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第1話「旧校舎へ行ってみたら-1」

太陽が西に傾き、皆が帰路につく頃、俺は立ち入り禁止の旧校舎に来ていた。友達の夜崎と一緒に。

俺は落ち込んだとき、放課後は決まってこの場所に来ていた。



今日も同じだ。

落ち込んでいるわけではないが、最近自分の身に不幸ばかり訪れ、発散することのできないストレスが山のように積み重なったため、夜崎を引き連れてこの場所に来たのだ。

ここは学校の敷地内ではあるものの、校区の中では一番落ち着くことのできる場所。

今思うと母親と喧嘩したのがまずかった。それが引き金となってずるずると不幸が蓄積されたのだから。

テストの点数なんかどうでもいいと言わなければ良かったと、一人気まずい雰囲気の中で思う俺をあざ笑うかのように夜崎が言った。

「テストどうだったんだ」

もとから不機嫌そうな顔をしている夜崎が、顔をひきつって荒い口調で話すので、余計にイライラを倍増させる。

自分の行動が俺を怒らせているとは知らずに、ただ平然と窓の外を眺める夜崎を見ていると、なぜかムカムカする。

そんな態度を見ていると、夜崎をここに呼んで良かったのかと、自分を信じることができなくなる。

相変わらず喋ろうとしない夜崎との、二人だけの静寂の時間が流れていく。

俺は怒りを必死に抑えて、大きく深呼吸をする。

どうしてかはわからないが、ここのひんやりとした独特の空気を吸うと、怒りが自然のうちに吹き飛んでいくのだ。

こんな旧校舎が、静かで誰もいないこの場所が、俺にとっての「別世界」なのだ。

「なあいい加減、なんか喋れよな」

喋ることができないのには理由がある。

そろそろ家に帰らないと、門限どうのこうのでまた怒鳴られる。昨日の喧嘩の発端が、まさにそれを破ったことによるものなのだから。

それを気にして、さっきからずっと、しどろもどろにしか応答できていない。夜崎はそれを、自分が嫌われていると勘違いしているのかも知れない。

変な心配をかけているようで申し訳なく思う。親友にさえ、こんな余計な心配をされるようでは、母親はどう言うのか、わかったもんじゃないーー。

俺は夜崎を配慮して小さな声で、そう言った。



変な間が空いた。

こういうのは大嫌いなんだ。

本当なら今頃、家に居なければいけないのに、わざわざ俺を気遣ってくれた夜崎を残して帰る訳にはいかない。

お互いに余計な心配をかけて、お互いを帰れなくしているのだ。

「なぁ。久しぶりにチャンバラごっこ、しようぜ!」

俺ははっとした。

小学校低学年のするような遊びを中2がするか!と突っ込みたくなるが、そこは気遣ってくれた夜崎に配慮して自重する。

チャンバラごっこか、よくこいつとしたっけーー。

思いがけず昔の懐かしい思い出が脳裏に飛び込んできて、早く帰らないといけないということなど、すっかり頭の中から出ていってしまった。

「よーしほんなら行くぞー」

いきなりとは卑怯だ。あいつの渾身のストレートが、俺の腹を直撃した。

結構強くなっていやがる。

血を吐きそうになるほどの激痛が、下腹部を襲う。

これのどこが「チャンバラごっこ」だ。ただの殴りあいではないか、と他人は思うだろう。なら喧嘩になる前に止めやがれこの傍観者が。

負けていられない。

俺は夜崎を殴ろうとした。



「スカッ」という効果音が相応しいだろう。

俺の拳は、あいつの体を掠めていった。

少なくとも数年前までは、あいつが震え上がるようなパンチを繰り出した俺だったが、今あいつはいとも簡単にそのパンチを避けた。

「フッフッフッ、いつまでもその攻撃が通用すると思うなよ!」

こいつも成長したんだなと感心したその時。

いきなり夜崎が消えた。

バナナの皮で滑って転んだんだろう。きれいに放物線を描いた夜崎は床に叩きつけられた。

床をつたって、ここまで衝撃がひしひしと伝わってくる。痛そうだという、半事実と同時に。

しばらくの間、夜崎は動かなかった。

もし立ち上がっても、蹴れば倒れる。殴れば吹っ飛ぶ。

安心しな、きみの思う通りにしてあげるよ、と不気味な笑いをもらす俺。

用は済んだし、帰るかーー。

そう思って後ろを振り向いた、その瞬間。

突然、瞬きしても防ぎきれないような強烈な閃光が、辺りを包みこんだ。









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