?! 海だ! 血の海!! いやったぁぁぁぁぁあああああ!!」

 叫び、嬌声をあげて喜び荒ぶ者のご自慢の一品の銃口は熱く焼け、まともに使えそうにはない。


 おう、お前ら見たか今の一撃、あいつもたいしたことなかったな、俺の勝ちだ!


 誰も答えない。テーブルゲームにいそしむ男も、恋愛論を語る女も、ただグラスを磨くマスターも。


 チッ、何だよ、しけた連中だな、こんなド派手な花火がみれたっていうのによ。


 そして、その者は帰っていった、歓喜だけを残して。


 酒場では何も起きていなかった。ただ、普段通りに語る一般人の中に突然興奮する患者が入ってきて歩もうとした方向にいた少女が「それは不許じゃない?」と呟いた瞬間に、患者は歓喜して帰っていったのだ。

 少女は無意味な行動や余分な過程を好まない。そして、いつからだろうか、そうした出来事や自分をなかったことにすることができるようになっていた。

 なぜそのような力が芽生えたかはわからないが、以前から好物の紅茶は自分の好みの時間以上でも以下でもなく蒸らさないし、茶葉の分量は揺るがない(これはただの趣味だが)、強欲や悪徳も好ましくないと考えている。そのような性格から芽生えたんだろうと深く考えないようにしていた。

 だが、強欲や悪徳な理不尽を許さない性格からか、いくらか憎まれることもあり、先ほどのような出来事も日常茶飯事となってきた今、彼女は少々悩んでいた。

「最近こんなことばかりで面倒くさいよぅ! もう連中○○○○してもいいよね!?」

 そういわれて困ったのは周りの知人、友人である。正々堂々とした立ち回りをする以上人とぶつかるのはしょうがないことであり、避けようのない事態であるからだ。

「まぁまぁ一緒に遊んであげるから気を晴らして」

 酒場にいた道化師は言う。

「まぁ、ありがとう、でも何をして遊んでくれるの」

 少女はぱぁ……と笑って尋ねる、提案される楽しいお遊戯の数々に少女の顔はみるみる晴れていく。こうして普通に遊ぶ分にはただの少女なのだ。決して、特別でもない。そう道化師は思っている。

「じゃあ今度屋敷でお茶会ね、アリスのティーパーティーみたいな!」

「そうですね、とても楽しそうです」

 また、荒くれどもが来ることはわかっているし、少女がどこかに突っ込むこともわかってはいるが道化師はよかった。これでひとまずは気を取り直してもらえましたと一安心。

 歓談は夜まで続きました。

 

 所変わって


 薄暗い路地、動き回るネズミを踏んづけてあんぐりといただく先ほどの闖入者。

 がっつがっつがっつがっつと帰る足取りは力強い。

 そして、普段ねぐらにしている荒くれどもの巣に戻ると、ネズミの骨と皮だけを吐きだし自慢げに報告をはじめた。

「うぇひひ、ついにやったぜ、あの憎いあんちくしょうをよぉ、今度こそ仕留めたぁ!!」

 おおおおおー!

 荒くれどもが一様に盛り上がる。

「やったか、これで何度目だ」

「通算65回目の再起不能です!」

 壁にナイフでスコアを刻んでいく男。

 再起不能というのは、少女が舞い踊った舞台の数、もっとも、彼らにとっては少女が負かされた数、になるのだが。

 そして巻き起こる少女の名前を呪う言葉の渦。渦。渦。

 仕留めた(とされる)男を称賛する声。声。声。

 この空間は異様な熱気に包まれている。ヤニ、血、汗、精液、汚物、それらの匂いがこびりついたものを香水で無理やりぶっとばした臭気は何とも言い難い。

 なぜ、彼らは殺せてもいないのに勝ち誇るのだろう?

 その理由は起きたことの感覚。というのが気持ちのいいものではないことにある。

 何度なかったことにしてもそれが起きたことに気づいてから、分解、反対するので、ある程度の苦痛や相手の勝ち誇った表情というのが伝わってきて、決して気分が良くないからだ。

 だから、彼らは少女を不愉快にさせた段階で勝利とする。

 故に少女は○○○○してやっていいかと叫んでしまったのである。

 少女もやはりというか、たまには参ることもあるようだ。

 そんな少女の憂鬱と彼らの歓喜を引き裂くがごとく、一つの声と破裂音が響き渡る。

「ユウビーン」

 ギャッシャーン……

 スプレーで自己主張された窓を突き破って、一通のお手紙が届けられた。

「お、おい、お手紙だってよ……」

「お手紙、ったって、こんな自己主張の強い郵便物触りたくねえよ…」

 手紙はフリフリのリボンで飾り付けられ、この場にはそぐわしくない。

「けっ、何ビビってんだよ、どうせ少女の振りした対抗勢力からの嫌がらせ……」

 そういって手紙を開いた男の額から大量の冷汗が流れ出す。

「おい、おい、なんて書いてあるんだよ!」

「……しょsyそしょ、少女から……の、お茶会のお知らせだ」


一同「なんだってー!」


 荒くれどもはいきなり慌てふためき始めた、これまでこちらからちょっかいをかける一方で、何もしなければ襲ってくることの無かった少女が自ら手紙を送ってきたからだ。

「これは宣戦布告か!」

「それとも皆殺しの合図か?」

 まともにやりあえば荒くれが皆殺しにされるのは必須。

「早く遠くの街に……逃げ逃げ! るんだよ!」

「逃げたってことをなかったことにされるだけだろ!」

「じゃあ皆で「招待される」しかないのかよ?」

「待てよ、あれが殺すのを好まないのは知ってるだろ、話し合いの場だろ」

 比較的に冷静な、冷静になりたい男がそう祈るように皆に問いかける。

「そ、そうだ、そうだな」

 一同はその言葉を聞いて、ほぅと一息つく。

「とりあえず失礼のな、無いようにみだしなみだけ整えてお、おこうかな」

「馬鹿かお前は、さんざんやりあってきた相手に失礼も無礼も…俺もそうしよう」

「日取りは?」

「指定なし」

「……いつでもやれるっていう意味か?」

 男たちは困惑しながら、少女に手を出す危険性を改めて痛感する。

 なんで今まで調子に乗って手を出してきたんだ。と。


数日後

 少女が道化師に問いかける。

「あなた、私のレターセット勝手に取ったでしょ!」

 むくれながら道化師に向かって顔を突き出してくる彼女は愛らしい。こうしていればただの愛玩動物めいた可愛さも少しは所持しているといえる。

「すいません、あまりに美しいレターセットだったので手に取って眺めていたら風に飛ばされて…」

 嘘ではない。

「ムゥ、そうなの? どこに行ったのかしらね、あのレターセット」

 友好的な人物の言葉はあまり疑わない少女である。

「そうですねえ」

 たぶん、もぬけの殻になった連中のアジトのあたりだろうか。

「まぁ、最近平和で気分いいから許してあげる、でも今日は貴方のおごりよ」

 少女の紅茶は高い。店にある本格派の茶葉を自分好みにブレンドするという恐ろしい行為を行うからだ。

「えー」

「えー、じゃない、あのレターセットに書いてあったことも見たんでしょ!? レディの文章をのぞき見すような行為をする事をそれぐらいで許してあげるんだから安いものでしょ」

「はい……」

 どんなのが来てもこの少女には勝てないでしょうねえ、と思いつつ、道化師は少女がセレクトする茶葉を見て卒倒していた

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