戦転び
両将が互いの腕を探る序盤。レオニールはそれによってマリア軍への攻め方を考える。
アリスとレオニールの接敵から少し時間が経つ。
両将の戦闘は初手で互いの剣を弾き合いだけで終わった。
マリアの兵たちがそこでマリアに追いついたのだ。
マリア軍は己の将を囲い守りを固めた。
それに呼応するようにレオニールの軍勢もレオニールを囲う。
両軍ともその将は、最前線より一歩下がった所で戦う。
戦況はレオニールの軍に軍配が上がりつつある。
それはそうだとレオニールは思う。
数が絶対的に違うのだ。
最初でこそ奇襲に近い、矢の攻撃でこちらを乱しはしたもののそれも今では落ち着きつつある。
落ち着いてしまえば後は数が物を言う。
マリアの軍は少しずつ押され始めている。
「囲め!!」
レオニールの軍勢の後方にいた兵たちは前線を囲うように雪崩れ込む。
レオニールはこの戦の勝利を確信していた。
だが、驚くべきはマリアである。
齢も若く、女の身でありながらよくここまで戦った。
この奇襲の成功は彼女が常に味方を励ますための怒声があったからこそだと思う。
アリスティアの第六子は無能であるという噂だったが、蓋を開けてみれば勇将であった。
さすがは武に聞こえたアリスティア。
こんな少女と呼べる姫であっても、寡兵でここまで出来る。
勢いでこちらの兵を削られたのは1000には及ばないまでも、それに迫っているだろうとレオニールは思った。
だからこちらも多勢の利を使わせてもらわねばならない。
ここまで戦ったマリアに対しての礼儀だ。
そこがレオニールが猛将といわれる由縁はここにある。
戦に対して誠意を忘れず、強敵に対しては尊敬の念を忘れない。
根っから戦が好きなのだ。
そして時間は経過する。
レオニールの軍勢がマリアの軍に対して囲い込みを終了させるのは近い。
その時になってマリアは叫んだ。
「退け!!これまでだ!!」
レオニールはその指揮に対しても、マリアに名将の器を見た。
劣勢を感じ取ったのだ。
多くの将が、自らの劣勢を知る時は負けた後だ。
覆せないところまできてやっと気づくのだ。
自分が負けているのだと。
それにすら気づかない将もいるというのに、この姫はそれに気づいた。
初陣らしいとはもう思わないほうがいい。
この姫が経験を積んで、戦の巧みさを学んでしまったら大変なことになる。
「押し潰せ!!姫を捕らえよ!!」
レオニールはそう叫んだ。
この姫はここで殺しておかないともうチャンスが無いかもしれない。
それほどの物をレオニールは感じていた。
マリアの軍勢はマリアを囲うように撤退していく。
だが遅い。
レオニールの軍勢はマリアの軍勢を押しつぶす。
レオニールの軍勢は前進の速度を上げていく。
加速したレオニールの軍勢は次々とマリアの兵たちを切り裂いていく。
それに対してマリアは本格的に逃げる。
「姫様!!」
兵たちは姫の身を案じる。
それに対して姫は叱責する。
「構わず逃げろ!!命を守れ!!」
レオニールはその命令を聞く。
そして少し残念な気持ちになった。
ここまでは名将の指揮だったが、ここで戦慣れしていない部分をこの姫に見た。
将たるものは最後まで残り、1人でも闘いぬく気概を持たなければならないのは言うまでもない。
が、実際それを実行してしまってはいけない。
そこで将が死んでしまったら、誰が兵を纒めるのだ?
指揮なき軍など烏合の衆だ。
散り散りにわかれて全滅するし、完全敗北という汚名まで残る。
それは将にとっては屈辱の極みだ。
将が自分の命を粗末にすること以上の失策はない。
レオニールはそう感じていた。
ただの人を殺せるだけの善人に将は務まらないのだ。
殺して置かなければという義務感と、死んでほしくないという本心がレオニールの中で同時に存在していた。
この姫の完成形と戦ってみたい。
その本心が彼を至極残念にさせた。
「潰せ!!」
大軍がマリアの軍を蹂躙するため勢いづきつつあった。




