布陣
必要な物を揃えていく。
それも大詰めだ。
「そういえばアルマン。貴方今回の戦に参戦してくれるのかしら?」
マリアは夜食を食べながらアルマンに質問した。
昼は訓練と情報整理、あと作戦を行えるように合図の徹底。
それらを詰めて着々と戦の準備を続けていた。
そしてそこにはアルマンの姿もあり、自分の兵に指示を出していた。
だが、マリアはふと思う。
そういえば、参戦する意思をその口から聞いていなかった。
作戦を聞いて考えると言っていて、それで作戦の巧緻はともかくツボには入っていたようだ。
だからといって参戦するだろうとは限らない。
「今更だな。なんで今更そんな事を訊く?」
「意思確認のためね。いざ始まるときに一歩を巻いて逃げられても困るもの」
そのマリアの言葉にアルマンは笑った。
「いうねぇ。でも俺がそういう風に見えるか?」
「見えるかどうかはともかく、言葉で聞いておこうと思ってね」
「まぁそうだな。確かに作戦に参加できるように指示を出しているが・・・どうしようか」
アルマンはニヤリと笑った。
そして考えているというふうに顎を手でさすった。
「今更何を言うか!お前がいる前提で姫様も俺も動いているのだぞ!」
ガイウスはアルマンの態度に叫んだ。
「ガイウスさんは真面目だなぁ。ちょっとしたいたずら心ですよ。もちろん参戦しますとも」
「いたずら心だと?ふざけるのもいい加減にしろ!」
「もっと心の余裕を持たないと。ほら姫様だって笑っていらっしゃるでしょう?」
そうしてアルマンは笑みを浮べているマリアを示した。
対してマリアはその笑みを崩さずに返答した。
「あら?笑っているからって余裕があるとは限らないわよ。それに私は冗談が嫌いなの」
マリアは至って冷静に言った。
「へ、へぇ。そいつは知らなかったなぁ」
アルマンはマリアの言葉を聞いて少し引き気味になる。
「冗談よアルマン。本気にしないで」
マリアはそのアルマンに落ち着かせるように言葉を発した。
「姫様には敵わねぇな。でもま、そのぐらいでなきゃな」
マリアは頷いた。
「これで、作戦に必要な人材のほとんどは揃ったことになるわね」
マリアはそう言った。
それに対してアルマンとガイウスが疑問符を浮かべる。
「ほとんど?これ以上に援軍が来るとでも?」
ガイウスが質問した。
アルマンも同じ気持だろう。
両者を見てマリアは頷いた。
「そうね。あと1人ぐらい指揮官が欲しいと思っていたの」
「あと1人?だが今、指揮官をできる人間を招聘する余裕は・・・」
ない、と言いたいのだろう。
マリアも同意だ。
「招聘する余裕はないわ。だからスカウトしてきたの。シオン。入ってきて」
そう言ってマリアは食堂の出入り口の方に視線を向けた。
それに釣られるように、ガイウスとアルマンも見る。
「なんだか照れるね。そういう紹介されるとさ」
ガイウスとアルマンは驚いた。
突然声が聞こえたのだ。
それも出入り口の方からではなく、マリアの方向から。
ガイウスとアルマンは驚いて視線をマリアに向ける。
するとマリアの後に佇む女がいた。
薄い布で、サーカスの女花形のような綺羅びやかな服装をしている。
「誰だ!?」
ガイウスが怒声を混じらせた質問する。
「私はシオン。この前から姫の配下に加わったのさ。よろしく頼むよ」
言い終わるとシオンは笑った。
「イオンには500程の隊を任せる予定よ。人選はこの前来た騎士が派遣してきた兵達。それを一度任せてみるつもりよ」
「姫様。こんな得体のしれない者に、兵を与えていいのか?」
「そうでしょうけど、腕はいいわよ。見たこと無いからわからないけど」
「腕?」
「諜報と暗殺だって」
それを聞いてアルマンは大きな仕草で天井を仰ぐ。
わざとらしい動作のあとに言葉を言う。
「あー姫様の配下は変わり者ばかりになってしまうなぁ」
「アルマン。貴方も人のこと言えないでしょう。とにかく山では隠密はマイナスにならないわ」
「それでも、兵を預けるという事は、姫自身の信用も預けるということだ。この女にどれほどの腕があるというだ?」
「まー普通そうだろうね。でも、ガイウス様もアルマン様も私がいつ入ってきたか気づいたかい?」
ガイウスは黙りこむ。
確かに入ってきた瞬間は分からなかった。
「アルマン。貴様はどう思うのだ?」
「別に構わないと思いますよ。俺の邪魔をしなければ。今回はその可能性も低いですし」
「そういう問題か?」
「まぁまぁ。得体のしれないって言うなら俺もそうじゃないですか。今更ですよ。それより姫様。どこでその美しい女性と知り合ったのですか?」
「ああ。それはね。シオンには前に暗殺されそうになったのよ。それから友だちになったの。アルマンの事調べてくれたり結構ありがたかったわ」
「なるほどなるほど、それでか・・・」
アルマンは納得した。
何故姫が1人で自分に会いに来たか、その仕組が分かったのだ。
対してガイウスは今の会話の内容が分からないが、とりあえず話を続けることにした。
なにせ、アルマンは歓迎ムードすらある。
ここは自分がしっかりやらなければいけない。
「暗殺されそうになった相手を仲間に引きこむとは・・・本気か?信用できる相手なのか?」
それに質問に対して答えたのはシオンだ。
「そんなに手放しで信用されたら困るね。私はビジネスでやってるんだ。まぁ心入れはあるけどね」
ガイウスはその言葉を聞いて、シオンをギロリと睨んだ。
そのままシオンに質問した。
「シオンとやら。手軽に引き受けてもらっては困るぞ」
「当たり前さ。仕事は熟してこそ仕事さね。出来ないんならただの徒労さ」
そう言ってシオンは物怖じせずガイウスの質問に答えた。
ガイウスはその返答を聞いてため息を付いた。
「はぁ。とりあえず、"姫様を"信用することにしよう。して、ビジネスというなら何が望みだ?」
「まぁ少し兵をくれってことさ。数名でいい」
「うむむ」
ガイウスにしてみても、アルマンにしてみてもこれは不服だろう。
2人共自分の兵を自分以外に渡すのは好きではない。
だが、今はその兵をどう使うかを訊くべきではない。
もう姫様と女の間で成立している離しなのだ。
今更口を挟むべきではない。
確かに、人手は欲しい状況であるし。
「その女が入ることで作戦に変更はあるか?」
「彼女のは前はシオンね。ガイウス。作戦に変更はないわ。私を手伝ってもらいます。それで2人共お願いね」
「オーケーだ。俺の方に不満はない」
「俺は配置に今でもわだかまりはあるが、とりあえずいいだろう」
ガイウスは未だにマリアが先頭に立つことを懸念している。
そこまで心配していて、それでもやらせてくれているのだろうと、マリアは感じた。
それに感謝の気持ちを持って、心のなかで礼を言った。
ありがとう。ガイウス。
「さぁシオンも座って。今食事を持って来るから。ジャクリーン。お願いね」
「ん?私の分もあるのかい?」
「ええ。頼んでおいたもの。ジャクリーンは言ったら出してくれるけど、言わなかったら絶対出してくれないから。この屋敷で一番強いのは彼女だから気をつけて」
「ははは!騎侯士も騎士も差し置いてメイドが一番ってか。そりゃあ面白いね!」
「でしょう!」
マリアは楽しそうに笑った。
それを見てガイウスはアルマンに呟いた。
「姫さまは変わってるな。それもだいぶ」
「そうですね。でもいいんじゃないですか?」
「お前いつまでその話し方なんだ?砕けた話し方でも俺は怒らんぞ。よもや・・・」
「まだ、抵抗あるみたいですね。しばらくは敬語でお願いします。まぁそれもそれで気に入らないかもしれないですが」
「全く。あの姫には変わった人間しか集まらないのか?」
「ガイウスさん。鏡。持って来ましょうか?」
その発言にガイウスは黙る。
そして拳を握り、プルプルと震えている。
この若造が!!
そういう気持ちなのだろうとアルマンは思った。
ガイウスは顔を上げた。
「はっはっはっ!!久々だな!こういうのは!」
アルマンは恐怖した。
あのいつも怒っているガイウスが大声で笑ったのだ。
その事がここ最近で一番怖い気持ちになった。
「ガイウス。楽しそうね」
アルマン以外は笑いあふれる夜食になった。




