アルマンという男
リリィと仲良くなり少し気分が良くなるマリア。
だがそれでも気分が悪くなる話が来る
マリアは窓を開いて月明かりを部屋に招いた。
吹く涼しい風はマリアが纏う薄い布地の下を通り過ぎる。
その感覚が気持ちいい。
綺麗な月を見上げて思うのは今日の事とこれからの事。
当面の目標は決まっている。
アルマンという騎士を仲間にすること。
そうすることで最低限の兵力を保持することが出来る。
ポッとでの姫で舐められずに済む。
「私が姫なんてね」
マリアはそう言って微笑んだ。
考えることは、昼に聞いたガイウスの言葉。
「姫様。アルマンは危険な人物だ。気をつけろ」
ガイウスは、マリアが書類とにらめっこをしていた数日間の間に、アルマンのことを調べていた。
様々なツテを使い、また彼自身も走り回ったらしい。
そしてガイウスが出した結論は"気をつけろ"だ。
「アルマンは昔使えていた騎侯士に歯向かって殺しかけたらしい。そしてその領地を逃げ出してここに来たというのがもっぱらの噂だ」
「でも噂でしょう?」
マリアは紅茶をすすりながらガイウスの話を聞く。
普通に考えれば、謀反など処刑される。
それも騎侯士相手なら、それが簡単に行えるはずだ。
「俺も最初はそう思ったが、どうも本当らしい。どうして生き延びているのかは不思議だ」
「どうしてこの領地の騎士をしているのか、もね」
「アルマンは騎士として優秀だった。民衆に好かれていはいないものの民衆に手を出すことはないし、そもそもこの最弱の領地に優秀な騎士を置くには、難ありで他の領地に居場所がないやつを取る他無かった!」
ガイウスはそう言って黙った。
最後だけ口調を強めたのは後悔が来ているからだろうか、それとも現状に嘆いているのか。
それはマリアには分からない。
だが、それでも満足はしていないと思っているようだった。
「まぁそれでも維持で来てるんだから、悪くわない選択よね」
そう呟いて、夜の時間に意識を戻す。
そしてまた夜の風を受ける。
藍色の空に藍色の雲が浮かんでいる。
「良い月ね」
そうしてマリアは空を見上げる。
寝室で約束があるための待ち時間。
誰にも言えない逢瀬だが、相手が同性なのだからあまり色っぽさはない。
それに、マリア自身男に興味は薄かった。
今はしなければならないことがある。
そう思うことで精一杯だった。
「・・・・・」
月が雲に隠れる。
その瞬間に来客が来る。
「久し振りだね。元気してたかい?」
来客者は窓に腰掛けるマリアに声をかける。
「久しぶりね。会えて嬉しいわ」
マリアは挨拶に応じた。
来客者は相も変わらず露出の多い薄い服を来ていた。
「シオン。お願いは聞いてくれたかしら?」
来客はシオンだが、用があったのはマリアの方だ。
マリアはシオンに調査を依頼していた。
この国のことと、アルマンのことだ。
そのシオンの前提の情報があったから、ガイウスの話になんとかついていけている部分も大きい。
騎士の裏事情まで盗んでくるシオンをマリアは重宝していた。
「ああ。アルマンの行動はある程度把握している」
「ふふっ。さすがね」
「そうでもないさ。簡単な仕事だよ」
そう言ってシオンは謙遜した。
「もっと知りたいことあったんじゃないのかい?行動範囲だけしか調べてないけど」
「十分よ。誰も教えてくれなくって困ってたのよ」
「人望の無い姫様だねぇ」
「そうね」
そう言って2人は笑った。
「早速だが、行動範囲から適当に言うよ。細かい所は日によって変わるから。行動予想なら沢山あるけど」
「沢山?」
「今晩じゃあ話しきれないね。なんせ気まぐれで首都まで行く男さ」
「じゃあ、適当にお願い」
マリアは呆れたようにそっけなく言った。
首都からは、馬で言っても一日はかかる距離だ。
馬で1日かけて出かけるような行動範囲の男だ。
それを追うのは時間が無駄だと判断した。
ガイウスもシンもいない環境で、最低1回話すことが出来ればいいとマリアは思っている。
だからこそ、シオンに頼んだのだ。
だから小さい範囲で知れれば十分だ。
「そう言うと思ったさ。まず確かなことがある。金が保つ限り毎日酒を呑んでる。店はその日の気分だけどね。ただそれに部下も結構引き連れているから結構な騒ぎさ。さがすならそれを目印にするといい」
「なるほどね。酒が好きなのか、皆が呑んでるのが好きなのか、騒がしいのが好きなのか」
「後で部下を騒がせて、アルマンは1人で静かに呑んでる感じだったね。たまに女を引っ掛けて連れだしてたし」
「貴女も誘われたの?」
「いや、まだだね。意外といい男だったから、プライベートでも一回誘ってみようかと思ってるさ。・・・冗談さ」
「あら?玉の輿よ?」
シオンはその言葉に否定する。
「冗談。私は自由じゃなきゃ死んでしまう病気なのさ。特定の誰かの伴侶なんて御免被るね」
「あら、残念。私も誘おうかと思ってたのに」
「それ。本気で行ってる?」
シオンは半目でマリアを見た。
マリアは、微笑んだまま返答した。
「ふふ。冗談よ」
「どーだか。王族はみんなおかしいからね。本気で言っていても疑わないさ」
「そう?じゃあ私のものにならない?」
「断る」
そう言ってまた2人は笑いあう。
「残念ね」
「全く・・・愉快だねぇ」
シオンは愉快と言って笑ったが、すぐに真顔に戻る。
真剣な目でマリアの目を見つめる。
「しかし姫様。注意しといたほうがいい。アルマンは騎侯士を嫌っているらしい。上を見ると噛み付きたくなる男なのさ」
「それは本当なの?」
「本当らしい。以前噛み付いた騎侯士はお取り潰しを喰らって足取りがつかめなかったけど、信憑性は高いね」
それを聞いてマリアは考えこむ。
もしかしたら、マリア自身も殺されるかもしれない。
ほとんどの人間は騎侯士や騎士には逆らわない。
それは騎侯士や騎士が権力を持ち、法によって制裁が加えられることと教育がそうなっているからだ。
アルマンはその2つを無視して殺したということになる。
その人柄をガイウスは心配しているのだ。
「それでもやらなければならないんだし、考えても仕方ないか。シオン。情報ありがとう」
シオンは頷いた。
「なんかあったらまた呼んでくれ。安くしとくよ」
そう言ってシオンは暗闇に消えた。
マリアはシオンの消えた方向をみて呟いた。
「呼んでっていっても、そっちが来なきゃ私は連絡できないんだけど」
そう言って、マリアはまた窓の外に視線を戻す。
月は雲に隠れて光が乏しくなる山々を。




