うまい話には裏がある?
うまい話には裏がある?
うまい話の『うまい』は
美味い なのか
上手い なのか
旨い なのか
巧い なのか
どれなのだろうと今唐突に思いました。
「風兎さんはこれからどうなされるのかな?」
老人が聞いてきた。
他のみんなは慌ただしげに後片付けをしている。
というか手伝わなくていいのかあんた。
「さぁ、まだ決めていないのですがもう少し炉銀を稼いだらどこかに部屋でも借りてみようかと思っています」
いつ帰れるかは分からないから、とりあえず当面の衣食住をする場所は確保しなくてはいけない。
「ほぅ、では風兎さんは町の人間じゃないのですか?」
「違いますよ。どちらかと言うと旅の者です」
時間旅行と言う名の旅です。
旅の仕方は本人ですら知りません。
……うん、ちょっとふざけすぎたな。
自分の台詞なのに寒いや。
風兎は思わず自分の二の腕を擦った。
「なるほど、では何処ぞへ行くために旅をなさっている訳ですか?」
「いえ、宛の無い旅です」
宛があったら良いんだけどなぁ。
というか旅をするにも荷物が無いから文字通り着の身着のままの旅だな。
と内心苦笑する。
「近々何処ぞへ行かれるといったご予定は?」
「しばらくはありませんね」
まず、このままだと旅は無理です。
「ご両親や親戚はどちらに?」
「えっと……他界に……」
「!!これは失礼した。では天涯孤独と言った所ですか……」
この世界には居ないので言い方を濁したらまるで死んだみたいになってしまった。
勘違いされてしまったようだ。
うん、まぁ、あながち間違っていないし良いか。
「ほうほう、ではしばらくは予定は決まっていないのですね?」
「はい」
予定は未定ってやつです。
「では風兎さん、単刀直入に言います。わしらの座に入りませんかい?」
「…………は?」
一瞬、言われた内容に頭が追い付かなかった。
「先ほど風兎さんがやられたあの『おるごぅる』とやらはあれは見た目も音も奇麗じゃし、わしらの一座には無いもの……異国から来たものじゃからそんじょそこらじゃお目にかかれん。
是非ともわしらの座に入って欲しい」
なるほど、それはつまり……。
風兎はこう解釈した。
「金になるだろうから入って欲しいってことですか」
「かっかっか!まぁ、つまるところはそうじゃなあ」
老人は愉快そうに笑った。
「労働状況はどんな感じですか?」
「労働状況?ふむ、そうさなあ……基本はみんな練習以外は自由に過ごして構わん。
ただし、舞台の準備など忙しい時は手が空いている限り手伝うこと。
一日のうち、必ず一度はみんなで食事をとることが大まかな決まりじゃな。
細かい決まりは入ってから話そう」
何だか疑似家族みたいだと風兎は思った。
「因みに、わしらのこれからの予定は、武蔵で三月程過ごしたら次は京に向かって移動する予定じゃ」
京、京都か。
予定を聞いて頭の中で色々考えた末、風兎は聞いた。
「例えばの話なのですが、見世物、もしくは従業員として移動だけ共にして現地で別れるのもありですか?」
「んむ、ありじゃな。
実際、何か芸を持っている奴はそうゆうふうにして移動しておるのもおる」
「賃金は?」
「みんなで芸をして籠に投げられた分やおひねりは折半、個人舞台は3分の1以外全て芸人の物。
たまにある屋敷で芸をするのはみんなで山分けじゃ」
「食事代は?」
「皆で出す」
「住まいは?」
「この荷馬車数台じゃな。」
考えてみる。
住む場所があり、自分の芸の高さに値段は変動するが賃金がある上に更には食事つき。
なかなか悪くない。
「……分かりました。そのお話お受けします」
よろしくお願いしますとぺこりとお辞儀する。
「こちらこそ宜しゅう頼みます」
それにつられてか老人もお辞儀してきた。
あぁ、そう言えば。
「勝手に承諾してしまいましたが、こちらの長の許可を貰わなくて良いのですか?」
風兎の言葉に老人はきょとんとし、唐突に笑い出した。
「いや、すまんすまん。そう言えばわしは自己紹介がまだじゃったのう。
わしは伯田呉汰、この一座の長じゃよ」
「……One more repeat please」
「わん、盛りぷりず?」
言われた事が理解できず思わず英語で聞き返してしまった。
「げふん、失礼。えっと……あなたが、長?」
「さよう」
立派なアゴヒゲを撫で、言われた。
「マジですか」
「まじ?」
「あぁ、マジじゃあ通じないのか。本当ですか」
「本当じゃな」
今までの振る舞いを振り返ってみる。
…………。
うん、気にしないことにした。
「あ、じゃあ、これからよろしくお願いします」
「うむ、存分に稼いでくれ」
「……あー、期待しないで下さい」
私にそんなスキルは無いはずだ。
こうして風兎は芸人になった。
広辞典には載っていませんでした(笑)