最近ではあまり時代劇がテレビで放送されなくなった気がする。
ちなみに私は小さい頃『暴れん坊将軍』が好きでした。
目が覚めた。
一瞬、自分がどこにいるのか理解できず、起き上がろうとした所で、体が動かないことに気付いた。
身動きが取れない事にプチパニックを起こしかけながら自分の体を見ると、白衣でしっかりと枝に固定されている。
それを見て昨夜自分が木の上で寝たことを思い出した。
一度寝てまだここにいるということは、やはり昨日のことは夢ではなかったらしい。
実験という可能性も否めないが、現時点でそれを確認する方法は無いので保留とする。
白衣を解き、するすると木を降りる。
昨夜の記憶を頼りに歩くとやはり思った通り人が踏み固めた道があった。
道の先を見ると木の影が邪魔をしているため見え辛いがくねくねと長い道が見えた。
ここで突っ立っていたって何も変わらないと思い、とりあえず歩いてみることにした。
ぐ〜ぎゅるるるる
歩いているとお腹がふっている事に気が付いた。。
「あぁ、そういえば叶の所で食べたっきり何も食べてなかったな」
ぽつりと呟き、白衣のポケットからあの有名な大豆で出来た栄養補助食品を取り出して歩きながら食べる。
これはフルーツトマト味やバナナ味、ストロベリー味などがあっておいしいと思う。
……おいしいのは良いのだがなんだか、だんだん喉が渇いてきた。
が、手元に飲み物はない。
周りをキョロキョロと探し耳を澄ましてみるが、近くに川のようなものはなさそうだ。
諦めるほかない。
とりあえず食べかけだが喉が渇いてしょうがないため、栄養補助食品を再び白衣のポケットに仕舞い、作業着のポケットの一つからのど飴を取り出し口に放り込んだ。
喉をスッとさせるから喉の渇きを癒してくれるかもしれないと思いついたからだ。
水ではないが、渇きはマシになった。
朝の澄んだ空気を吸って森林を歩く……うん、なんだかすごくリラックスできそうな響きだ。
段々と気分が乗ってきた。
くねくねとした曲がり道を鼻歌混じりで歩いていると、いきなり道は開けた。
「え……?」
そこは草の生えていない綺麗な道で、風兎の目の前を着物を着た人たちが彼女を訝しげな目で見て横切っていく。
刀を下げている人、台車を引いている人、天秤棒を担いで歩く人。
行き交う皆が皆、着物だった。
その光景はさながら時代劇のセットに迷いこんでしまったようだ。
しばらく、脳での処理が追い付かずポカーンとしてしまった。
「あのー、すみません。ちょっと良いですか?」
「あぁ?」
風兎はとりあえず通りかかるうちの一人、台車を引いている人に声をかけるかける事にした。
「ここは何処、というか何ていう場所ですか?」
「はぁ?坊っちゃん阿呆でねがね。ここは武蔵に決まっちょるやろが」
小馬鹿にした目で見られた。
ちょっとイラッときた。
そして私は坊っちゃんじゃない、どちらかというとお嬢ちゃんだ。
まぁ、今はそんなことより、
「武蔵……?」
って何処?
別の人を捕まえて聞いても全員が全員
「ここは武蔵だ」
と口を揃えて答えた。
県名で言って欲しいと頼んでも
「県名?何それ美味しいの?」
みたいな反応だ。
たまに
「ところで、奇妙な恰好をしているけれどどうした?服がないなら貸すか?」
なんて聞かれた上に心配そうな目で見られたのでなんかちょっと心が折れそうになった風兎である。
というか奇妙な恰好って……私からしたらあなた方のほうが奇妙な恰好です。
いや、別に着物を馬鹿にした訳じゃないんだけどね。
古き良き日本の文化だし。
閑話休題。
今はそんなことより……
「いや、うん、だから何処なんだよ武蔵って」
誰か私に分かるように言ってくれ。
と風兎は切実に願った。
近くに座るのに丁度良い岩を見つけ、それに腰かける。
イライラを落ち着かせようと苺飴を口に放り込み、考える。
武蔵、武蔵……何か聞いたことがある気がするんだよね。
宮本武蔵?……は違うだろうな、うん。
あの有名なアニメ、ポケットの怪物でムサシって言うキャラクターが居たな、まぁ、どうでもいいか。
最初は自分の現在地について考えていたはずがどんどん思考は脱線していく。
そういえば、一回西武池袋線で運行している特別特急列車を検索したら何故か武蔵って項目があったな。
別名か何かだろうか。
列車といえばとうきょうスカイツリー駅があるな。
そうそう、東京スカイツリーの高さは634メートルで武蔵って語呂合わせだったような。
確か、埼玉とか東京付近の旧国名武蔵国とかけて……ん?
脱線していた思考が思わぬ方向でヒットしたような気がした。
「ハハハハ、イヤイヤ、マッサカー」
あれだ、これは何かのドッキリ企画で時代劇村か何処かなんだ。
うん、きっとそうに違いない。
というかそうであって欲しい。
それかもしくはとてもリアルで長い夢を見ているんだ。
うんうん、あり得るよね!
風兎はそう自分に言い聞かせてみるがあまり効果はなさそうだ。
何となくこれは現実だと本能が告げてくる。
……本能が告げてくる、なんて恰好良く言ってみるがつまりはただの勘なのだが。
それに、認めたくない。
私は発明家とはいえ一応科学者だ。
発明には科学が切っても切れない位密接に関係がある。
空を飛ぶに続くある意味全人類の夢であるが認めるにはいささか非現実的すぎる感じが否めない。
だけど、全員が全員着物、何故か旧国名で言われる地名、私のこの服装に対する多数の奇異の目、これが本当の現実だと仮定したことから考えるとある仮設が成り立つ。
「もしかして、タイムトリップ……か?」
タイムトリップとは、通常の時間の流れから独立して過去や未来へ移動すること、難しく言ってみたが簡単に言うとつまりタイムスリップだ。
ここが江戸ではなく武蔵と呼ばれているのは学校の所在地が埼玉だからかもしれない。
もしかしたらあの桜の木がたくさん生えていた場所は学校があった場所、私の工房があった場所なのではないのだろうか。
そうするとなると、あの無理心中野郎が引き起こしたあの爆発がこの現象を引き起こした原因の一因とみてまず間違いはないだろう。
仮説を立ててみると意外と筋道が通っていた。
「はははは、いや、もうどうしよう」
うん、本当にどうしよう。
途方に暮れ、とりあえずあの無理心中野郎の顔面を思い切り殴りたくなった風兎であった。
和菓子の『きんつば』、あれは刀の一部を真似て作られたそうです。
名前は知っていますが、よく考えたら食べた事ないや。
2014.1/19 修正