オアシスが奪われる時
「………と言うわけで六は道具係の仕事が忙しいからお前はしばらく六と六の荷馬車に近付くの禁止な」
「え………」
「その代わりお前の傍には俺か晴披がいる様にするから……まぁ、その、なんだ………あ、安心してくれ」
カリカリと人差し指指で頬をかきながら燎次が言った。
「お、俺が守ってやるから……その、お前は俺から離れるなよ?」
とか言っているが今重要なのはそこでは無い。
こいつ、六さんと接触禁止とか言わなかったか?
「………………こ」
「こ?」
不思議そうな顔をする燎次。
「心のオアシスがあぁぁぁ!!!!!」
「!!?」
風兎の叫びに燎次がびくっとしたが気にしない。
あの、お茶やお茶うけをお供に日向ぼっこするのに丁度良い空間!
自分の工房を思い出させる懐かしみのある空間!!
そして頼れるお兄ちゃんみたいな雰囲気の六さん!!!
それらが合わさったもの凄く落ち着くあの私の心のオアシスと言っても良い場所に出入り禁止だと!?
鬼か貴様は!!!
そう胸ぐらを掴んで叫んでやりたいが、同じく自分の工房を持つ者としては確かに自分の居場所に、それも忙しい時に他人が来るのは余り好ましくないのは良く分かる。
ましてや余り親しくない人間が日向ぼっこしているとなるとやっぱりイラッとくるだろうし。
自分なら腹がたつなと理解する。
深呼吸して気分を落ち着かせてから閉じていた瞼を開くと、燎次が微妙な顔でこっちを見ていた。
「失礼、気にしないでくれ」
「いや、気にするわッ!!おあしすって何だ!?」
「リラックス……落ち着ける場所って言うか、癒し空間って所かな」
「………あの、さぁ……一つ聞いて良いか?」
「何?」
しばらく良いよどんでいた燎次だが、胃を決した様に言った。
「お前は六が好きなのか?」
「ああ、好きだが?」
その返答に燎次は唖然とするが、風兎は気にせず話を続ける。
「傍にいると居心地良いし、何となく落ち着けるんだよなぁ。
何て言うか頼りになるお兄ちゃんって感じなんだよね。
それがどうかしたのか?」
「いや、何でもない!!
気にするな!」
「?分かった」
そのまま就寝するための荷馬車へと向かう風兎。
そのため、燎次がポツリと呟いた言葉は彼女には聞こえなかった。
「お兄ちゃん………そうか、兄か。なら、まだ俺にも機会はあると言うことだよな………………よしっ!」




