変態撲滅運動
変態は変態でも、許せる変態と許せない変態がいますよね(笑)
いつも通り演じ終えた後、私はたった一人の観客に向けてお辞儀をした。
パチパチと拍手の音が虚しく響く。
拍手をしたその人物はその場で立ち上がると、私に丁寧にお辞儀をして言った。
「初めまして、私は『時時雨』と言う座に身を置く狢首と申します。
以後、お見知り置きを」
観客が一人もいないガランとした客席に居るその男と舞台の上に居る私は相対した。
舞台に出た時は焦ったよ。
だって観客が一人しかいないんだもん。
ついにブームが終わってしまったのかと思ったが裏方の人が入場券をこの人が全て買い占めたとジェスチャーで知らせてくれた。
金持ちだねぇ。
券を買い占めたのは、身なりを綺麗に整えた、一見呉服屋の若旦那風な外見で人の良さそうな笑顔を浮かべた若い男だ。
うーん、一体何の出し物を担当しているんだろうか?
曲芸?軽業?奇術師?それとも、腹話術とか?
なんであろうと、浮かべているその笑顔は裏で何か企んでいる様な腹に一物隠している胡散臭さがどことなく漂っている。
顔は、まぁ、整っているのに残念な人だ。
「どうも。
それで?本日はどういったご用件で?
わざわざ券全てを買い取ってまでしてただ見るだけで何も無しって訳では無いのでしょう?」
「ええ、『おるごうる』、見せて頂きましたが中々に素晴らしい物の様ですね」
「お褒めに頂き光栄です」
なんせ『工学の魔術師』が作った物だからな!!
………ヤバい、自分で思ってみたけど何かめちゃめちゃ恥ずかしい気分になってきた。
顔に手をあてて「ああああぁ!」って叫んで転げ回りたい恥ずかしさがある。
言葉に出さなくて良かったと心の底から思った。
と言うか『工学の魔術師』ってやっぱり厨二臭……げふん、これ以上は考えないでおこう。
「その力、うちの座で生かしてみませんか?」
すみません、話を聞いていなかったんで何がどうなってそう言う話になったのか全っく分かりません。
とりあえずスカウトされているんだろうから、私が言うことは一つだけだ。
「お断りします」
どんな理由があろうとも拾ってくれた恩人に背く様な事はしない。
それが助けられた者の流儀だと私は考えている。
「そうですか、ではそれを此方に売って下さりませんか?
どんな金額でも言い値で買いましょう」
またか、内心嘆息を吐く。
オルゴールを売ってくれと、一体どれだけの人間が持ちかけてきただろうか。
まぁ、全て断ったけどな!
あれは元々友人の叶へのプレゼントとして作っていた物だ、他の人間に渡す訳が無い。
「どうすれば売って頂けますか?」
「これは既に渡す人が決まっている。
誰にも売る気は無い」
「……どうしてもですか?」
「ああ、天変地異が起こっても無いな」
天変地異は言い過ぎか?
「そしてあなた自身もこちらの座に来る気は無い、と?」
「はい」
私の返答を聞いた狢首と言った男の眼が、妖しく光った様な気がした。




