王座の前の空虚
マリアの置き手紙に書かれていたものは、ミヤビの生活を一変させる出来事に発展する。
「そちがミヤビという娘か?」
髭を蓄えた初老の男性がどっしりと、王座に座ってミヤビを見下ろしている。
そのしがれた声は、低くても遠くまで響く魔力があった。
「・・・・」
ミヤビは何も答えなかった。
それに対して周りの者達が声を上げる。
「返事をしろ!!王の御前であるぞ!!」
それでもミヤビは呆けたままでだった。
「・・・すみません」
それでも辛うじて話はできた。
王はよほどショックだったのだろうとは察した。
この少女は聞けばだいぶ評判がよろしかったという。
愛しのマリアからの寵愛を受け、ジャクリーンにも気に入られていたという。
だが、話してもらな分ければ今後の対策が打てない。
マリアを本当の意味で取り戻せない。
「マリアの言った先に心当たりは?」
「・・・ありません」
「ふむ」
ミヤビの呟くような返答に王の周りの者が声を荒立てた。
「娘!!いい加減にしろ!!」
王は周りの物を制した。
怒鳴ってばかりでは進まないこともある。
これからどうするかが問題なのだ。
だから告げねばならない。
「ミヤビよ。お前にはやってもらわなくてはならない事がある」
「・・・やってもらわなくてはならない事?」
「そうだ」
王は頷いて言葉を続ける。
「そうだ。今後我々は秘密裏にマリアの捜索をする。だが、戻ってきた時に居場所がなくてはならない。そこでそちにマリアの代理を頼みたいのだ」
影武者と言ってもいい。
幸いミヤビはマリアと瓜二つなのだ。
すり替えておくのに丁度いい。
そして、戻った時にまたメイドに戻せばいい。
「ですが・・・私はマリア様の代理など」
「できなくとも良い。マリアの代わりにドレスを着て立っていればいいのだ」
「そんなものは直ぐにバレてしまいます」
「それだけはそちにかかっているが、マリアは人との接触は避けていた。それは今回に限って言えば幸いだった」
普段は人と接触がないというのはあまり良くはない。
国を治めるということは大抵は1人では出来ない。
賢王と呼ばれる私でさえ、1人では無理だと考えていた。
だから人と接触し、相手に気に入られ続ける存在でなければならない。
特に息子たちは、我々に気に入られ続けなければならない。
「ですが。マリア様と私の存在を同時に知っているものであれば、勘付くのは容易ではないでしょうか?」
「そこは心配しなくていい。この事を知っているのはどれも信頼の置けるもの数名しかおらん」
「数名?数名どころでは無かったと思いますが・・・」
「ああ、数名だ。その他に知るものはいない。メイドは皆、新しくした」
「・・・どういう事ですか・・・?」
ミヤビは恐る恐る聞いてきた。
「今後、今までのメイドたちが吹聴することは無いという事は覚えておけ」
それを聞いてミヤビは何かを閃いたようだ。
おそらくその閃きは正しいだろうと思われる。
「えっ?ちょっと待ってください。どういう事ですか?ジェシカは!?カロルは!?クロエは!?他のメイドたちに会わせてください!!」
「口を慎め娘!!」
ミヤビと王の周りの者が互いに大きな声を出した。
王は構わず、落ち着いて静かな声で言った。
「彼女たちはもうここにはいない。一生会えない」
「そん・・・な・・・まさか・・・・」
王は思う。
ミヤビという少女は真実に気がついている。
王は置き手紙の内容を確認した。
自分が出奔すること。
執事の1人を連れて行くこと。
ミヤビに今後の事を託すこと。
そして謝罪が綴らてていた。
それを見た王はまずは嘆いた。
愛しのマリアよ!!
そして次に考えたのは、マリアの領地を守ることだ。
それは王の責務であり、それがマリアを取り戻す方法の一つであると思った。
だから、姫の置き手紙の通りミヤビをマリアとして代理の任を与える。
そのためには真実を知るものが多くいては困る。
だから、王はメイドたちの処刑を命じた。
これで、ミヤビの存在を知るものは限られる事になる。
あとは自分と信頼出来る数名のみだけが真実を知っている状況にした。
その事にミヤビは気づいたのだろう。
「ミヤビよ。うぬは今日からマリアだ。わかったな」
「・・・・・」
ミヤビはまた無言になる。
「いい加減にしろ!!王の御前であることを忘れおって!!」
「まぁ落ち着け。今日の所はこれで終いだ。ミヤビを部屋に戻すがいい」
「はっ!!」
2人の兵たちが返事をしてミヤビに駆け寄る。
「さぁミヤビ様こちらへ」
「・・・あっ」
兵たちは呆けている少女を両手で抱え、連れて行く。
「王の御前でこのような運び方をすることをお許し下さい」
抱えていない方の男が王に頭を下げて謝罪する。
「良い。それより部屋に連れて行ってやれ」
王はそれを許し、命令の続行を伝えた。
2人の兵たちはミヤビを連れて退出する。
退出した事を確認すると王はため息を付いた。
「ふぅ。あの娘はちゃんとできるのだろうか?ガイウス!!」
「はっ!こちらに」
ガイウスと呼ばれて出てきたのは1人の男だ。
男は簡素な鎧を来ている初老の男で、鍛えられた肉体が体から出ていた。
大きな男で、この城一番の屈強な兵士と並べてもなんら遜色はない。
そのガイウスが王の前で跪いた。
「そちにはそのまま"マリア"の補助に付いてもらう。誰にも気取られるな。いいな?」
「はっ」
そう言ってガイウスは大きな返事をした。
王はこれからを思った。
マリアが戻ったとしても、一度出奔した娘には、もう・・・。
それでもマリアに戻ってきて欲しかった。
王は息子たちがいるなかで、唯一可愛らしさをマリアに感じていたからだ。
他の息子たちは誇らしくはあるが、可愛らしさには感じない。
だからマリアだけは、唯一父親らしい事ができる対象なのだ。
その偽りの父親にも終わりが来たということか。
そして王は溜息を付いた。




