「これでも、食らえ!」と口に食べ物を突っ込んでみたが別にシャレではない
実際には勢いよく口に食べ物突っ込まれたらむせかえりますよね。
私の場合コーラを突っ込まれて溺死するかと思いましたが。
狢首と名乗る男が姿を消したので、とりあえず本日の演目は終了とすることにした。
片付けと言っても私の場合はオルゴールをポケットに仕舞うだけなので直ぐに終わる。
一応後で可笑しな部分は無いかと確認をしようと思いながらポケットの中に仕舞い、代わりにお菓子を取り出した。
本日のお菓子はチョコレート大福だ。
餡子の代わりにチョコレートが包まれた、皮の甘味とチョコレートが生み出すハーモニーが甘党には堪らない一品。
私が持っているなかでチョコレート大福はこれで最後の一つだ。
大事に味わって食べよう。
そう思いながら口に運ぶと、舞台の脇から誰かが飛び出して来た。
「大丈夫か!?っと、わぁ!!?」
「!?」
勢いよく飛び込んで来た誰かは勢いを止められず、前に勢い良く転倒。
そして間の悪い事に、倒れた先には風兎がいた。
自分より一回りは大きいその人物を支える事など出来ず、必然的に一緒に倒れる事となった。
思わず閉じた目を開くと直ぐ目の前に燎次の顔と唇に当たる柔らかな感触。
唇に当たる物を理解した瞬間、燎次の頭を地面に打ち付けたくなった。
今のこの状態を信じたくは無いが、自分にのしかかる重みがこれは現実だと教えてくる。
しばらく、といっても3秒位だが、フリーズして見つめてあっていると燎次が覚醒して勢いよく身を起こして下がって行った。
ゴンッとか言ってるけど気にしない。
「〜っ………わ、悪いっ!!!」
手の甲で口を押さえてみるみるうちに赤くなっていく顔。
おい、何赤くなってんだ?
何、若干瞳潤つかせてんだ?
乙女か貴様は。
あの反応だと絶対勘違いしているだろうな、とため息を吐きながら腹筋を使って起き上がると床の上にポトッと柔らかい物が落ちた。
それを指でつまみ上げる。
「おい、燎次」
「な、なんだよ」
「とりあえず口回り舐めてみな」
「は?」
「良いから早く」
おずおずと舌を出し、口回りを舐めた燎次は目を見開いた。
「………甘い」
「チョコレート大福………最後の1個だったのに……」
古今東西より食い物の恨みは何よりも恐ろしいとされている。
風兎もまた、その例には漏れなかった。
まぁ、単に食い意地が張ってるというだけなのだが。
無言で立ち上がり、ジリジリと近付いてくる風兎に燎次は頬をひきつらせた。
「ま、待て!話せば分かる!」
「私は特に話す事は無い。
とりあえず黙ってこれでも食らえ」
「むぐっ!?」
問答無用で燎次の口にチョコレート大福を突っ込んだ。
土足で歩いた所に落ちた物は流石に食べる気にはなれない。
かといって捨てるのも惜しいので恨みも込めて燎次に食べさせる事にした。
「どうだ?美味しいだろう?」
口をモグモグさせたまま頷く燎次。
「最後の1個、それを味わうのを……」
そう呟きながらオルゴールを取り出す。
いやぁ、偶々燎次の嫌いな物を知ってネタに作ったのがこんなことで役立とうとは。
誰にも見せる気はなかったんだけど今は燎次以外誰もいないし良いか。
オルゴールの蓋を開き、ボタンを押してコードを呟く。
「bug luxury hell」
範囲は燎次の周辺限定。
「一体何を……?」
「ん?お仕置きって奴だよ。
まぁ、ちょっと地獄を見て貰おう」
「へ?」
冷や汗が垂れる燎次。
「じゃあ、スタート!」
閉館間際な風兎の出し物部屋から、世にも恐ろしげな絶叫が聞こえたとか聞こえなかったとか。
燎次がしばらく風兎を見てびくつくのはまた別の話。




