表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/45

変態撲滅運動

 変態は変態でも、許せる変態と許せない変態がいますよね(笑)

 いつも通り演じ終えた後、私はたった一人・・・・・の観客に向けてお辞儀をした。


 パチパチと拍手の音が虚しく響く。


 拍手をしたその人物はその場で立ち上がると、私に丁寧にお辞儀をして言った。


 「初めまして、私は『時時雨』と言う座に身を置く狢首がくしゅと申します。

 以後、お見知り置きを」


 観客が一人もいないガランとした客席に居るその男と舞台の上に居る私は相対した。


 舞台に出た時は焦ったよ。

 だって観客が一人しかいないんだもん。

 ついにブームが終わってしまったのかと思ったが裏方の人が入場券をこの人が全て買い占めたとジェスチャーで知らせてくれた。

 金持ちだねぇ。



 券を買い占めたのは、身なりを綺麗に整えた、一見呉服屋の若旦那風な外見で人の良さそうな笑顔を浮かべた若い男だ。

 うーん、一体何の出し物を担当しているんだろうか?

 曲芸?軽業?奇術師?それとも、腹話術とか?


 なんであろうと、浮かべているその笑顔は裏で何か企んでいる様な腹に一物隠している胡散臭さがどことなく漂っている。


 顔は、まぁ、整っているのに残念な人だ。



 「どうも。

 それで?本日はどういったご用件で?

 わざわざ券全てを買い取ってまでしてただ見るだけで何も無しって訳では無いのでしょう?」

 「ええ、『おるごうる』、見せて頂きましたが中々に素晴らしい物の様ですね」

 「お褒めに頂き光栄です」


 なんせ『工学の魔術師』が作った物だからな!!


 ………ヤバい、自分で思ってみたけど何かめちゃめちゃ恥ずかしい気分になってきた。

 顔に手をあてて「ああああぁ!」って叫んで転げ回りたい恥ずかしさがある。

 言葉に出さなくて良かったと心の底から思った。


 と言うか『工学の魔術師』ってやっぱり厨二臭……げふん、これ以上は考えないでおこう。



 「その力、うちの座で生かしてみませんか?」


 すみません、話を聞いていなかったんで何がどうなってそう言う話になったのか全っく分かりません。


 とりあえずスカウトされているんだろうから、私が言うことは一つだけだ。


 「お断りします」


 どんな理由があろうとも拾ってくれた恩人に背く様な事はしない。

 それが助けられた者の流儀だと私は考えている。


 「そうですか、ではそれを此方に売って下さりませんか?

 どんな金額でも言い値で買いましょう」


 またか、内心嘆息を吐く。

 オルゴールを売ってくれと、一体どれだけの人間が持ちかけてきただろうか。

 まぁ、全て断ったけどな!

 あれは元々友人の叶へのプレゼントとして作っていた物だ、他の人間に渡す訳が無い。


 「どうすれば売って頂けますか?」

 「これは既に渡す人が決まっている。

 誰にも売る気は無い」

 「……どうしてもですか?」

 「ああ、天変地異が起こっても無いな」


 天変地異は言い過ぎか?


 「そしてあなた自身もこちらの座に来る気は無い、と?」

 「はい」


 私の返答を聞いた狢首と言った男の眼が、妖しく光った様な気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ