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正常と異常の境界線

同性愛者って判断が難しいですよね。

恋人同士かと思ったら友達とか、友達かと思ったら恋人とか。

 伊代の言動が気になったがそれは後で確かめる事にしてとりあえず昼の部の時間が迫っていたので、大慌てで身なりを整えて準備をした。

 そしてなんやかんやあったが、昼の部の舞台は大成功に終わった。


 風兎と六さんが作った扇風機は良い感じに話題を呼んだらしくそれは良かったと安堵する。


 良かったのだが、今はそれよりも目の前で目をキラキラさせて此方を見ている伊代と、自分を睨み付けてくる太一に頭痛を覚えた。


 誰か何とかしてくれ。


 そう思うも、神は私の味方はしてくれないらしく誰も現れてはくれない。


 「あー、それで、伊代?」

 「はい、何ですか?風兎さま?」


 聞きたい事は山ほどある、とりあえず


 「何でいきなり様付けで呼び初めたんだ?あと、敬語」


 これが一番気になっていた。


 「私、お慕いしている方には様付けをすると決めているんです。敬語もそうですね」

 「お慕い………?」

 「はい!私は風兎さまを心の底からお慕いしております!!!」


 うん、何か今聞いてはいけない事が聞こえた気がするけど気のせいだよね!


 現実逃避しようとするが、太一の刺すような視線がそれを許してはくれない。

 最初から鋭かった視線だが、伊代のお慕いしている発言でさらに鋭さを増した。

 視線で人を殺せるとしたら瞬殺されているであろうレベルだ。


 や、うん。

 分かったから睨むの止めてくれないかなぁ?


 とりあえず自分が動かないと事態は一向に進まないと思い、嫌々ながら口を開く。


 「何でまた慕うなんて事に?」


 風兎の疑問に伊予は夢見る乙女の様な表情で話し始めた。



 伊代の話を纏めるとこうだ。


 最初は不思議な物を持った風変わりな新人だと思っていた。

 ある時、座長に荷物運びを頼まれた。

 軽いと言われたので承諾したのだが、座長には軽くても伊代にとってそれは重い部類に入る物だった。

 後悔しても遅い上に、そんな時に限っていつも傍にいる太一が居ない。

 思ったより思いそれを四苦八苦しながら運んでいると、どこからか現れた風兎がさっと伊代の手から取り上げ運んだらしい。


 それにキュンと来たのがきっかけで、決定的に墜ちたのは一座の何人かで買い出しに行った時。


 気になる屋台を見つけたので、単独行動をする旨を皆に告げて一人離れた時に運悪く酔っ払った流浪人に絡まれてしまった。

 軽業で追い払う事も可能だったのだが流浪人は刀に手をかけており、迂闊な事は出来ない状況だった。


 流浪人が伊代に向かって手を伸ばし、伊代が覚悟を決めた時、それは起こった。

 何故か流浪人が伊代では無く誰もいない、あらぬ方向に手を伸ばし始めたのだ。


 そちらに目をやるとそこにも伊代がいた。

 周囲はこの異常な光景には何の反応も示さない。


 伊代は何が何だかわからなくなり、唖然としていると何者かに手を取られた。

 驚きながらそちらを見やると無表情でしーと口元に人差し指を伸ばした風兎がいた。


 「こっち、あれ長く持たないから」

 「え………?」


 よく理解出来ないまま風兎に近くの物陰へと案内される。


 「ちょっと待っててくれ」


 そう言うと風兎は再び元の場所へと戻って行った。

 そこには姿を消した伊代にうろたえる流浪人と騒然としている通行人がいた。

 未だ酔っ払っている流浪人は自分が周りの人にからかわれたと思ったのか抜刀した。

 騒ぎだす周囲。

 相手が武器を構えているにも関わらず、風兎はちょいちょいと流浪人の肩を突っついた。


 「何だ貴様っ!」

 「あー、もうその辺にしといた方が」

 「五月蝿いわ!この、無礼者がァァァァ!!」


 斬りかかってきた流浪人の刀をひらりと危なげ無く避け、そのまま男に近付きその手に手刀を落とす。

 痛みで刀を落としたその男の手を素早く掴み、後ろに捻り上げながら足払いをかけて前に倒した。

 そして倒れた男の背に手を掴んだまま乗っかった。


 「こんのッ離せ!離さんか!!!!」

 「いやいや、離したら暴れるだろうがっと」

 「がッ……!」


 そう言いながら男の首に手刀を落として意識を削った後、風兎は近くにいた男に声をかけた。


 「あ、そこの旦那」

 「え、俺?」

 「その通り、ちょっとひとっ走りして捕まえる人を呼んできてくれませんか?」

 「ん?ああ、検非違使けびいしか。直ぐに呼んでくる」

 「ありがとうございます」

 「兄ちゃん、コレ使いねぇ」

 「ありがとうございます」


 渡された縄を使い、男を縛り上げた後、立ち上がり風兎は周囲を見渡して言った。



 「皆さん、お騒がせいたしました。

 私は『隻翁』と言う一座に身を置く者です。

 ちなみに最初に女性が消えたのは奇術と呼ばれる摩訶不思議な現象を引き起こす物です。

 消えた彼女はそちらに」


 示された方向に人々が視線をやる。

 伊予は風兎の意図を理解し、隠れていた物陰から出ると一礼した。


 「これらをもっと見たいと思われた方は是非、『隻翁』へお越し下さい。

 きっと素晴らしい物が見れると保証しますよ」


 そう言って無表情から一転して笑顔を見せた後、優雅に一礼した風兎。


 一瞬しーんと静まりかえった後、わっと歓声が挙がった。




 しばらくして検非違使を引き連れた男が戻って来て流浪人は引き渡された。


 それを見届けた風兎は伊代と共に歩き出した。

 好奇の目で晒されるが、そんな目は座に所属するので慣れっこだ。

 ちなみに風兎の表情は笑顔から無表情へと戻っている。


 「ありがとうね、助けてくれて」

 「いえいえ、女性を助けるのは当たり前の事ですから」


 事も無げにそう言った風兎に伊代は感心した。


 「風兎って優しいね。そう言えば、最初のアレって一体何?」

 「ああ、すみません。勝手に撮ってしまって……不快でしたよね?」

 「とって………?いや、別に不快ではないけど……あれって一体何?」


 隣を見ると自分がいるなんてぞっとしない。


 「まぁ、あれは仕掛けを秘密にしたいので内緒にしてくれませんか?」

 「内緒って………」

 「お願いします」


 顔は無表情だが、困っているという雰囲気が伝わってくる。


 「んー、じゃあ黙ってるよ」

 「本当ですか!?ありがとうございます」

 「そのかわり、敬語は止めてくれない?」

 「え?」

 「じゃないと、言っちゃうよ?」

 「……はい、じゃなくてええっと、うん、分かった」


 はにかんだ風兎を見て伊代はどぎまぎとした。


 「ああ、そう言えば勝手に奇術を使って説明したのがバレたら燎次に怒られそう……だな」

 「まぁ、良い客寄せになったと思うし大丈夫だよ」

 「そうだと良いんだが……」


 そうして二人で歩いて一座に帰った。


 曰く、その間伊代は自分の胸の鼓動が風兎に聞こえないかとずっとヒヤヒヤしていたとか。




 その話を聞いて頭を抱えたくなった。

 確かに伊代が男に絡まれている所をオルゴールについている映像再生機能で助けた記憶があるからだ。


 昼間だし、ソーラー機能で充電した電池でやったから成功してホッとしたのを良く覚えている。


 と言うか、内緒って言ったのに太一のいる前で喋っちゃったし………。


 未だ無言な太一からの重圧に精神的に更なる疲労感を覚えた。

 そしてとりあえず、今の話を聞いて早急に確認しなければいけない事項があることに気が付いた。


 「いや……さぁ、あのね、伊代」

 「何でしょうか?」

 「私の性別って何か分かっているか?」


 風兎の質問に伊予は自信満々に頷いて答えた。


 「素敵なお姉様です!!」

 「あ、分かってるんだったら良いや」

 「いや、良いのかよっ!」


 分かっているのなら一安心と思ったら太一からツッコミが入れられた。

 と言うか第一声がそれってお前………。


 「お前は可笑しいと思わないのか!?突然のお慕いしている発言を!!」

 「………失礼ね、太一」


 じろりっと睨む伊代の視線に狼狽える太一。


 「うっ、だ、だが………!」

 「うちは別に太一を慕っているとは言っていないでしょ?

 風兎さまが可笑しいと言うのならともかく、あんたが可笑しいって言う筋合いは無いはずよ」


 伊代の言葉に太一はガーンッと言った表現がぴったりな表情を浮かべよろよろと後ろに下がった。

 と思うとその場でしゃがみ込み、のの時を書いている。


 図体のでかい強面が縮こまってのの字って………何ていうかミスマッチ過ぎて笑えるんだが。


 そんな事を考えているが風兎の表情筋はピクリとも動いていない。


 さて、太一の質問に答えるとするか。


 「伊代のお慕いしている発言には、まぁ、驚きはしたが可笑しいとは思わなかったな。

 前居た所じゃしょっちゅうあった事だし、慣れって奴だ」


 目を閉じれば思い浮かぶのはバレンタインデー。

 あの日は鍵がかかっているはずのロッカーはラッピングされたチョコでまみれ、開けるだけで雪崩状態。

 工房にはダンボール箱が届けられたっけか。

 いやぁ、あの時期は天国だったな。

 たまに鼻血噴いたけど、としみじみする。


 「く、流石風兎さまと言いたいですが、他の方たちもと考えるととても複雑です」


 何か胸元を抑えてブツブツ言っている。


 オッケー、触らぬ神に祟りなしだ自分。

 でも、これだけは言っておかなくては。


 「とりあえず、お慕いしていると言われても私は誰かとどうこうなりたいとはまーーったく、思っていない上に、その予定は無いからごめんなさいとだけ言っておこう」


 それだけ言って二人に背を向け、さっさとその場から立ち去った。


 女より男にモテてみたいんだがなぁ………。


 とか思いつつ、とりあえず六さんに再度お礼を言いに行く事にした。




 「流石風兎さまですわ、立ち去る姿も凛々しくてス・テ・キ!!」


 はぅっと吐息を漏らす伊代にいつの間にか復活した太一が呆れた表情で話しかける。


 「なぁ、その想いは不毛だと思わないか?」

 「五月蝿い、黙って、アンタには関係無い」

 「うぐっ………!」


 復活したものの直ぐに撃沈された太一であった。



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