やっとここまで来た
本当、大分時間掛かりました。
風兎の読み通り公演は滞りなく終わった。
後は演劇だけだしこの症にあわない衣装を着替えたかったのだが、着替えるのはまだ先だと言われたので殿様に扇風機を売り付けるのかと予想している。
二三たちが劇を見せている間は後片付けを少ししてから休憩する事になっている。
撤退の準備を手伝いながら風兎はふと思い出した事を燎次に言った。
「なぁ、とっても美味しい極上のご飯ってどんな物だと思う?」
「何だ唐突に、腹でも減ったのか?」
からかう様な燎次の眼差しを手で払い、会話を続ける。
「違う。
さっきここの女中さんが言ってたんだ、ここの主人は私たちにとっても美味しいご馳走を食べさせてくれるんですって。
何だと思う?」
「あぁ、そう言うことか。
じゃああれだろう」
「あれ?」
小道具を箱に詰めながら事もなげに燎次は言った。
「人間」
「…………ごめん、ちょっと耳の調子が可笑しいみたいだ。
人間って聞こえた気がするが人参の聞き間違えだよな?」
「いや、お前の耳は正常だ。
ここの奴らは人間が好物なのが多い、もちろん違うのもいるが八割は人間が好きな奴らだ」
「えーと…………」
同族殺し?同族喰い?カニバリズム?人喰い種?共食い?
燎次の言葉に対する反応に困り、様々な単語が脳内で羅列すると共に笛吹との会話を思い出した。
『貧しい人や身寄りの無い人を集める理由は突然いなくなっても誰も怪しまない(・・・・・・・・・・・・・・・・)』
いなくなっても怪しまれないなんて旅芸人は格好の餌じゃないかと青くなる。
「……じゃあ、私らも不味いんじゃ」
「いんや、俺らは大丈夫だ」
特に何も気負う事なく言った事から燎次のその自信が伺える。
「何故?」
「だって流石に同族喰いをする奴らは居ねぇからな。
あ、でもお前は危ないかもだからなるべくみんなの近くにいろよ?
……俺の近くでも良いぞ、その…………ま、守ってやるから」
燎次の言葉に不吉な単語が含まれていた気がする。
「……同族?」
「おぅ。
あ、でも『隻翁』には人間食う奴は居ないぞ?」
「あ、そうなんだ」
麻痺する思考でとりあえず返答する。
ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待てよ。
脳の情報処理が追い付かない。
同族?人間を食べる?
訳が分からない。
燎次は、いや、燎次たちは一体……何なんだ(・・・・)?
「なぁ、燎次」
「んー?」
こちらに背を向けて片付けを続ける燎次。
嫌な予感を覚えながらも渇いて口に張り付く下を動かす。
「燎次は、いや、燎次たちは一体…………何なんだ?」
「いや、何て」
燎次は作業を止め、こちらを振り返り言った。
「妖怪だけど?」




