会話が驚くくらい続く時がある
なんか会話文の多い話になりました。
梅に扇風機をプレゼントした次の日の夕食中。
座長の伯田呉汰が手を叩いてみんなの視線を集めた。
「さて、みなも知ってのとおり明後日から桜乱祭じゃ。
祭中は気を緩める暇も無いじゃろうから明日は名一杯羽を伸ばしてくれ。
ただし、腕は落とさんようにの?」
その言葉にどっとみんなが湧いたが風兎一人だけハテナマークを頭の上で浮かべている。
「風兎さんはちぃっとこっちに来てくれんかのう」
座長に手招きされて、座長専用荷馬車に招かれた。
「風兎さんには何も説明しとらんかったから今説明させて貰うよい」
座長の言葉に一つ頷いた。
「まず、さっき言った桜乱祭じゃがその祭がどんな意味を持っているか風兎さんは知っとるか?」
知らない。
まず、桜乱祭何て言葉を初めて聞いた。
「ワシらが今現在滞在している美笹と言う土地は桜の名所で有名なんじゃ。
そして、毎年桜が満開になる時期に一週間続く祭、桜乱祭が開催されるんじゃよ。
桜が乱れると読んで字の如く最終日にはこの土地にある全ての桜が満開を迎えてそれはそれは綺麗で見応えのある景色なんじゃ。
一般人にとっては一週間続く楽しい祭なんじゃが、わしらの様な座にとってはこの一週間は大きな意味を持つ。
全国のあらゆる座が集まり、この一週間での集客数、売り上げ、話題性等を一番上げた座が日本一の座と認められるんじゃ。
また、その逆も然り。
つまり、桜乱祭の一週間がその座の今後の命運を決めるんじゃよ」
なるほど、つまりは旅芸人の全国大会みたいな物かと風兎は解釈する。
「毎年強者が集う祭じゃから後少しの所で優勝を逃し苦汁を飲まされる事も多かった。
が、今年は我が座に大きな戦力が入ってくれたお陰で優勝に近付いたわい」
「へぇ、それは良かったですね」
優秀な人材は貴重だからな。
「何を人事みたいにしとるんじゃ?その優秀な人材はお前さんじゃぞ?」
「へ?」
突如言われた言葉に思わず停止する思考。
………いや、何となく分かってたけどさ。
「『おるごうる』あるは他のどの座にも無い、言わばこの座目玉じゃ。
更に、お前さん、昨日梅に渡した物があるじゃろう?」
「………扇風機ですか」
「そうじゃ、あれは良い。あれを客に宣伝したらさらに注目を浴びること間違い無しじゃ………して、物は相談なんじゃが、あれを更に数個作れんかのう?」
やはりそうきたか。
伯田呉汰の目を見て内心、ため息を吐いた。
あれはあらゆる手段を使って高みへ行こうとする目だ。
まあ、向上心があるのは良い事だしお世話になっている恩義がある。
扇風機を作るのは吝かでは無い。
ただ、一つ問題がある。
「あれは私だけの力では作れません」
「ほう、何故じゃ?」
面白そうな顔で聞いてくる伯田呉汰。
「確かに、設計図を書いて組み立てたのは私ですが、あれを構成するにあたって必要な部品は殆ど座員の六さんの手によって作られています。
作るとなれば六さんの力が必要不可欠。
なのでこの件につきましては私一人の意見では了承しかねます」
前回のをたった一日で仕上げてくれたのだ。
そうそう六さんの手をあまり煩わせる訳にもいかない。
「なるほど、では六が承諾すれば良いのだな?」
「あくまでも六さんの意思での承諾ですが」
言外に
『座長命令使うんじゃねぇぞ』
と含ませるとそれに対して伯田呉汰はからからと笑った。
「あい、分かった。
六の意思を尊重しよう」
それを聞いて一安心だ。
一礼をして荷馬車から出ていく。
誰も居なくなった空間で伯田呉汰は心底楽しそうに呟いた。
「………まぁ、あいつはお前さんが関係するのなら喜んで引き受けると思うがのぅ」




