影で暗躍ってカッコイイけど若干ナルシストっぽく感じるのは私だけだろうか
具体的に言うと
「影で頑張る俺、カッケー!!!!」
みたいな?
私の心がねじ曲がっているからですかねぇ(笑)
何でこうなった。
男は、自分の体が拘束されていなければ頭を抱えたであろう。
始めは楽な仕事だと思ったのだ。
依頼内容は簡単
「ある少年を殺して少年の持ち物を奪い死体を誰にも見つからない場所に埋める」
これだけでいつもの仕事の五倍の料金が貰える。
依頼人は相場を知らないのだろう、しめたと思った。
依頼人にその人物の居場所を教えて貰い、そこへ向う途中に一人の男に先導された女の集団とすれ違った。
特に何も思わずに通り過ぎようとしたが、ハッとした。
わき道を通って集団の前に出て再びすれ違いながら確かめる。
間違いない。
あの集団の中心にいた人物が今回依頼人に殺せと言われた人物だ。
言われた特徴は奇妙な着物を着た顔の整った少年だと言う少ない情報だった。
最初は依頼人にもっと分かりやすい特徴をと頼んだが、
「一目見れば分かります」
と言われた。
なるほど、見たことのない奇妙な着物を着ており、確かに一目見れば分かる。
何食わぬ顔をして集団の後を追う。
キャーキャーと騒いでいる女たちとその女たちに囲まれている少年を見て苛ついた。
俺は、産まれてこのかた女には見向きもされなかった。
女と話すとしたら母親か婆ちゃんだけ。
それなのにあの男ときたらどうだ?
無表情で女たちの相手をしているのに騒がれているのだ。
自分が無表情で女に対応してみろ、嫌そうな顔をして逃げられるのがオチだ。
あんな羨ましい状況にいるのにあの態度とは………。
怒りが湧いてきた。
そして決めた、あいつを殺す時はあのすました顔をズタズタにしてやろうと。
殺す機会を伺って後をつけていると女たちは温泉に、少年はもう一人の若い男と共に連れ立って歩いている。
もう一人の方もひょろひょろとしていて大したことなさそうだ。
これは楽勝だ。
天は俺に味方しているらしい、山に近い人気の無い方へ進んでいる。
そしてそのうち、藪の中へ入って行った。
これはしめたと思い自分も藪の中へと入る。
腰の刀に手をかけ様子を伺っていると、聞こえてきた会話からどうやらここには温泉が湧き出ているらしい事が分かった。
なるほど、これは良いことを聞いた。
奴を殺したら一風呂入るとしよう。
抜刀し、藪を飛び出す機会を伺う。
上手い具合に二人は別れ、若い男はその場から離れて行った。
今だ!!
「ちょっとすみませんね」
飛び出そうとした所で背後から突如聞こえた声に驚きながら俺は意識を失った。
目を覚ますと、そこは暗闇の中だった。
動こうとしたが、縄か何かで身動きを封じられているらしく動けない。
更には猿轡ときた、念が入っている。
暫く待つと細い光が差し込むのと同時に戸が開く音が聞こえた。
自分を捕らえたのが一体どんな奴かと戦々恐々としながらその人物を待つ。
その人物は暗闇で暫くごそごそとしてから灯りを灯した。
その顔を見て俺は驚いた。
その人物は気を失う前に己が大したこと無いと評価を下した人物だったからだ。
「さて…」
捕まえて何をされるのか、ごくりと唾を飲む。
「まずはおはようございます。
良い夢見れましたか?
まあ、あなたがどんな夢を見ようがこちらには全くの興味はありませんのでそんな事はどうでも良いのですが」
いきなり酷い言い様だ。
見下す視線にふつふつと怒りが沸いてくる。
「前置きも面倒なので早速本題に入らせて頂きます。
あなたは一体誰に頼まれて彼を襲おうとしたんですか?」
「………」
猿轡を外されたが無言で睨む。
「そうですか、では質問を変えます。
棚原三郎27歳。独身。父親は既に他界している。長男は実家を継いで、その補佐を次男が勤めている。三男であるあなたは手に職も就かずふらふらとしておりつま弾きものとされている………」
その後つらつらと目の前の男が語ったのは俺の個人情報だった。
その中には俺しか知らない筈の事も含まれている。
何故そんな事を知っているのか、目の前の男が急に得体の知れないものに思えて恐ろしくなった。
「………以上の事が貴方の情報で間違いありませんね?」
顔面蒼白であろう俺の顔を見て男は満足そうに頷いた。
「まあ、と言う訳で………手前に拒否権はねぇんだよ。
さっさと吐け」
俺は自分が知っている事を全て必死で話した。
俺みたいな汚れ仕事を請け負う者は信用が命だ。
死んでも黙りを決めるのが常。
黙りを決め込めば大抵は相手が焦れて拷問にかけようとする。
拷問はやりやすい様にと動かされる。
やり返すとしたらその時が絶好の機会だ。
だが、目の前の男は違う。
あくまでも紳士的に、肉体には殆ど苦痛を与えず、精神的に揺さぶりをかけてくる。
肉体よりも精神に。
それは何よりも恐しいものだ。
肉体はいくらでも鍛え様があるが、精神ともなるとそうは簡単にいかない。
目の前の男に逆らってはいけないと本能が告げる。
即ち、俺に逃げ道は無いのだ。
そして、全てを話した後の自分の運命が一体どうなるのか。
男はこの仕事を受けた事を心の底から後悔するのだが、それは後の祭りと言うものだった。
2013.12/31 修正




