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寝惚けてとった行動に後で唖然とする

 「で、出来た〜……!」


 風兎はそう叫びながら腕を伸ばして大きく伸びをした後、そのまま後ろに倒れ込む。


 ゴンッ


 「イッツッ!!?!」


 後頭部を思い切り強打したことで、落ちそうな意識が覚醒した。


 「あー、行かないとな……」


 ボリボリと頭をかきながら見る視線の先には完成した扇風機が8つ並んでいる。

 そのうち5つには側面に模様が、3つは無地のままだ。

 今回の模様はこの座の印にした。

 もちろん、制作者のサインは忘れない。

 だるそうに立ち上がり作業していた荷馬車の扉を開くと、朝日の眩しい光が目に入ってくる。


 「うぅ……太陽が黄色いぜ」


 手で影を作りながらそう呟いた後、自分、かなりキテるなと自覚した。



 「おーい、座長」


 座長の荷馬車の扉を叩くと直ぐに開いた。


 「出来た」

 「本当か!?間に合ったんじゃな!!それで?何処にあるんじゃ?」

 「あっちの荷馬車」


 指し示すと直ぐ様そっちに向かって行く伯田呉汰。

 そんなに急がんでも扇風機は逃げないって。

 まぁ、今日から桜乱祭だし急ぐ気持ちは分かるけどと欠伸をしながら後に続く。


 「おおおお!!!」


 完成した扇風機を見て感嘆の声を上げる伯田呉汰。


 「こっちの模様あるやつが座で使う用、んでこっちが売る用」

 「売る用!?それまで用意してくれたのか!?」

 「ああ、どうせ貴族とかに売る腹だったんだろう?」


 風兎の言葉にかっかっかっと伯田呉汰は笑った。


 「そこまで読まれておったか。

 その通りじゃ、これを貴族に売ればわしらの座の知名度は更に上がる事間違い無しじゃ。

 しかし、この3つは何故模様が無いのじゃ?」

 「売る用は買う人の希望の模様を入れる為に無地のままにした」

 「ほう、考えたのう」

 「こう言うサービスは大事だろう?」

 「さーびす?」


 サービスじゃ伝わらないのか。

 サービスって日本語で何だっけと霞がかる頭で考える。


 「えっと、あれだ、心遣い」

 「心遣いか……確かにそれは大事じゃのう」


 うんうんと頷く伯田呉汰に伝わって良かったとほっとする。


 「とりあえずお疲れさん。

 昼の部まではまだ時間があるからそれまでゆっくりしておると良い」

 「はーい、あぁ、六さんにもちゃんとお礼言って下さいね?」

 「分かっておるわい」


 作業していた荷馬車から出て女性用の荷馬車へ移る。

 定位置の場所へ布団も敷かずごろんと横になると、いつ寝たのか気付かないくらい直ぐに意識は落ちた。

 眠っている途中で何か温かい物に包まれた気もするが、それにも気付かない位に深く。



………………………………


 何かが煩く鳴っている。

 それと同時に何かがぺちぺちと頬に当たる。

 目を開けないまま何かに向かってポケットの中にあったあめ玉サイズの木片を投げ付け、頬にあたる何かを掴んで止める。

 ようやく静かになったことに満足して再び微睡みに身を任せた。



 「寝るなっ!!!」


 耳元で突如起きた大声にぱっと目を開いた。

 声の方向に目をやると、声の持ち主は燎次だった。

 目を覚ました風兎を見て、額に手を当ててため息を吐いている。

 寝転がったまま燎次に話しかける。


 「おー、燎次。おはよう」

 「おはようじゃねぇよ、ったく周り良く見てみろ」

 「?」


 辺りを見渡す。

 自分に布団がかけられているのと、太一が倒れている以外特に何もない。


 ………ん?


 「何で太一がいるんだ?」

 「そこだけかっ!?腕の中を見てみろ!」


 視線を下に向けると、いつの間にか伊代が腕の中にいた。


 「おー、伊代だ。おはよう」

 「お、おはようご、ゴザイマス……」


 起床の挨拶をした所で、伊代の異変に気が付いた。


 「あれ?伊代、風邪ひいたのか?顔が赤いが………」


 胸元にある伊代のデコに自分のデコをあてて熱を計ってみる。


 「んー、熱は無いみたいだが……」

 「風兎!伊代から離れろ!!!」


 大丈夫か?と聞こうとした所、誰かに遮られた。


 「早く伊代から手を離せ!!」


 見ると、先ほど倒れて居たはずの太一が怒りの形相で睨んでいる。

 どう言う状況なのかさっぱりだが、とりあえず起き上がってから伊代を抱き締めていた腕を解いた。


 「風兎、伊代から離れろ!」

 「いや、離れろって言ったって」


 私は腕を解いたのだが、私の服の胸元を掴んだ伊代の手が離れない。


 「い」

 「風兎さま!」


 伊代っと呼ぼうとした所、勢い良く飛び付かれた。

 飛び付かれた衝撃でバランスを崩し、後ろに倒れそうになったが何とか持ちこたえる。


 「あのー、伊代さん?」

 「いやですわ、さん付け何て。伊代とお呼び下さいませ!」


 反応に困り、ヘルプの意味を込めた視線を太一に送るが、肝心の太一は伊代を見て放心状況に陥っている。


 いやいやいや、しっかりしろ!!

 誰か……そうだ、燎次!


 燎次に視線を向けたが、バッと反らされた。


 お前もか、ブルータス。


 誰も助けてくれそうに無いので自分で何とかするしか無いみたいだ。

 魂抜け出てる太一にテンションMAXな伊代、それに関わるまいとする燎次。


 何、このカオス。

 心が、折れそうです。

 頑張れ自分!


 とりあえず、伊代の背をトントンと叩いて離れさせる。


 「とりあえず、何で伊代がここに?」


 風兎の質問に伊代は朱に染まった頬に両手を添えて答えた。


 「いやですわ、風兎さまが私を布団の中に連れ込んだのに」


 そして熱い抱擁を………何て言っているが最初の辺りと時間を見て何となく状況が理解できた。


 大方、昼の部近くなっても起きて来ない私を伊代が起こしに来たのだが寝惚けた私が伊代を布団の中に引きずり込んだ。

 何時まで経っても戻って来ない伊代と私を太一と燎次が呼びに来た所、伊代を抱き締めて寝ている私を発見。

 伊代大好きな太一がそれを見て激怒したと言った所か。


 じゃあ、さっき太一が倒れていたのは私が木片を投げ付けたせいって事か………。

 うん、悪い事をした。

 それにしても寝惚けながらも我ながらナイスコントロールだ。


 と言うか、


 「昼の部の準備しなくて良いのか?」


 早くこの状況から離脱したい。


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