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女装?いいえ、ノーマルです。

 クラスに必ず一人は女子より白くて細くて女顔で女装が似合いそうな男子いましたよね。


 ちなみに私の同級生の一人がそんな容姿なのに、髪がベートーベンの残念な奴です。

 燎次の奇術も終盤に差し掛かってきたところだし、そろそろ準備を始めようかと腰を上げると二三に手招きされた。


 「風兎ちゃん、今回は衣装これ着て貰うから」

 「え、」


 手渡された布の塊を広げると、金糸と銀糸のような綺麗な糸でできた豪華な刺繍がされたひらひらとした衣装。

 例えるなら後宮の姫君とかが着そうな可憐な服。

 これが似合うのは私ではない、伊予だ。


 思わず頬がひきつる。


 「ちなみに、発案、設計、制作は晴披」

 「………あの野郎………」


 ピクピクと頬が動き、衝動に任せて手に力を入れようとしたら配合からスパーンッと何かに勢い良く頭を叩かれた。

 見ると、大きなハリセンを肩に乗せた二三がいた。


 「なぁに破こうとしてんのよ!

 今からそれ着て出るっつたでしょうが!

 それとも何?裸で出る気?私は別にそれでも構わないけど?」

 「いやいやいや、滅相もない!!」


 裸だけは何が何でも回避しなければ!


 「んしゃあ、あっちで着替えて。

 着方、分かる?」

 「……多分」


 指指された所にあった人二人分位の大きさの屏風びょうぶの影に隠れて服を脱ぐ。


 はぁ、着たくない。


 

 ………とりあえず着てみたものの、何か足がスースーするし、ひらひらするし動き辛い上に恥ずかしい。

 というかまず、この衣装に自分の短髪は似合わないと思う。

 男が女装したように見えるのじゃないか?

 誰かに見せる前にひとまず自分で確認しようと思った時に気が付いた。


 鏡、無いじゃん。


 よく考えたら鏡は二三の近付くにある。

 何か久々に『文明の利器ぃー!』とか叫びたい気分である。


 あああああと思わず膝をつく。


 「風兎ちゃん、何しているの。

 さっさと出てきなさい」


 二三の呼びかけがまるで包囲網の中の犯人に投降を呼びかけているようだ。


 出たくない出たくない出たくない出たくない出たくない出たくない出たくない出たくない出たくない。

 呪文のようにそう心の中で呟くが何かの効果がある訳ではなく、衣装お披露目の瞬間が迫ってきた。


 「風兎ちゃーん?覗くわよー?」

 「く、来るなー!」

 「じゃ、行くわね」


 必死の叫びは聞かなかった事にされた。

 青くなりながら隠し扉に期待して壁に背中を付けるがそんな物があるわけでもなく。


 「あら?」


 二三に姿を見られてしまった。

 絶対笑われるっと目をギュッと瞑った風兎だったが二三の反応は違った。


 「キャー!やっぱり似合うじゃない!

 私の目は正しかったわね!

 ほらほら、こっちにいらっしゃい!お化粧してあげるから」


 ポカーンとしたまま二三に手を引かれて座布団の上に座る。

 その風兎を直ぐ様化粧係の数名の女性が取り囲む。


 「わー、肌すべすべー。赤ちゃんみたい!」

 「髪もサラサラしてて絹みたいよ、ほら!」

 「本当、さわり心地いいわねぇ」

 「睫毛長いし二重だし目は大きいし、これはやりがいあるわね」

 「やっぱり元が良いのが一番腕がなるわ!」

 「そうそう!私この間さぁ………………」


 ペチャクチャペチャクチャと風兎を取り囲んで口を挟む間も無く好き勝手に喋る化粧係。

 女三人集まるとかしましいと言うがこれはかしましすぎだろうっと苦笑いする風兎だった。



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