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緊縛の健全な使い方

サブタイトルに悩みました。

 「もう一度だけ聞こう。

 それだけを儂に寄越すか、命と一緒にそれを寄越すかどっちがいい?」

 「どっちも嫌に決まってんだろうが」

 「殺せー!!!」


 正直に答えた瞬間家臣が一斉に刀を抜いた。


 途中までは順調にいっていたはずなのに何故事ある事に厄介事に発展するのだろうかと不思議に思う。

 家臣による包囲網が狭まる中、風兎は一座のみんなに迷惑かけるなぁと言う気持ちだった。


 そして、気になる事が一点。


 「何でみんなそこまでしてこれを欲しがるかねぇ」


 秘湯での一件と言い、人を殺すと言うハンデを背負ってまで手に入れたがる意味が分からない。

 ひょいっと頭の上に落ちそうで落ちないバランスでオルゴールを乗っけると殿様の目の色が変わった。


 「ばっ!?馬鹿か貴様は!?

 割れてしまったらどうする!?」

 「別にどうもしない」


 にべもなくそう言い放つ。

 言うならばあれだ、どうしようがお前には関係ないって奴だ。


 あ、みんなに迷惑かけるってさっき思ったけどこの状況的に迷惑どころかみんなが命狙われてたらどうしよう。

 ちょっと不味いかも。


 ここまで考えてようやく焦りを覚えた風兎だが、特に解決策が思いつく訳でも無く、八方塞がりだった。


 唯一の救いは、風兎が頭にオルゴールを乗せた時から包囲網が狭まらなくなった事位だ。

 殿様に視線をやると、風兎の頭の上でぐらぐらと揺れるオルゴールを実にハラハラした表情で見ている。


 「………」


 ニヤァッと風兎の顔に笑みが浮かんだ。



 「んー、遅いねぇ。

 風兎ちゃんは一体いつまでかかるつもりなのかしらぁ?

 ちょっと笛吹、風兎ちゃんの様子見て頂戴な」


 そう二三に言われた笛吹は風呂敷の中から髭を生やして杖を突いた長老と言う言葉がぴったりな人形を取り出した。


 『現在、お目当ての人物は部屋の中で刀を持った男たちに囲まれておるわい』

 「はぁ!?」


 しばらく愕然とした二三だったが、直ぐに風兎を助けねばと慌てだした。

 が、長老人形はそれを杖を振ることで制止する。


 『んむ、助ける心配は無いようじゃ。

 どうやら殿を人質に取った模様。

 状況は完全にあやつの独壇場よ』

 「はぁ!?」



 「なぁ殿様、上に立つ人間が下の人間に下剋上される気分ってどんな感じだ?」


 目の前にいる殿様を指で突っつくと涙目で睨まれた。

 家臣たちはどうしたら良いのか分からないと言った表情を互いに見合わせている。


 殿様は今現在、後頭両手縛りと呼ばれる縛りかたで風兎の前に膝ま付いていた。

 後頭両手縛りというのは両手を頭の後ろで組んだ状態で縛る縛り方で、西洋では服従のポーズと言われている。

 西洋のことは分からなくても屈辱的な事だと分かるのだろう、真っ赤な顔でワナワナと震えている。


 うん、中々良い気分だ。


 本当は後手胸縄縛にしようかと思ったが、縄が一本しか無かったので諦めた。

 後手胸縄縛とは、高手小手縛りなどその他様々な名称がある緊縛の最も一般的な縛りかたの一つだ。

 後ろ手に組んだ腕の手首を肘より上に縛り、胸の上下に胸縄を巻くという格好で胸が強調されるためメタボな殿様の胸が強調されてさぞ面白い事になるだろうと思っていたのだがこれは縄を最低でも二本使うので数が足りなかった。

 残念だ。


 ちなみに縛りかたは叶の幼馴染み直伝だ。

 あの時はこんなの知ってどうするんだと思ったが割りと使用場面が多いので人生何があるか分からないものである。


 そして、風兎の前に膝ま付いている殿様の隣にはもう一人殿様が立っている。

 オルゴールの機能の一つだが、この場にいる中に知っている人はいないので混乱を招いている。


 『殺せー!!!』

 「ま、待て!殺すな!!」


 全く逆の命令を下す殿様にどっちが本物なのか家臣は判断に迷っている。


 事態は膠着状態に陥るかに思われた。


 「なぁんてな」


 パチンッ


 何処からか指を弾く音が聞こえたかと思ったらパリーンッとガラスが割れる音がして殿様と家臣は我に帰った。

 立ち上がっていたはずの体制も元の座ったままの姿勢だ。


 「如何でしたか?

 私の新しい奇術は?」


 呆然としている殿様の前には微笑んでいる燎次がいた(・・・・・)。


 「い、今のは………」

 「はい、私の新しい奇術です。

 本邦初公開なのですが、よろしければ感想を教えて下さい」

 「奇術………」


 はぁー、と安堵のため息を吐いた殿様は緊張で固まっていた体の力を抜いた。


 「……中々に臨場感があった」

 「ありがとうございます」

 「…………のう、何処からが奇術じゃったのじゃ?」


 そう訊ねてくる殿様に燎次は悠然と微笑んだ。


 「それは、秘密です」



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