表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女の異世界奮闘記  作者: 羊洋士
第二部 下 ~開戦~
37/44

撤退戦

敵わぬ戦を挑むマリア軍はついに逃走へ。

マリアは退却を命じる。

数で負けたこの戦いでこれ以上長引かせるのは不利になる。

初手でこそ相手を翻弄できたが、それは一瞬だけで後には続かない。

退却は当然だった。

だが、マリアはその当然の判断に情けなさを感じる。

遅すぎた。

これでは被害が大きい。

敵は隊列を組み直し始める。

もう少し時が経てば敵は完全に陣を敷きこちらを押しつぶすために迫ってくるだろう。

そうなればこちらの全滅は必至。

だが弱気を見せないのが将の勤めでもある。

マリアは震える心を押し込めて、必至に叫ぶ。


「退却だ!!全力で走れ!!」


なりふり構わない逃走は、敵を自国に招き入れることになる。

そうなれば負けだ。

だが、そもそもが負け戦なのだ。

やらなくて済んだならと、そういう気持ちが起こる。

その退却中のマリアに声をかける姿がある。


「敵将を獲ってきます!!兵達に祝福をください!!」


そう掛ける声はレクスのものだ。

レクスは100を少し超える隊を纒める隊長。

彼は先の衝突でマリアの軍の後方に位置させていた兵達。

後ろから雄叫びを上げ続け、兵たちを叱責させていた。

それゆえにマリアの手勢の中で一番と言っていいほど士気が高い。

ガイウスがそう育てたのだ。

軍の士気を上げるため、マリアの声に一番に答える兵たちに。

そして、命を賭してマリアの命を守る強者に。

マリアは頷く。

この状況で敵将を獲るとと言った意味をマリアもレクスも理解していた。

それはここに残って自分の大将を逃がす役目。

壊滅覚悟の特攻をする役目だ。

理解した上でマリアに声掛けを要求してきたのだ。

マリアは内心で悔やんでいた。

出来れば彼らを使いたくはなかった。

マリアは戦って命を落とす尊さを理解できないところがあった。

命を落とさないほうがいいに決まってる。

それでも、姫という立場が彼女のその気持を口にだすことは許さない。


「貴殿らの武勲は我々の勝利には必要だ!!必ず打ち取って戻ってこい!!」


マリアの声掛けにレクスは頷く。

そして自分の部下に言った。


「姫様の祝福を賜ったぞ!!我々は誰よりも幸福な兵となった!!」


「おおおおお!!」


彼らはそう言って敵に向かっていった。

敵が本格的に進軍をする正面から中核に飛び込むように突進する。

レクスを先頭にして紡錘型の人で、真っ直ぐレオニールに向かっていった。


「我々は勝利の礎となり、自軍に貢献する!!」


「おおおおおお」


100余りの怒声がその何倍の敵に向かう。

その男たちは敵陣に切り込んだ。

味方が倒れても、隣のものが射抜かれても前だけを見て突進していく。

レオニールを打つために。

それを見たレオニールは心のなかで賛辞を送らずには居られなかった。

おお!!これぞ戦よ!!

己の在り方をその生命を燃やして表現する。

あるのは役割だが、そこに心が灯れば強き力となる。

これだ!!これこそだ!!

これこそが戦場の華にして、それをさせうる将であらねばならない!!

そういう気持ちが自分にあった。

高揚する気持ちを抑えられないレオニールは、この戦場を作ったマリアにも感謝をした。

だから、全軍を持って突進する100余りの強者に対して言った。


「見事なり!!」


突進してくる敵に対して動揺している味方に対して命じた。


「臆するな!!引くな!!」


そう言いながら、剣を高くあげた。


「進軍!!」


レオニールは正面から受け止める事を選択した。

下手に受け流すより、正面から受け止めたほうが被害も少ない。

そう思った。

命を賭して突進する兵というのは、少数でも侮れないものだ。

100余りの突進とレオニールの軍は衝突する。

次第に減っていく100余りの突進であっても、その意気が曇ることはない。


「敵将は目の前だ!!」


1人1殺以上の武勲を上げつつ、レオニールに接敵していく。

だが、確実に1人また1人と人数は減る。

そしてレクスと残り数名になった。

数名は敵に囲まれながらも決死に剣をふるっている。

目の前にはレオニールいるというところまで迫っていた。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


剣をふるいて敵の槍を弾く。

だが、もう特攻の勢いは潰され、ただ囲まれるだけとなる。

それでも諦める様子はない。

レオニールは彼らを讃えた。


「よくぞここまで戦った。その忠義、見事なり」


それにレクスが答える。


「ならその首を差し出せ!!レオニール!!」


レクスはそう叫んで、レオニールに1人で特攻を掛けた。

レオニールに走りだした瞬間、レクスを囲んだ兵達が槍を突き出す。

走るレクスの体に、槍が刺さっていく。

レクスはそれに構わず前に進む。

レクスは俺は今は幸せだと思った。

突進し、命を落とすという意味ではなく、突進し敵将に挑めるという事に対して。

敵将に真っ向から挑めるチャンスなどほとんどありはしない。

普通は兵の一員として、陣を敷き打ち倒し、打ち倒されるだけだ。

だが、それではつまらない!!

多数の一部であるより、少数の猛者となり敵に挑む!!

だから、姫には感謝していた。

これこそが我が人生だと、そう胸を張って言える。

だから逃げ延びて欲しい。

そして叶うならば・・・。


「勝利を!!」


レクスの前に出る体に槍が次々と刺さる。

それでも歯を食いしばって進む。

一歩、また一歩踏み出す。

だが、槍はどんどん多くなる。

最後にはふとももに槍が貫かれた。

足を止める。

だが、倒れない。

それに対してレオニールは手を上げて、振り下ろす。

それを合図に無数の槍が一斉にレクスの体を貫く。


「ぐっ・・・がはっ」


レクスの意識は途切れようとしていた。


「前・・・へ・・・」


その言葉がレクスの最後の言葉となる。

レオニールは目の前の猛者が息絶えたことを確認すると全軍に告げた。


「距離はそう離されていない!!進め!!」


レオニールの軍は少し遅れはしたものの、その進行は続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ