住まう場所
マリアの住居にたどり着いた。だがそこで見たものとは!!
屋敷を入ると、まず広いエントランスがある。
そこに荷物を全部置いてジャクリーンはまず食堂とキッチンに向かった。
マリアはそれに続いた。
食堂は長いテーブルが均等の間隔で並んでいた。
城にあったのものより簡素で、薄っぺらい板と細い4角の足が付いているだけの机だ。
そしてその食堂を抜けるとキッチンに出る。
広いキッチンだ。
かまどが何個も設置してあり、包丁を振るう台も何人が同時に作業が進められるように並べられている。
作業者の上には棚が設置されており、そこから調理器具を取り出しつ。
洗い場も銀色が輝く広い窪みがある。
「うわぁ広い」
思わずそうマリアは呟いた。
その独り言に対してジャクリーンは努めて冷静に言葉を返す。
「姫様がここを見るのは初めてでしたか・・・?」
そういってジャクリーンはマリアを睨む。
マリアはジャクリーンがあえてそう言った意味を理解する。
入れ替わった事を察せられるようなことを口にするなという事だろう。
本物のマリアが行った行為は"なつかしい"や"慣れたものよ"といい、ミヤビが行なっていてもマリアが行ったことがないものは"初めて"と言えと、言葉の裏で語りかけてきたのだ。
「改めて見ると広いものね」
ジャクリーンはその言葉を及第という様に目をキッチンに向けた。
それを見たマリアは苦笑を貯める。
これは大変ね。
入れ替わりのための違和感を消すのは困難であることを再確認した。
「ジャクリーン。私は屋敷を回ってくるわね」
「はい。シン様をお連れください」
ジャクリーンはキッチンに目を奪われたままそう言った。
マリアはそれをみて微笑み、じゃあお願いするわねと言ってキッチンを退出する。
マリアはシンを連れて部屋を散策する。
メイドたちはジャクリーンに付いて仕事を始める。
ガイウスは自分の部屋を適当に決めて自分の荷物を運んでいた。
マリアとシンはまず最初に自分が使っていた部屋を確認する。
洋館の二階、その一番奥の広い部屋がマリアの自室だ。
洋館は広いといっても城ほどではないため、そう苦労することもなく自室に付いた。
自室の埃も酷いものであった。
マリアは全身が埃まみれで、直ぐに入浴した気分にさせられた。
「姫様。すぐに準備させますのでしばらくお待ちを」
そう言ってシンはメイドを呼ぼうとした。
そのシンをマリアは止めた。
「メイドは少人数でこれから最低限の掃除をしてくれるわ。私は自分の部屋ぐらい自分で掃除できる」
「ですが姫様がやるなど・・・」
マリアはシンの抗議の言葉を遮った。
「シン。この部屋だけはここを管理してくれていたメイドたちが掃除してくれていたの」
そういう事にする。
そうシンに伝えて、掃除道具の場所を聞いた。
シンは不服ながら頷いて、場所を教えた。
そうしてマリアは掃除を始めた。
腕まくりをして照明の埃を払い出す。
それだけでも脚立の場所を移動させたりと大忙しだが、マリアは手早く熟していく。
「シン?手が開いているなら家具を外に出して」
「はい」
シンにも手伝わせた。
ベットはともかく、他のタンスや化粧台などは部屋の外に出した。
出し終わった時点で、マリアは照明の埃払いと窓ふきを終わらせて、床のカーペットを剥がして落ちてきた埃を掃いている。
シンはそのマリアの手慣れた動作を見て驚いた。
そして、これは他のメイドに見せるわけには行かないなと苦笑。
マリアはシンが密かにそう思っている事を他所にどんどん掃除を進めていく。
そこにジャクリーンが来た。
「姫様、キッチンと食堂の方の掃除が終わりました。お茶でもいかがですか?」
ジャクリーンが部屋の前で立ち止まりそう言った。
ジャクリーンはテキパキと掃除しているマリアについては何も言わない。
人手が足りない事はジャクリーンも百も承知だったのだ。
ジャクリーンはキッチンと食堂の掃除と、食事の準備を優先させた。
食べることがまず第一だと思ったからだ。
それはマリアが本物ではないという考えも含んだ判断だと、ジャクリーンは自分で思う。
口ではマリアたれと言っておきながら、行動はその逆をとっているのだ。
その事に少しの迷いを持っていたため、マリアが自室の掃除をしていることを非難しなかった。
「お茶を1杯いただこうかしら。メイドたちの部屋の掃除は?」
「はい。今日の所は広さが十分ある一部屋の掃除だけで終わらせてそこにメイドを集めて休め。本格的な寝床の確保は後日とします」
「わかったわ。それでお願い。あとシーツと布団はどうするの?」
「メイドたちのは屋敷にあるもので済ませます。マリア様のはガイウス邸から貸して頂けるようになりました。ガイウスさまはこの屋敷で休むそうですが、そっちには人は回せませんね」
マリアはジャクリーンの言葉を聞いて苦笑。
少しガイウスに対して怒りを感じているのだ。
勝手な判断で屋敷を埃まみれにしたと。
部屋全て掃除しないという判断なら、ジャクリーンも怒りはしないだろう。
怒るどころか良い判断だと言うかもしれない。
だが、全部まるまる放ったらかしなのは頂けない。
最低限は・・・と思う気持ちもあっただろう。
「ありがとう」
そう言ってジャクリーンとマリアはそれぞれの作業に戻った。
マリアは掃除の続きを、ジャクリーンはマリアの返答を聞いて次の指示を出しにメイドたちの元へ。
2人を見てシンは感心していた。
この2人は凄い。
それぞれが自分の仕事を熟し、それが合わさって1つの成果を出している。
相手の考えを阿吽で察し、それぞれを尊重している。
ジャクリーンはともかくマリアもここまで出来ている。
一体どうやって育てたんだ?
そう考えるとジャクリーンがメイド長として一目置かれている理由もわかる。
実際、城一番という者もいるし、兄たちからもスカウトが来るほどだ。
だが、国王が直々に命じたマリアのメイドという職を頑なに守り続けていた。
それに忠義を感じるのはシンの錯覚だろうか?
それほどの物を感じずにはいられなかった。
「シン?どうしたの?」
「いえ。私は手が空きましたので、次の指示を」
「そう?じゃあ休んでて。もう少ししたら家具を全部戻してもらうから」
「いえ。手伝います」
「休むのも仕事の一つ。いいからジャクリーンの入れるお茶でも飲んできなさい。たぶんジャクリーンも貴方の為に淹れている筈だから」
その言葉にシンは驚いた。
言われるまま食堂に行くと、ジャクリーンがお茶をシンに渡した。
そこでまたシンは驚いた。
2人の阿吽の呼吸に。




