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平安時代の本気

本気と書いてマジと読む

って一体誰が広めたんでしょうか。

私的には某任侠映画しか思い付きませんが。


 わいわい、がやがや、ざわざわ


 舞台の袖から見ると、観客席は超満員だった。

 風兎は汗ばむ手で布の間から覗いていた幕を握りしめる。


 いよいよか………。


 「………大丈夫か?」


 訝しげな表情で燎次りょうじが見つめてくる。

 素っ気ない割には面倒見が良いんだよなぁ、こいつ。

 とぼんやりと全く関係の無い事を考えていると何やらワタワタしながら話してきた。


 「あー、………その、あれだ……人は芋だと思って手のひらに芋の字を書いて飲み込むと良いぞ」


 いや、それ絶対違う。

 何だ芋の字って。

 人の字だろうが。

 ……いや、待てよ。

 この時代ではそれがセオリーなのか?

 でも芋だぞ?


 気になり考え込み始めた風兎かざうを見て、余計に慌て始める燎次。

 何かを必死に思い出そうとして唸り始めた。


 ………いや、本当に何がしたいんだお前は。


 理解不能な行動を取る燎次に風兎は眉をひそめる。

 そんな彼女に気付かず、暫く考え込んだ後、何かを思い出したらしい燎次はポンっと手を打ちならし言った。


 「それと、あと、ええっと、あれだ!息を深く吸って吐くと良い」


 その一言で何をしたいのか納得した。


 つまり………


 「緊張を解そうとしてくれたんだな?」


 その言葉に明後日の方向を向く燎次。


 「………緊張するのは分かる………。俺もそうだったし、」


 うん、まぁ、その気遣いの気持ちは嬉しい。

 だけどな、燎次。

 それは無用な心配だ。  だって………。



 「いや、全く緊張していないんだが」

 「へ?」


 ねぇ?




 風兎は高校生だが、それと同時に発明家だ。

 発明家は自分が発明した物を人前に出て発表する機会がある。

 ましてや、それが素晴らしい物だったら尚更だ。


 風兎の場合毎月最低五つは発明、改良した物もしくは論文を制作していた。

 それ即ちその分だけ発表する機会が多い、と言う訳で人前に立って何かを紹介する事は息をするように自然に出来る。


 ………まぁ、この時代ではマイクとかスピーカーとかが無いから声の大きさで燎次りょうじにしばかれたが。

 だから、これからする事に関しては緊張とかは特に無いのだ。


 「発明した物を発表するのに慣れている」

 何て言う訳にはいかないから燎次には

 「人前に出て何かをするのは平気だ」

 とだけ伝えた。


 「え、じゃあ、さっきの幕握りしめてたりとか覗いてたのは………?」

 「ああ、あれか。

 あれは客の入り具合を見たかったのと、その幕の辺りが板が薄いっぽくて抜けそうだから抜けるの予防に軽く体を支える物が欲しかったからだな」


 風兎位の体重ならまだ大丈夫だが、燎次位なら多分抜けると風兎は推測した。


 「ならなんでそんな危ない場所から見てるんだ?」

 「いやだって、他に見える場所ないだろう?」


 風兎の言葉に辺りを見渡して納得した燎次。

 だが、疑わしげな表情は変わらない。


 「……本当か?」


 疑うならどうぞと風兎が移動し指し示した場所にそっと片足を乗せた燎次。

 その足に体重を乗せた瞬間。


 バキッ!


 軽い音でその板は折れた。

 片足が床に嵌まる。


 「こらぁぁぁああぁー!!!!!燎次!!!!テメェ、舞台壊すな!!!」

 「愛情持って接しろっていっつも言ってんだろうがい!!!!!!!」

 「夕食いらないのかい!?!」

 とたんあっちこっちから飛んでくる罵声。


 あー、うん、何かゴメン。


 周りの人に必死謝る燎次を見て、悪い事をしたと思う。

 足を抜くのに手を貸しつつ謝った。


 「すまない」

 「いや、良いんだ。もっと床が頑丈か確かめる方法はあったんだし、お前は危ないからと注意をしてくれただけだ。

 ………最終的に壊したのは俺だし……」


 その後に

 「あー、やっぱしまた給料から引かれんのかなぁこれ。先月もその前も、と言うか毎月三回はやっちまう俺って………ハハ」


 とか何とか呟きながら控え室の隅の方で三角座りをする燎次。

 それには触れず、黙々と開幕の準備を続ける一座の皆。


 燎次を放っておいて大丈夫なのかと聞いてみたら。


 「あぁ、あいつはいつも失敗したらああなるから放っておきな。

 そのうち復活するから」


 とのお言葉。


 いつもの事なのか。

 じゃあ良いや。


 燎次の事は放っておく事にした。


 さてと。

 邪魔にならない様な場所に移動して目を閉じる。


 閉じる事で現れる闇に舞台と観客を思い浮かべる。


 舞台に上るのは自分。

 喋りだすと観客は静かになって風兎の言葉に聞き入る。

 様々な話術を駆使し、オルゴールとは何かを説明し、観客の関心を私のオルゴールに集中させる。

 そして、ポケットから取り出すオルゴール。

 銀色の鉄で出来た飾りやストーンを散りばめた細かな細工で覆われているので、キラキラと光に煌めいて見えるだろう。


 出来れば完成させてから人に見せたかったのだが、手持ちの携帯型バーナーの使用時間は決まっているので迂闊には使えない。

 一座の皆の反応を見る限りこれでもまだインパクトがあるみたいなのでこのままいかせて貰う事にした。


 観客はまず、その外見に目を奪われる。

 そして、その後に流れる聞いたことの無い音で流される異国の音楽。

 見たことの無いカラクリに観客は驚くだろう。


 自分の作った物で人が驚くのを見るのは楽しい。

 それは勿論想像でも。

 思わず口角が上がる。


 「風兎かざう!そろそろ出番だよ!」


 その声に閉じていた目を開くと、いつの間にか可愛らしい天女の様な衣装に身を包んだ伊代いよが目の前に居た。


 「ん、あぁ、分かったよ。ありがとう伊代」

 「どういたしまして」

 「可愛らしい衣装だね。天女みたいで伊代にとても良く似合っているよ」

 「天女だなんてそんな………えへへ、ありがとう!」


 誉められて恥ずかしいのか頬をうっすら赤く染めてもじもじとする伊代。

 最初にも思ったけれどうん、やっぱり可愛い。


 「そ、そうだ!風兎はいつもの恰好なんだね?」

 「ん?ああ、この珍妙な恰好の方が客受けに良いんだとさ」

 「そっかー………残念」


 何故か肩を落とし、酷くガッカリした伊代に首を傾げる。


 いつもの恰好とはトリップした時から着ている作業と白衣の事だ。

 汚れてきたしそろそろ別の服に変えたい。

 それと、トリップしたときから数えてもう四日は入っていないからお風呂にも入りたい。


 話は変わるがこの時代、まだお風呂に入ると言う習慣が無いらしい。

 やるとすれば濡らした布で体を拭く程度。

 うう、お湯にゆっくり使って隅々まで心ゆくまで洗いたい、頭洗いたいと悶々とする風兎である。


 「風兎はうちらの後に出番だから、しっかり見ててね」


 その言葉でハッとトリップしていた思考を戻す。


 頑張るよ!と張り切って言ってくる伊代の頭を撫でながらしっかり見ると約束した。


 伊代は風兎と頭一つ分身長が低く、頭が丁度撫でやすい位置に来るからつい撫でてしまう。

 それに対して伊代も嫌がらず「えへへー」何て言っているからまぁ、良いのだろう。


 ………伊代の後ろにいる太一たいちがもの凄い目で見てくるけどな。


 取らないって。

 第一、私は女だ。

 何の心配をしているんだよ。


 と内心嘆息する。


 いってきまーす。

 と手を振る伊代に手を振り替えす。

 舞台の袖に立ち、横から伊代と太一の軽業を見る。


 うん、凄いや。


 最初に見せて貰った芸よりもダイナミックで凄い技が続々と繰り出されている。

 そのうちの一つを紹介するとこんな奴だ。


 一足飛びに太一の頭の高さに跳んだ伊代。

 その空中にいる伊代の足を太一が下から押し上げ更に彼女は高く空中を舞う。

 空中でくるくると体を横回転して彼女はふわりと太一が真っ直ぐ伸ばした人差し指の上に片足で着地。


 人差し指!?

 大丈夫か!?折れないのか!?

 そんな人々のどよめきを余所に太一は人差し指で再び勢い良く伊代を空中へと送り出す。

 まるで二人の周りには重力が存在しないかの様な、そんな幻想的な世界が展開される。




 一通りの芸を見せ終えたのか二人でぺこりと頭を下げた所で割れんばかりの拍手が起こった。

 勿論、風兎も心からの拍手をした。


 凄い。

 多分、私は時代が昔だからっとこの時代の人達を何処か下に見ていた所があったと思う。

 だが、そんな認識は一変された。

 どの時代でも関係ない、人は、人の可能性は凄いのだと思い知らされた。


 舞台袖に来た二人に「お疲れ様」と告げると「頑張れ」と応援された。

 二人の他にも一座の皆に励まされた。

 風兎何だが温かい気持ちになり「行ってきます」と告げて手を振る。


 そして、一歩を踏み出した。


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