唐突に言われた言葉には大体の人が「はい?」とか聞き返す
六さんの所に寄ると座布団を勧められた。
座布団に座ると茶が出てきた。
茶を啜るとお茶うけに漬物が出てきた。
ので、ただいま茶を飲みながら夜の部までまったりタイム中である。
当の六さんは此方に背を向けてゴリゴリと木を削ったりトンカンと金槌を振るったりしている。
そのうち木を削るコツとかを教えてくれるという約束をしたから、今からその時が楽しみである。
そう言えば、六さんって結構背が高いんだよね。
燎次と一緒にいるのは見たことないからあれだけど多分燎次より背が高いと思う。
良いなあ、身長欲しいなあ。
なんて考えている間に荷馬車の窓から陽が射し込みぽかぽかしてくるので、温かい。
少し音は違うが自分の工房を思い出しながら心地良く微睡んでいると、扉が誰かにノックされた。
落ちかけていた意識を一瞬で浮上させ、腰を上げようとすると六さんに手の平で制止されたので再び座布団に腰を落とし、聞き耳を立てる。
来客はどうやら座長の様だ。
何だろう、分け前の話だろうか?
しばらく六さんと話をすると、座長は帰っていった。
「………風兎」
「なんですか?」
「………夜飯の後に、来て欲しい、そうだ」
「はい、分かりました」
それで会話は終わり、再び微睡みの時間となった。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「………ああ」
夜の部の時間が近付いてきたので六さんの荷馬車を後にする。
「んー………」
歩きながら大きく伸びをすると背骨がゴキリッと大きく鳴った。
最近、疲れが溜まってきていた様な気がしていたんだが、大分六さんの所でリフレッシュできた。
何て言うか、六さんの近くって居心地が良いんだよなぁと考える例えるなら、頼れるお兄ちゃんみたいな感じだ。
風兎は一人っ子なので兄か姉が昔から欲しかった。
無理心中でタイムスリップして兄みたいな人と出会うだなんて皮肉だよなぁと自嘲し、夜の部の準備を始める。
夜から本格的に桜乱祭との事で夜の部はいつもと少し趣向が違う。
まず、いつもは入場料を払ってから組み立てられた会場に入ると言う物なのだが、今回は言うならば野外ライブ形式で舞台はあっても壁や天井は無い。
灯りには提灯の他に松明や焚き火等が赤々と燃えている。
風兎のオルゴールは静かなら未だしも人で混雑する空間で披露するのは音量的に難しいので、小部屋的な会場が設置されている。
ちなみに、これはオルゴール専用の部屋だそうだ。
お陰で昼、夜の部が無い代わりに一刻毎、つまり二時間毎に上演と言う訳の分からない事になっている。
昼の部は大体13時位、夜の部は大体18時位にやっていたのだが、今回風兎は8時〜18時までと言う10時間勤務体勢だ。
他の人には稼ぎ時だねぇなんて言われたが最近、木造の発明品を考えるのに凝っている風兎にとってはお金が入って良いような、時間が無くて悪い様な、微妙な感じである。
さて、そんなこんなで夜の部を終えた後に座長、伯田呉汰の荷馬車を尋ねた。
夜の部は余裕で大成功だったよ。
燎次の厳しい訓練の賜物だろう。
「おぉ、よう来たのう。
ささ、とりあえずそこに座ってくれるかい?」
伯田呉汰の正面に位置する場所にある座布団に勧められたので、そこに座った。
「まぁ、茶でも」
「いただきます」
報酬の話かなぁと考えながら出されたお茶をずずっとすすってしばらくしてからさて、と伯田呉汰は話し出した。
「突然じゃが風兎さん、お主………………命を狙われておるぞ?」
「………はい?」
流石にこれは予想外だった。
どうしたんだろう。
ついに呆けたのかこの爺さんは。
失礼ながら風兎が咄嗟に思ったのはこれだった。
いや、だっていきなりの命狙われてますよ発言だよ?
正気かと思うのは仕方がないよね?
混乱している風兎を他所に話を続ける伯田。
「以前、桜乱祭があらゆる座にとって大きな意味があることは話したじゃろ?」
「はい、座の命運を握っていると言っても過言ではないと聞きました」
風兎の言葉に伯田は頷く。
「それゆえに、愚かな手段を取る者も多い。
初日の今日、風兎さんは『おるごうる』や『扇風機』で隻呉の話題性を一気に押し上げた。
他のどの猛者の座をも押し退けての。
今はまだ良いがそのうち風兎さんが今回、この座にとって重要な鍵となっているのに気付かれるじゃろう。
そうなった場合………」
「一座の邪魔をするために私を亡き者にしようとする人が出てくると言うことですか………」
「その通り。
まぁ、それはあくまでも短絡的に考えた者の場合じゃ。
他には誘拐の可能性もある。
まぁ、もしそれを実行してそれが表に出た場合、その座の名に傷が付く程度では済まないからのう。
他の座にいる人間が余程の阿呆では無いと願いたいわい。
普通はもっと穏便に済ますために話をして引き抜きにかかる座が多いんじゃが何事にも例外は付き物じゃから………」
「気を付けるに越したことは無い、と」
「そう言うことじゃな。
なるべく一人での行動は控えてくれんかのう?」
どんな時代、場所であっても物騒な考えの奴の一人や二人必ずいるもの何だな。
現代でもそう言うことは度々あった(・・・・・)、用心するに越したことは無い。
「分かりました。なるべく一人で行動しない様にします」
「うむ、そうしてくれるかの」
この後、しばらく雑談をしてからその場から失礼した。
一人にならないとは言ったがさて、誰と一緒に居ようか?
燎次は座長の補佐的な役割が多いし、晴披だと服についての質問攻めにあったりするから面倒くさい。
伊代だと太一の視線が痛い。
梅さんだと料理をさせられそうだし………と消去法でいったら六さんしかのこらなかった。
………しばらくは六さんの近くに居させて貰おう。
うん、自分交友関係狭くね?
命の危険では無く、ちょっと自分の社交性について考えさせられた。




