第2話「旧校舎に行ってみたら-2」
夜崎はまだ倒れている。
こうなったら、俺が行くしかない。
実は今、俺は怖いんだよ。寝てないで、さっさと起きろ。
人間の体というのは、実に分かりやすい。
怖いと思えば、足が震える。
臆病者の俺の足は、いまだに、お手本通り震え上がっていて、力が足に入らない。
俺の視線がふと、時計に向けられた。
時計の針は、7時半を指している。
この状態というか、時刻がヤバいのは分かってるけど、あの奇妙な光の正体も知りたくはある。
ただの好奇心を捨てられずに、その場で時間だけが過ぎていく。
もしあれが、UFO襲来だとか大爆発とかだったなら、その場に居座るのは、危険極まりない行為である。もちろん、そんなことなどあるはずもないことだが、例えばの話でいうと、それが一番しっくりくる気がする。
あの光は、ただ者じゃない。
ここは学校の敷地内である。
当然のことながら、どこかに道草していると家から連絡が学校に入りでもすれば、ここは真っ先に狙われるところだ。
見つかったら一巻の終わり。
こんなに遅い時間までほっつき歩いていたこと、そして夜崎が倒れていること、両方で雷が落ちるだろう。
そして何よりも、旧校舎入口の看板の「立ち入り禁止」の文字、これあなた読めますかぁ?と問われるだろう。もう一度小学校から国語を勉強し直せばどう、とあのクソ教頭or校長に吐かれるだろう。
ならそこで揚げ足をとる。
俺が「読む」力不足だとするならば、先生は「聞く」力が足りない。いや、他全般においても能力不足です、はい。
3組が体育の授業してたとき、観ていて楽しくなったからって調子に乗って跳び箱5段飛んでやるとかぬかしたこと言いやがって、途中ぎっくり腰でピーポー要請したの知ってるんだからな、教頭。
言い訳も聞かず自分の言いたいことばかり言うから、栗坊主頭コンビ(=教頭と校長のお似合いコンビ)が嫌われているんだよ。
決断できないまま、5分が経過した。
まだUFOどうのこうので悩んでいる。
優柔不断な自分を責めたくなる。さすがに、呪うとまではいかないけれど。
こんな状況の中で、「見つかったらどうしよう」とかは考えないほうがいい。
直感で、こちらのほうがなんとなくよさそうだ、というのを選べばいい。
いろいろごちゃごちゃと考えると、かえって面倒くさいことになる。
窓の外を、ふと眺めてみた。
さっきまで 雨模様だった空。かかっている雲の間から、わずかな光が見えている。月の光だ。
今まで考え事をしていたせいで、すっかり気がつかなかったのだ。
その時、今まで心の中にあったもやもやした気持ちが、急に吹っ切れたように消え去った。
今思えば、探検家になった気分で、ノリノリで行けば大丈夫ではないか。
月の光を頼りに、俺は光の元へと急ぐ。
今にも消えそうな光が、怪しげな黒い物体から放たれていた。
弱い光は、月光にかき乱されて、どことなく怪しげな雰囲気を醸し出していた。
それに付け加わって、黒と微量の赤、緑が混ざった奇妙な色が、オマケとばかりにその雰囲気を強調している。
どうやらあの光の正体は、この穴のようだ。
中が気になるのは日常茶飯事。好奇心の塊と言っても過言ではない俺だから、興味が沸いてきたら即、解明しようとする。
そんないつもの癖が出て、つい顔を突っ込んでしまった。
ひょっこり体の半分だけが、穴の中に入った。
背伸びをして、中を覗いてみる。
中は真っ暗だ。
瞬きを一つする度に、闇が濃くなっていく。
もっと下が見たくて、さらに背伸びをして体を突っ込んだ。
しかし下には、何もなかった。
下も、見渡す限りの暗闇だったのだ。
これはつまらない。
ひたすら背伸びしようとする足が硬直し始めた。
疲労が貯金され始めたのである。
疲労の色が、もうすでに見えている。
ここに誰か居れば止めるだろうに、あいにく今は一人だ。
おまけに俺はバカである。絶対に、自分ではやめない、いや、その決断ができないのだ。
ちょっと気が緩んで、力が抜けたその時、足が完全に床から離れた。
このまま、奈落の底へ落ちていくのかーー。
俺はそう悟った。




