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昔の人の方が頭が良い気がする

 ことわざとか良い得て妙ですよね。

 この状況にぴったりだ!とたまに感動すら覚えます。

 女中さんに案内されながら城のあちこちに視線をやるがどの部屋もきっちり襖が閉められており、中を見ることが出来ない。

 城に入る機会なんてそうそうあるわけじゃないので色々と中を見たかったのだがこれでは無理そうだ。


 つまんないのーと内心舌打ちをする。

 さて、どうやったら中を見ることが出来るか。


 そうこう考えているうちに廁についてしまったのか女中さんが足を止めた。


 「こちらでございます」

 「ありがとう」

 「ありがとうございます」


 二三と二人、女中に礼を言って中に入る。

 用をすまして服装を整えていると隅にトイレには似つかわしくない漆塗りの立派な箱があった。

 空けて見ると何やら赤茶色っぽいドライフルーツ的な物が入っていた。

 漂ってくる匂いから棗だと推測する。


 何故トイレにドライフルーツがあるのかは分からないが触らぬ神に祟りなし、ソッと蓋を閉じた。


 二三さんがまだ終わらないみたいなので一足先に廊下に出る。

 ………やっぱり女中さんがいた。

 

 「わざわざ案内ありがとうございます」

 「いえ、これが仕事ですから」

 「女中の仕事って、どんな事をするんですか?」

 「仕事、ですか?」

 「はい」


 とりあえず話だけ聞いてみようと話題をふっかける。


 「そうですねぇ、まず、女中に種類があることは知っていますか?」

 「種類?

 うーん、料理を作る係わ主の身の回りを世話する係、ですかね?」

 「なかなか良い線ですね。

 その通りです。

 私の様に接客や主夫妻の世話をさせていただいているのが上女中と呼ばれる物で、炊事や掃除など水回りを担当するのが下女中と呼ばれています」

 「ふむ、上女中の方が立場は上何ですね?」

 「はい、上女中は商家や上層農家の娘などが結婚前の女性に対する礼儀作法や家事の見習いとしてなる事が多いんです。

 この事から奉公を行儀見習いとも言いますね」

 「あぁ、花嫁修行って奴ですか。

 じゃあ、貴女も商家や上層農家の家の出なんですか?」

 「いえ、私は違いますよ?

 と言うよりも私だけではなく、ほとんどの者は貧しい平民の出や身寄りの無い者です」


 あれ?

 何かさっき聞いた話と違うぞ?

 女中さんが苦笑しながらさっき話したのはあくまでも一般的な場合で、ここ、椿城は特殊なのだと教えてくれた。


 あれか?

 平民の娘を立派な淑女へと育て上げて金持ちへと嫁がせる、言わばシンデレラガールにするためにここの当主は頑張っているのか?

 だとしたら良い人だな!


 「そうなんですか。

 当主は良い人なんですね」

 「ええ、私たちの為に美味しいご飯を用意してくれますしね」

 「美味しいご飯?」

 「ええ、とっても美味しい、極上の物ですわ」


 うっすらと笑みを浮かべた女中に何故かゾクリッと寒気を覚える。


 「風兎様も是非、味わってみませんか?」


 喋る度に口から覗く犬歯を注視しながらその問いかけに答える。


 「………興味はありますね」

 「そうですよね。

 では是非今度またいらして下さい、お一人で!」

 「一人、ですか?」

 「はい、あまり来られると食べられる量が減ってしまいますから」


 ジリジリと女中さんが近付いてくる。

 それに伴って風兎もジリジリと後退するが、遂に背中が廁の扉にぶつかった。


 「それとも、何なら今から食べに行きますか?

 行きますよね?

 行きましょう!」


 女中の手が風兎に伸ばされた時、後ろの扉が開かれ、扉に体重をかけていた風兎わ後ろへと倒れた。


 バインッとなにかにぶつかり肩を抑えられた。


 「残念だけどうちの風兎ちゃんはこれから仕事なの。

 その食事に付き合う暇は無いわ」


 見上げると顔の直ぐ近くに二三の顔があった。

 二三は真っ直ぐ女中を睨み付けている。


 「………」

 「………」

 「………そうですね、すみませんでした」

 「いえいえ、分かって貰えて何よりよ」


 沈黙と視線の応酬の末、折れたのは女中だった。


 「では、お部屋へ案内します」


 先立って歩き出した女中の後を追う。

 行きの際は気にはならなかった沈黙が今はとても気まずい。


 気まずさから逃れるために、この時代で作れそうな物を色々と考える事にした。


 「………では、私はこれで」


 ハッと気が付いたら部屋の中だった。

 うーむ、思ったより思考に集中し過ぎてしまったらしい。


 あ、そうだ。


 「あの、さっき廁に漆塗りの箱があったんですけどあれってなんですか?」


 風兎の疑問に二三は何てことはないとサラリと答えた。


 「くさにおいを嗅がないために鼻に詰める干し棗よ。

 まさかあんた、食べたり何かしてないでしょうね?」

 「えぇぇぇ!?

 いやいや、流石にあんな非衛生的な所にある物なんて食べませんよ!?」

 「そ、なら良かった。

 たまにいるのよねぇ、お菓子が用意されていると思って食べちゃう奴」


 想像して気分が悪くなった。


 触らぬ神に祟りなしとは昔の人は良く言った物だとしみじみと実家した風兎であった。



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