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どさまわりとの遭遇

どさまわりって名乗っている人ってまだいるんでしょうか?


 突然だがみなさんは『トキソバ』と言う落語をご存知だろうか。

 一言で言うと蕎麦屋の勘定を誤魔化す(はなし)なのだが、何故今この話をしたのかと言うと、菓子を売る時にこの話を思い出し、蕎麦一杯の値段を基準に菓子の値段を決めようと思ったからだ。


 客の一人に聞いたところ、今は蕎麦一杯17文らしい。

 飴一つで蕎麦一杯と同じ値段なら買う人は少ないと計算し、蕎麦より少し安い位の値段設定をした。


 チョコはともかく飴はやはり手を出しやすい値段だったらしく一つ二つと売れ、一時間もしないうちに残り五個となった。


 クッキーは何故か『甘煎餅かんせんべい』といつの間にか勝手に名前を決められ、五枚で50文といった自分で言うのも何だがぼったくりに近い値段だがすぐに売り切れた。


 「何この新食感!?」

 てノリだった。


 チョコは少し値が張ったからか板チョコ半分位しか売れなかった。

 いや、半分でも売れた事を喜ぶべきかな。


 だいぶお金は稼げた気がする。

 親切な人から貰った麻袋がパンパンになった。

 作業服の右足のポケットが異様に重くなっている。


 確か飴は五十個位あった気がするから四十五個売ったとして、計算してみる。


 15×45=675文になる。

 更に、クッキーを六セット売ったから、

 50×6=300文

 更に更に、チョコレートを半分売ったから、

 25×10=250文


 それら全てを足すと、

 1225文になる。


 トキソバは一杯16文で現代の値段に換算すると500円位だったから1文31円位のはず。

 計算してみる。


 31×1225=37,975円。

 わぉ、一時間足らずで稼いだにしてはなかなかリッチだ。


 さっきお金の単位を聞いた所100文で1朱といった単位になり、4朱で1分、4分で1両になるらしいから今私の手元には3分と飛んで25文あることになる。

 ……うーん、めんどくさい。


 簡単に言うと蕎麦を七十二杯食べれる値段。

 不思議だ、桁が一つ違っただけで一気に

 「何だそれだけか」

 って気分になる。


 わんこそばなら一回で食べきれる量だなと風兎は思った。


 懐中時計で時間を見ると午後一時をまわった所。

 とりあえずもの凄くお腹が空いた。

 何か食べようと思ったが、ここは只の人通りの多い道、もっと町の方に歩かないと食べ物屋はないらしい。

 しかも町まで歩いて半刻、つまり一時間位歩くらしい。

 マジでか。


 正直、かなり空腹なので朝の残りの栄養補助食品を食べながら歩こうかと考える。


 ぎゆぅるるるる〜〜


 うん、そうしよう。


 風兎がポケットを探っていると背後から声をかけられた。


 「坊っちゃん昼、まだかい?」


 振り返るとなにやらニコニコと人当たりの良さそうな笑みを浮かべた老人がいた。

 また男に間違われるのか……とややげんなりしながら答える。


 「はい、まだです。それがどうかしました?」

 「いえねぇ、わしはどさまわりの一座のもんなんだすが、あんたのその見たことがない恰好に興味を持ったんだよ」

 「どさまわり、ですか?」

 「そうだよ。どうだい、昼がまだならわしらと飯を食いながら話でも」


 風兎らどさまわりとは一体何なのかは知らなかったが正直食べ物にありつけるのはありがたい、とこの誘いを受けることにした。


 もし、叶がこの時の風兎を見たらこう言っただろう。

 『食べ物に釣られて知らない人についていくんじゃない!あんたは小学生かっ!!』



 老人に着いてしばらく歩くと広い空き地の様な場所に出た。

 そこには数台の荷馬車のような物の周りを十七人位の人達が忙しげに動き回っていた。


 風兎と同じ位の年の子や年配の方や幼い子等様々な年代と性別の人達がいる。

 どうやら食事の支度をしているようだ。

 老人に言ってそこに混ぜて貰い支度を手伝おうかと申し出たが、「客人はじっとしておれ」と断られてしまった。

 既にほとんど終わっていたのかすぐに準備が出来た。


 「では、まずは自己紹介を……」


 ぎゆぅるるるる〜〜

 老人の言葉を遮るようにして風兎(かざう)の腹の音が響き渡った。


 「……その前に食事にするかのぅ」

 「すみません……」


 穴があったら入りたい風兎だった。


 「それじゃあ、いただきます」

 「「「「「いただきます!!」」」」」


 老人の号令で食事が始まった。

 何の肉かは分からないが、肉と野菜を煮込んだ汁物を食べる。


 うん、美味い。

 五臓六腑に行き渡る味だなぁ、何て阿呆な事を考えてみる。


 しばらく食事を取ってから自己紹介が始まった。


 「さ、先ずは客人から」

 「私は風兎と申します。訳あり、旅をしております」


 旅は旅でも時間旅行だが間違いは言っていないと思う。


 「かざう……?へぇ、洒落た名前だねぇ、うちは伊代(いよ)って言うんよ。こっちは相棒の太一(たいち)よろしくね」

 「よろしく」


 右隣に座っていた、髪を頭の左右で輪のようにした髪型の私より少し年下らしき可愛らしい少女とその横にいる筋肉隆々な大男が声をかけてきた。

 それを皮切りに様々な人が自己紹介をしてきたが風兎は人の顔と名前を覚えるのが苦手なので自己紹介される端から忘れてしまう。


 何人かと自己紹介した時に、ふと先ほどから疑問に思っていたことを聞いてみる。


 「こちらこそよろしくお願いします。

 ところで、さっきから気になっていたのだが、どさまわりとは一体何なのですか?」

 「げほっうぇほっ!っ!?知らんのかい!?」


 左隣に座っていたさきほど誘ってくれた老人が思わずむせる程驚いた。


 「あ、あぁ、聞いたことがない」

 「大体は良い所の坊っちゃんでも知っとるぞ、本当に坊っちゃんは何処で育ったんじゃ?後で聞かせてくれないかのう?」

 「ア、アハハハハ」


 まさか

 「私は未来人です」

 何て言えず笑って誤魔化す。


 「どさまわりっちゅうのはの、芝居やら芸なんかを見せてお金を稼いで回る者のことじゃ。

 わしらはどさまわりはどさまわりでもちょっと毛色の違う一座でのう、わしらの座じゃ芝居や軽業の他に普通じゃあまり見かけない奇術もやっとるもんで結構有名なんじゃよ」

 「へぇ、そうなんですか」


 ようは旅芸人ってことか。


 「へぇって坊っちゃん…………」


 何故か肩を落とす老人に首を傾げる風兎だった。


 「どさまわりは知らんでもわしらの座の名前は知っとるかもしれんな、『隻翁(せきおう)』じゃ」

 「はぁ」


 隻翁?相撲取りみたいな名前だなぁ、あ、あれは白鴎か。


 と一瞬一人漫才を風兎は繰り広げた。


 自信満々で言われたところ悪いが全く知らない。

 いやだって現代人だし、この時代の流言なんて知らんがなと意味もない弁解をする。


 「なんじゃい、聞いたこと無いんかい……。

 坊っちゃんみたいな若者も知らんとは、わしらもまだまだじゃのう」


 いや、ただ私が特殊なんだと思うのだけれど……。

 風兎はそう思ったが説明も出来ないので黙って汁物をすする。

 そんな風兎を他所に老人は風兎に座の良さを知って貰おうとメラメラと燃える。


 「どれ、少しわしらの実力を見せてやるか、皆の衆」

 「おぅ!!!!」


 老人の呼びかけに他の人達が力強く頷いた。


 そこからが凄かった。

 昼食もそっちのけで皆我先にと風兎に自分達の芸を見せてくれたのだ。


 先ほど自己紹介があった伊代は軽業師だった。


 太一と呼ばれて大男の体の上を走り、天高く跳躍。

 まるで重力など存在しないかのようにふわりと空中で一回転し太一の手の平の上に着地、そのまま太一の腕力で上に飛ばされ後ろに回転しながら纏っていた衣を脱ぎ落とし、それに注目を集めている間に素早く前に飛び出る。

 端から見るとまるで瞬間移動をしているようだ。


 何も無い空間から物を取り出したり仕舞ったりする奇術師を名乗る青年。


 これは現代でもあるなぁ

 と思った。


 何の劇かは分からないが喜劇を迫真の演技で演じてくれる人々。

 それらに時に笑い、時に手を叩き拍子を取り、時にやんやと煽り、時にからかわれ赤面し、あっという間に夕方に近い頃合いになった。


 「おっといけねえ!坊っちゃんの話を聞くはずがすっかりわしらの芸をみせるためになっちまった」


 老人はハッとしてそう言い心底残念そうな顔をした。


 よし、作戦大成功。

 と風兎は心の内でガッツポーズをした。


 話と言ってもトリップしてきたという話は端から見たら只の頭の可笑しな人が言う戯言だ。

 嘘を吐いてその場しのぎをしようにもこの世界に疎い風兎が吐いた嘘なんかすぐにボロを出すに決まっている。

 だから、彼らのプライドを煽って見世物をしてもらい話す時間を無くす事にしたのだ。

 自分の仕事に自信がある人はそれを知らない人に凄さを知って貰おうとする傾向が強い。

 上手くいって良かった。


 「話は長くなるので出来ませんが、私の故郷の摩訶不思議なカラクリをお見せしましょう」


 これくらいなら食事のお礼にしても良いだろう。


 風兎の言葉に老人は顔をパアッと輝かせた。


 「何?それは本当ですかな!?是非ともお願いする」

 「はい、では先ずはこちらの箱をご覧下さい」


 そう言いながら白衣のポケットから現代から偶々持ってきたあのオルゴールを取り出した。

 オルゴールは銀色の鉄で出来た飾りやストーンを散りばめた細かな細工で覆われており、キラキラと炎の光に煌めいている。


 「ほぅ、見事な……」


 その美しさに周りにいた人達はどよめいた。

 自分でも自信作だったので内心鼻高々だ。


 「これの中に付いているネジを巻くと……」


 オルゴールの中を自分以外の人には見えないようにして蓋を開き、ネジを巻くと静かにAmazing Grace(アメイジング・グレイス)の音色が流れ始めた。


 「これは……とても良い音ですが、聞いたことのない調べですな」


 小言で聞いてくる老人の言葉に頷く。

 まず、知らないのが普通だろう。

 そう言えば、今って何時代なのだろうか?江戸時代かな?


 と風兎は一瞬思ったがそれはひとまずおいておく。

 老人に合わせて小言で返答する。


 「これは海外……異国の曲なんです。賛美歌で、よく教会で歌われます」

 「さんびか?」


 どうやら賛美歌を知らないようだ。


 「手っ取り早く言うと神様のために歌う歌みたいなものです」

 「?祝詞みたいなもんかのう?」

 「えぇっと……まぁ、そんなものです」


 なんか違う気もするが訂正するのも面倒なので適当に肯定する。

 説明するうちにやがて巻かれた分が終わり、オルゴールが沈黙した。

 ポツリポツリと手を叩く人が現れ、遂には全員から拍車を貰った。



 「素晴らしいカラクリですな!」

 「ありがとうございます」


 誉め言葉にお礼を返す。


 その後、色んな人からオルゴールの仕組みを聞かれたから、地面に簡単に絵を書いて音階の異なった突起がついたローラーみたいなのを回転させて、その突起の部分をピンが弾いて音が鳴ることを説明した。


 が、

 「坊っちゃんの言うとる事は難しくて分からんわい」

 と不評だった。


 何故だ。



知っている人は知っている言葉、どさまわり。

ようは旅芸人のことです。最近では、地方を営業する芸人が自嘲気味に言う言葉なのだとか。

2013.12/30 修正

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