メイドの悩み
生活は順調かと思われたが、問題がある。
よくある問題だ。
掃除道具がある部屋の隣には部屋がある。
メイドたちの休憩室だ。
これはジャクリーンの監修のもと作られたらしい事をミヤビは聞いている。
そこで仲良くなったメイド仲間からだ。
「ミヤビは最近忙しいそうだね」
「そんなことないわ。ジェシカだって大変じゃない。私は夜の巡回は免除されてるけど」
そう言いながらお茶を啜る。
ミヤビと話している相手はジェシカだ。
ジェシカはここのメイドの1人で、仕事を淡々と熟している。
ミヤビに色々教えてくれる唯一のメイドだ。
慌ただしく道具を出し入れしているミヤビにジェシカが話しかけて手伝ってくれたのが彼女たちの出会いだ。
それから、少し暇ができるとここにお茶を飲みに来る。
ミヤビは特別扱いをされている部分がある。
仕事の1つにマリアの元へ通う事も含まれているからだ。
そのため他のメイドとは余り話をしない。
だからこそ、ミヤビにとってジェシカはありがたい存在だった。
「巡回なんて眠いだけで大変じゃないわ。たまにしかやらないし」
「でも私はやった事ないし・・・。ねぇそれって怖いの?」
「まぁ暗い所もあるけど怖くないわよ。この城のどこに危険があるっていうの?」
そう言われればそうだった。
この城は厳重に警備されていて、特に夜になると緊急のことでもない限り微動だにしない。
緊急な事態もミヤビが来てから起こってないのだから、安全極まりない。
「あ、そろそろ仕事もどるね。じゃあねミヤビ」
彼女はそう言い残してジェシカは去る。
ミヤビもそれにつられて仕事に戻ろうとする。
そこで声をかけられた。
「ミヤビさん?」
ミヤビが声の方を見ると2人のメイドがいた。
カロルとクロエだ。
彼女は気が強く、メイドを纏めている。
ただ、ジャクリーンのようにに仕事が前提の上司と部下の関係ではなく、嫌な仕事を誰かにやらせたり、無理やり納得させたりと荒いこともしている。
それもジャクリーンに知られないように配慮してだ。
いじめっ子という物に近い。
だから、ミヤビは意識して近づかないようにしていたのだ。
「どうしたのですか?」
ミヤビは嫌な顔を表に出さないように返答した。
「ミヤビさん最近頑張っているようじゃない?どうやっていきなりマリア様に取り入ったか聞きたくって」
「そういえば、見た目が似ているわね。それだけでお気に入りになれるんだからラッキーよね」
ミヤビは理解した。
この2人は嫌味を言いに来たのだ。
こっちの苦労も知らないで、とは思わない。
こう言われるのは予想済みだったからだ。
「私も幸運に思います。良き上司や良き同僚にも囲まれていますから」
思ってもないことをと自分でも思う。
だが、こういう人たちは敵に回すと何をするか分からない。
とんでもないことを平然とやってのける。
それはいままでの人生で学習済みだった。
とはいえ、私自身がされる側になるのは初めてね。
普段の自分は影が薄く、人と関わらないようにして生きてきた。
自分が大した人間ではないことを自覚していたからだ。
「ふーん?良かったわね」
ミヤビの返答を聞いた2人はつまらなそうにして立ち去る。
ミヤビは心のなかでため息を付いて、仕事に戻る。
部屋の掃除だ。
掃除を素早く済ませて次の部屋へ。
そしてそれらが終わるとまたマリアの部屋に言った。
「来たのね!」
マリアはいつも来たことに喜んでくれる。
それだけで先ほどカロルとクロエに受けたストレスも吹き飛んでしまう。
いつものこの時間は取り留めもない事を話すだけだが、今日は違った。
「ごめんなさいね。やることがあるから、ちょっと待っててくれる?」
いつもの通りベットにミヤビを座らせて、マリアは書類に目を通している。
「お忙しそうですが、お茶でも淹れてきます」
ミヤビはそう言って立ち上がる。
「うん・・・いや待って」
お茶を入れようとしているミヤビをマリアは呼び止めた。
「今年は作物の育ちが悪くなりそうなの。貴女の意見を聞きたいわ」
「私が・・・ですか?」
マリアは頷く。
そうして手紙を差し出す。
内容は収穫率が芳しくないこととなどの自治の不安点だ。
それをまとめてマリアに送って意見を求めているんだ。
ミヤビは首を横に降った。
「私にはわからないことです」
そう言った。
「でもわかっておいたほうがいいわ。貴女は私のメイドなのだから」
「それは・・・」
ミヤビは語尾を濁す。
「まぁ見るだけ見ておいて。考えるのは私がやっておくから」
そういって続きを読む。
それから夜が更けるまで、マリアとその話を続けていた。