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桜は種類によって花言葉が変わる

走馬灯ってどんな感じなんでしょうかね?


 ひらひら、ひらひらと花弁が舞っている。


 土の香りと、少しの肌寒さで目が覚めた。


 どうやら私は外で寝ていたようだ。

 と風兎(かざう)はぼんやりと自分の今の状態を判断した。


 うつ伏せの姿勢から、楽な仰向けに身体を動かす。

 寝起きでボーとする頭。

 目は満開の桜の木々を映している。


 ……ん?桜?


 ガバッと起き上がり、自分の周りに視線を巡らせる。


 そこは月に照らされた見渡す限りの桜、桜、桜。

 桜の木々の中で私は寝ていたようだ。


 混乱する頭を振って落ち着かせる。


 と手に何かを持っているのに気付いた。

 見るとそれは制作途中のオルゴールだった。

 ひとまずそれを白衣のポケットに突っ込むと、今の自分の状況を知るために記憶を探りだす。


 確か、叶の新しい恋の話を聞き流しながら彼女の作ったケーキを食べて、その後、自分の工房に帰ったんだ。

 おかしい、私はさっきまで学校の自分の工房にいたはずだ。


 何があった?


 霧のかかった様な頭で必死に考えるとやがてハッキリしてきた。


……あぁ、そうだ、あの男が爆弾らしき物を爆発させたんだっけか。

 そうだ、あの男は?


 居たら大変だ! と慌てて見渡すが、男は見当たらない。

 ほっと安堵の息をこぼし、それにしても何故私はこんな所にいるのだろうかと首を傾げる。



 確かに私はあの爆発に襲われたはずだ。

 それなのに見た限り傷ひとつないし痛みめ感じない。


 とりあえず誰かに電話して保護を求めようとポケットに入れていた携帯を開いた。

 だが、画面左上に表示さるたのは圏外の文字。


 ……可笑しい。

 私の携帯は個人人工衛星を用いたGPSを搭載した特殊な物で、地下だろうが空の上だろうが樹海だろうが圏外になることはまず無いと言う優れものだ。

 それが圏外になると言うことは、衛星が墜落したか今自分がいるこの場が余程特殊な場であると言うことだ。

 例えばマトンとか?


 繋がらない携帯に見知らぬ場所。

 しばらく考えた末にあることに思い至った。


 もしかして、これは何かの実験なのだろうか……?

 五感で体感できる映像再生機とか。

 私も作ったが、ここまで精巧な物ではなかった。


 過去に自分で発明し『ジスナ』と名付け発表した機械を思い浮かべる。


 あれは、見た目は家庭用プラネタリウムのようだが、映し出される物を掴む事や、その感触を体験できたし、食べ物なら味も分かった。

 まあ、腹にはたまらないが。


 人を映し出したらその人の体温まで感じとれるようにした。

 世界的に大ヒットし、今ではデパートの試食に使われたり、遺書代わりに使われたりしている。


 大きさの割には電力を喰うし、その精密さから材料費がえらくかかる。

 だから、値段がとても高く一般人には手が出せない。

 更には映像を体感できる範囲にも限界があり、一部屋ぶん位の広さにしか再生できないのもマイナス要因だ。


 最近ではそれをもっと小型にし、広範囲に再生できるように、かつ安く仕上げて一般の人にも使って貰えるようにと改良していた。


 これが映像なのならばあれよりも精密なのだ、是非作った人と意見交換をして討論しあいたい。


 何処からが映像だったのだろうか。

 もしかして、あの男子生徒は映像だったのか?


 だとしたらここは工房なのかととりあえず立ち上がり、月明かりを頼りに手を伸ばしながらそろそろと動くが壁に当たる気配はない。


 空間認識を変えるほどまでに精巧なのか!?

 と唖然として立ち尽くした。


 だが、桜や風、土の香りなどがあまりにも本物のようで、というか本物としか思えず、感嘆を通り越して不気味ささえ覚える。


 なるほど、これが不気味の谷現象か。

 と何となく思った。


 不気味の谷現象とは対象がある程度人間に近くなってくると、非人間的特徴の方が目立ってしまい、観察者に奇妙な感覚をいだかせる というロボット工学上の概念で、この対象はアンドロイド、つまりロボットのことだ。。


 今の状況の場合、人間は私一人しかいないし、アンドロイドではなく環境に不気味さを感じているため、不気味の谷現象というのを使うのが正しいのかは分からないが、これが作り物の風景だというのならあっているだろうと勝手に解釈する。


 実験でないのならこれは夢なのだろうか。

 それにしては実にリアルな夢だ。


 ホーウ、ホーウ

 どこからかフクロウの声が聞こえる。

 今は一体何時なのだろうと腕時計を見るが、壊れてしまったのかデジタル盤には何も表示されない。


 「……これで十六個目か」


 はぁ、と一つため息を吐くと、作業着を脱ぐための胸のジッパーを下ろし、その中に手を突っ込んだ。

 中から出てきた手には懐中時計が握られていた。


 風兎の研究は工学。

 繊細な電子機器は僅かな磁気で狂うこともあるので、細心の注意が必要だ。

 その為、彼女は何かを作る時は必ず腕時計を外す事にしていた。

 電波時計の磁気は人が思うより強いからだ。

 だが、そんな彼女でも磁気を気にしない物を作った時にうっかり強い磁気や電磁波などを発生させてしまい、デジタル時計を壊してしまうことがある。


 今回はもしかしたらこの映像再生機のせいかもしれないと考え、これが実験であった時には弁償させてやると心に固く誓った。


 作業着の胸ポケットからペンライトを取り出し、懐中時計を照らした。

 針は夜の十二時を回った所だった。


 「えっ!?もうこんな時間?!」


 さっきまでは七時代だったのに、私の五時間はどこに消えた!?


 「もしかして、私は五時間も寝ていたのか……」


 そんな時間があったのなら発明に費やしたかったと半ば本気で悔しく思った。


 腕時計を再び見る、時計は壊れたようだが、どうやら付属の方位磁石は壊れてはいないようだ。

 ゆらゆらと針の赤い方が北を指している。

 とりあえず前を照らして北に向かって桜の木々の間を歩きだす。


 それほど歩かないうちに空間が開けた。


 「うげっ…………」


 そこには何もない、本当の暗闇が広がっていた。

 ライトを先に向けるが、光は闇に吸収されるだけで何も映さない。

 手を入れれば手がなくなるような錯覚を覚えさせられる。


 本能的な恐怖を感じ、後ずさる。

 が、足が何かに引っ掛かって、仰向けに転んでしまった。


 「っ……いったーい!」


 打ち付けた腰をおさえ、何気なく上を見上げた時、息を飲んだ。

 視線の先には満天の星空が広がっていた。

 現代の夜空ではまずお目にかかれない見事な星たちだ。

 キラキラと強く、大きく輝く星はまるで宝石のようで、見ていていつまでも飽きるということを知らなさそうだった。


 「……はっ!? いかんいかん」


 しばらく見入っていたが、本来の目的を思い出しハッとする。

 躊躇したが、暗闇の中に足を踏み入れた。

 入ってみると思ったより遠くから見たような暗闇ではなかった。

 数歩歩くと光に照らされて、人に踏みならされた道が出てきた。

 道の先を照らすが、道が続くばかりだ。


 この先の見えない暗い道を歩くか否か。

 考えるまでもなくこんな得体の知れない場所で、しかもこんな暗い所でうろうろと歩き回るのは愚策だ。

 夜が明けてからこの先を探索することにした。


 とりあえず今は、安全に夜を過ごせる場所が必要だと思い、辺りをライトで照らしながら見渡し、一際大きな桜の木に目をつける。

 風兎はその木の下から見上げて枝の太さなどを確認するとペンライトを口にくわえて木をのぼり始めた。

 そして一際太く、頑丈そうな枝の上に乗る。


 くわえていたペンライトを外し、コンコンと枝を叩いた。


 「うーん、これなら大丈夫、かな?」


 ペンライトを消し、胸ポケットにしまい込み、白衣を脱ぐとうつ伏せに、抱き着くように木の枝に寝転がった。

 そして、白衣の袖で自分と枝をしっかりと結び、目を閉じた。


 目を覚ます時には現実に戻れますようにと願い、風兎の意識は闇へと落ちた。


実際、桜の咲く季節はまだ肌寒い日が多いので外で寝たらまず風邪をひくであろうと断言します。


2013.12/28 修正

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