職人技を間近で見ると圧巻される
例えるなら有名な某高速餅つき職人とかですかね。
あれは凄い。
次の日、朝食の片付けを手伝い終えた風兎の元へ六がやってきた。
「………見てみろ」
渡された大きな麻袋を開いて中を見ると、大小様々な歯車や板が入っていた。
一つを取り出して見る。
風兎の要望通りきちんと磨いてくれたようだ。
無造作に持っても木の棘が刺さったりしない。
側面に指を這わせる。
滑り過ぎず、滑らなすぎず程よい研磨である。
それは良い、問題は……
「六さん、もしかして………全部作り終えた……?」
数回に小分けして渡されると思っていたのだが、予想より量が多いのだ。
恐る恐る聞いてみる。
「………終わった」
六さんはあっさりと何でも無いように頷いた。
「嘘だろ………」
思わず唖然とする。
風兎が頼んだ部品は100とまではいかなくとも50は優に越える数だった。
それを六は1日で作ったのだ。
「………比較的簡単だった」
「いくら簡単だからって……」
「………一応、部品の確認して」
「あ、はい」
六さんに手伝って貰いながら確認すると全て揃っていた。
凄いとしか言いようがなかった。
「ありがとうございました。お陰で予定より早く完成しそうです」
頭を下げる。
これで2、3日は短縮された。
「………いい………出来上がったら、見せてくれ」
「はい!もちろん!!
じゃあ、早速取り掛かってきます」
特に意味は無いがノリで敬礼して、風兎はその場を立ち去った。
誰も使っていないかを確認して荷馬車の中に身を滑り込ませる。
荷馬車の窓から入る陽が中を優しく照らしていて、穏やかな雰囲気を醸し出している。
部品表代わりの布を床に敷き、その絵の上に一つ一つの部品とを置いて使う道具を出していく。
「よし」
久々の発明ににやつく頬を両手で軽く叩いて早速取り掛かった。
木製扇風機を作るにあたっての風兎が決めたコンセプトは以下の3つだ。
・風の強弱を設定出来る様にする。
・羽で怪我等が無い様にする。
・人力だけでは無く他の力でも動く様にする。
これらを踏まえて扇風機を作った。
一つ目の風の強弱だが、これは歯車を組み換える事で可能にした。
軽く説明するとこうだ。
まず、大中小の歯車の大きさと歯の数が違う物を用意。
それを扇風機の後ろ下に露出させて設置。
そしてそれに合う歯車を細い棒に付け、棒を動かす事で歯車が左右にスライド出来る様にした。
歯車は大きさと歯の数で回転数が変わる。
今回はそれを利用したのだ。
つまり、歯車をスライドさせて大中小の歯車に合わせた別々の回路を回す事によって風の強弱設定を可能にした。
スライドできる、だけど回転中に外れたりしない程よい研磨が必要な部分だ。
本当に六さんは良い仕事をしてくれたと風兎は感謝する。
次に羽で怪我等が無い様にする部分だが、これは簡単だった。
細い竹で目の粗いザルを作り、それを羽部分に被せるだけ。
ちなみにザルも六さんが作ってくれた。
流石です。
最後の人力だけでは無く他の力でも動く様にする、だが。
これは砂時計と水飲み鳥の原理を応用させて貰った。
詳しい事は企業秘密だが、ハンドル部に入れた重しが良い仕事をしてくれているとだけ言っておこう。
初めての木製扇風機。
割りと完成度高く作れた。
ただ、一つ難点がある。
風がやはり現代の物と比べると格段に弱いのだ。
今後、気が向いたら改良を加えようと思っている。
風が弱いとは言っても日時では十分使えるレベルではあるので風兎はとりあえず梅にプレゼントしたのだ。
「へぇ、こんなに凄い物本当に貰って良いのかい?」
「もちろん、梅さんの為に作ったんですから貰って下さい」
「ありがとうね」
とても嬉しそうに笑ってくれた。
喜んで貰えて何よりである。




