機嫌が悪い時に限って苛つく出来事が起こる時が多い
機嫌が悪いからこそ細かいことで苛つくだけかもしれませんがね(笑)
イライライラ
「ほうほう、お前が『扇風機』の制作者なんじゃな?」
「……はい、その通りでございます」
「ふむ、容姿端麗でこのような物を作り出せるほど頭が良いとは……才色兼備とはお主の為にあるような言葉よのぅ」
「……私の様な者には勿体のうお言葉です」
イライライラ
頭を畳に付く位低く下げ、相手から見えないのを良いことに顔を盛大にしかめる。
目の前でふんぞりかえっている太った油ギッシュなおっさんからくる全身をなめるような視線が大変不愉快だ。
それだけならまだ我慢できる。
我慢出来ないのは今自分が見に纏っているやたらとヒラヒラしている服だ。
何か肌がスースーする。
何かちょっと動く度に布が当たってくすぐったい。
何か、こう、あああああ!って髪を引っ掻き回したくなるようなむず痒さがある。
あぁ、やっぱりこの手のヒラヒラした服装は嫌いだ。
こう言うのは、叶とか伊予みたいな女子!って感じの女の子が着る物であって決して私のようなしょっちゅう男に間違われるような奴が着る物ではない。
さっきから中で待機している家臣の人たちもちらちら見てくるし、絶対似合ってないと思われている。
んなこたぁ分かってんだよ!
と叫びたい。
実際には風兎は化粧係たちの腕により現在立派な美少女と化しており、桃色の衣装と合い極まってまるで桜の精のような風貌となっている。
家臣たちがちらちら見ているのは風兎が綺麗だからで決して笑っている訳ではないのだが、自分の外形を全く理解していない風兎は嘲笑されているとしか思っていなかった。
そして、殿様の視線、家臣の目、衣装と様々な要因のせいで表面上は微笑を浮かべている風兎だが、今現在最高に機嫌が悪かった。
「んむ、ではこちらで『扇風機』を一つ買おうかのぅ。
詳しい打ち合わせは後ほど2人で………のう?」
下卑た顔で意味深に笑う表情に下的な意味だと理解した。
何が2人で、だ。
買って貰うのは嬉しいがそれ以外は願い下げだ。
なので、こんな状況になった時の為に用意した言い訳その1を使わせて貰う。
「本当ですか?
では、後ほど担当の者と2人で伺わせて頂きます」
「いや、その2人ではなく余と2人でじゃ」
「すみません、そう言うことでしたか」
「分かってくれれば良いのじゃ」
「では後ほど、担当の者を1人で向かわせますね」
「………2人で来なさい」
「畏まりました」
あからさまなお誘いを交わす作戦その1、言っていることに対して噛み合っているようで微妙に噛み合っていない返答を返す。
要するに揚げ足取りだ。
旅芸人は後腐れ無いからとこう言うお誘いをする輩が多いのだと二三が言っていたので、角を立てず交わす方法を伝授して頂いた。
ちなみにこの後は元の恰好に戻って打ち合わせに向かう予定だ。
好色爺の思い通りに何かするもんか。
扇風機はきっちり売り付けるがなっ!
もう一度言おう。
風兎は今現在最高に機嫌が悪かった。
殿様のお誘いを華麗に避けてしかめっ面を浮かべさせたことで多少はすっきりしたが機嫌が治る程では無かった。
そして、殿様の次の言葉は風兎の機嫌を更に悪化させるのには充分な内容だった。
「して、先ほどそなたが使ったおった『おるごうる』とやらじゃが、一介の旅芸人が持っておるにはちと不釣り合いじゃと思わんか?
儂が有効活用してやろう、金100両でどうじゃ?」
「は?」
一瞬言われた事が理解出来なかった風兎だが理解した瞬間先ほどまで微笑を浮かべていたその顔から表情が抜け落ちた。
「200ではどうじゃ?」
「………申し訳ありませんがこれは売り物ではないので売れません」
「足りんか?
では300、これ以上は出せんな」
「………いくら金を積まれようが私はこれをどなたにもお売りする気はございません」
「それを売れと言っておるのが分からんか」
苛立ったように言う殿様にこちらも苛立つ。
「何と言われても無理な物は無理です。
これは私のではなく、私の友人の為の物です。
私の手を離れる時はこれが友人の手に渡る時のみ、それ以外はあり得ません」
きっぱりと断りの返事をする。
さて、殿様はこれに対してどう出るか………。
「そうか、では力ずくで奪うしかなさそうだな」
その言葉に控えていた家臣の人達が一斉に立ち上がった。
あー、こういうパティーンかい。
ちょっと殿様短気でないかい?
うん、どうしようかっこ笑いかっこ閉じる。
いや、笑い事じゃないんだけどね。




