表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女の異世界奮闘記  作者: 羊洋士
第二部 中 ~至戦~
25/44

至戦

アルマンとの会話。マリアは説得しあぐねていた。そこに敵の進軍についての情報が来た。

その知らせに対応するために、マリアは動き出す。

マリアはアルマンらがいる食堂を出て廊下を歩く。

急いで自室に戻って作戦を考えるためというのが理由だ。

それと、アルマンに物を言わせないために切り上げたという事もある。

この場合後者のほうがマリアの本音だ。

長くいるとこちらがボロを出しそうだった。

実際さっきの会話ではこちらが完全に言い負けていた。

それが少し悔しくて、情けなかった。

結局何も出来ていない。

そういう後悔もあった。


「ふぅ」


マリアはそこまで考えたあとで溜息を一つ。

そして頭を切り替える。


「まずはどうするべきかを考えなければ」


そう独り言を呟いて自室へ急いだ。

そこに追いつこうとする人物がいた。


「おい!どうするつもりなのだ!?」


ガイウスだ。

ガイウスは先程の姫の言葉に不安を覚えた。

本物ならばともかく、この姫は影武者で戦場をしらない。

だが、彼女はやってのけると言った。

確かに騎侯士の役目とは本来そういう、有事の際に先頭に立つということだ。

だが、戦場に立てば死ぬ可能性だってある。

その可能性をこの少女に担わせていいのか?

ガイウスは己の騎士道に問いただした。

答えは出ない。


「戦力の差を埋める作戦を考えます」


「無理だ!!戦場は初めてなのだろう?そんな事は焼け石に水だ!!」


「それでも!私は領地を預かる姫なのです。たとえ偽物でも!!」


「それだ!!偽物なのにどうしてそこまで懸命になる!?どうなろうが姫には関係が無いことではないか!?」


ガイウスが強い口調でマリアに問う。

マリアはその言葉を聞いて立ち止まった。

そして俯いた。

そこにガイウスが言葉を告げる。


「お前は影武者なのだ。どうなってもお前は生き残れる。だから・・・」


「だから、戦場に出るな、と」


マリアがガイウスの言葉を遮った。

ガイウスはマリアの言葉に頷いた。

そもそもこのマリアは望んで影武者になったわけではない。

そうシンから聞いている。

身元は不明であるが、ジャクリーンに教えを受け、懸命に仕事をこなしていたらしい。

そんな少女が、ただ不運にマリアの影武者となり命を燃やそうとしている。

それは幸運だと言うものもいるだろう。

だが、ガイウスはそうは言えなかった。

成り行きで責任を背負うには、騎侯士というのは重すぎる・・・!!

そう感じていた。


「そのとおりだ。姫は静かにこの屋敷で待っていろ。俺がなんとかする。そう王の勅命だ」


ガイウスは勅命とは言いすぎだと思う。

王は姫が戻ってくるための場所を確保しておけと命じられた。

それは父親としての判断も少し含む。

個人の我儘でこの姫を変わりに据えて、ガイウスを付けた。

それに対してガイウスは、王の我儘はそうあるものではないので、やり遂げて見せたいと決意している。

そしてその我儘を言うに値する価値が自分にあるという誇りがある。

だがこの偽物の姫に対しても、同情に近しい感情がある。

確かにこの姫の頭の回転は速い。

それはガイウスも驚いた。

だが、それだけの普通の少女なのだ。

ただでさえ、騎侯士という重りは重いはずだ。

これ以上この偽物の姫に何を背負わせる?

それが騎士のすることか!!


「必ず勝利を約束しよう」


自分に対する叱責を他所に、ガイウスは静かにマリアに言った。

それに対してマリアは俯きながら言葉を紡いだ。


「位では同位のアルマンと協力できるの?」


「それくらいやってのけよう。もし出来なくても1人でも勝ってみせる。だから信用しろ」


「私は・・・」


マリアは俯いた顔をあげ、前を見つめる。

マリアの見つめる先にあるのは目の前の長い廊下だったが、その瞳には廊下は映っていない。


「私はここで生きることを知ったと思う。それを教えてくれたのはマリア様とリン様、シン、ジャクリーンそしてあなた」


マリアはゆっくり振り向いて、ガイウスの顔を見る。


「それでは不十分かしら?」


「命をかけるには足りない。生きることを知ったなら、そのまま続けて生きるべきだ」


「でも、あなたは戦場に行くじゃない」


「俺はこれが俺なのだ。戦っていないと生きれないバカな生き物なのだ。だが、姫は違う。恋をし、それを叶える権利がある。俺がそれを保証する」


ガイウスに子はいない。

だが、もし娘がいたならば、可愛がって育てたいと思っていた。

そして現れたのはこの影武者の姫。

できることなら死なせたくなかった。


「私はね。自分の親が好きではなかった。母親1人だったけど、男を招いてとっかえひっかえやってた。辛くても誰も助けてはくれなかった。でもここでは違った。皆助けてくれた。マリア様もシンもジャクリーンもガイウスも皆私の家族みたいだと思った。だから家族を死なせたくない。そして助けて欲しいと言っている子供を放おって置きたくはない。私が命をかける理由はそれだけで十分だし、それ以上はない」


「だが・・・」


「ガイウス。貴方も父のように思っているわ」


それを聞いてガイウスは言葉に詰まる。

娘のようだと思っておきながら、相手も父のようだと思ってくれている。

その事が純粋に嬉しかった。


「どうしてもか?」


「うん。どうしても」


両者は見つめ合った。

先に視線を逸らしたのはガイウスだ。


「分かったよ。石頭な姫様だ」


「あなたもね」


そう言って2人は笑った。


「だが、どうする?戦慣れしていないのは姫様だけじゃないぞ?」


「そこは上手く考えるけど、貴方の意見も聞くからよろしくね」


「仰せのままに、私の姫様ってな」


「うん」


そう言ってマリアは体の方向を変え、自室への歩を進めた。


「まず必要なのは地図ね。どこで戦うかが問題よ。幸い攻められるとなるとこっちの領地。地図はあるはずよ」


「確かに地図はありそうだ。だが、相手の進行ルートは予想できても当たるとは限らないぞ」


「そうね。相手の進行ルートをほぼ確実に掴む必要が有るわね」


「ルートがわかれば罠も出来る。それによってはいくらか不利を埋められるかもしれないな」


「ええ、でも数はそれでも絶対だわ。それに質もこちらが勝っているわけではない」


「そこが問題だ。量も質も負けているとなれば、有利に初められてもいずれは崩される」


「それは現時点では確定ね。その確定をどう覆すか」


そこまで話すと2人は黙る。

そして自室に戻る。

マリアが自室に戻るのは理由がある。

運び込んだ書籍の中から地図を探すためだ。

その地図を持ち寄って、皆で話すつもりだ。

アルマンは作戦を立てたあとの通達になるが、ガイウスとは地図を元に話しあわなければならない。


「姫。作戦を考える前に一つ言っておいたほうがいいことがある」


「何?」


「私の精鋭を貸したい。今回はそれによって姫の兵にして欲しい」


「いいの?」


マリアはその提案に驚きを隠せない。

自分の兵、しかも精鋭となればやすやすと人に貸し与えるものではない。

自分の手塩にかけて育てた兵を他人の未熟な指揮によって壊滅したら、後悔と憤りを隠せないだろう。

それを覚悟でガイウスはその条件を出してきた。


「ああ。だがその精鋭の隊長に挨拶しておいて欲しい」


「分かった。数は?」


「精鋭自体は500には及ばない。ただ姫の兵となるとそこそこ人数がいる。その部分はこちらの一般兵から出そう。元からの姫の兵と合わせて、多くて見積もるなら合計二千と言ったところか」


「私の兵ということだけど、運用は貴方がしたほうがいいんじゃない?」


「それでは意味が無い。人を助けたいなら力を使う方法を知っておけ」


この場合の力とは兵力のことだとマリアは思った。

確かに騎侯士ならば、当然出来なければならない事だ。


「分かったわ」


マリアは自分の持っている力を確認しながら自室に行く。

マリアの兵  二千

ガイウスの兵 三千と少し

アルマンの兵 三千

合計で八千と少しの兵となる。

それがマリアの現状だ。

頭を整理しながら、マリアは先を急ぐ。


二部突入編。

マリアワクワク戦場編です。

よろしくおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ