表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/45

打ち上げは音楽が語源になった言葉

打ち上げは音楽が語源になった言葉


 「「「「乾杯っ!!!」」」


 酒やらお茶やらが注がれた木の碗が一斉に打ち合わされる。

 そして、その場にいる全員が例外無くそれをイッキ飲みした。

 風兎は様々な人から肩や背中を叩かれて『おめでとう』や『お疲れ様』と言われた。


 「ぷっはぁ〜……わはははは!いやぁ、風兎かざう!良くやった!お前さんみたいなのが一座に入ってくれて、わしゃあ鼻が高い!」


 上機嫌で酒を片手に言ってきた座長、伯田呉汰はくたおうた


 「いや、燎次りょうじの指導のお陰ですよ。私一人では無理でした」


 やんわりと自分だけの力じゃないと匂わせる。

 何事も謙虚が一番だ。

 実際、マイクとかが無い状態での公演何て初めてだった。



 「いやいや、謙遜せんでいい。確かに燎次がお前さんに稽古をつけたかもしれんが、それを本番で発揮出来るかどうかは本人次第じゃ。

 その点を考えるとお前さんはようやった!」

 「………ありがとうございます」


 そこまで誉められると照れると頬をかく風兎だが、その表情はやはり一変足りとも変わっていない。





 今は舞台の打ち上げ中だ。


 色々あったが面倒くさいので結果だけ言うとこの時代での初めての舞台は大成功だった。

 概ね想像通りの反応を観客はしてくれた。

 途中で

 『おのれ、妖術かっ!?』

 何て叫んで乱入しようとした人がいたがそれ以外はとくに事件は起こらず、無事に終了した。

 やっぱり、自分の作った物で人が驚くのは嬉しい事だと風兎は思った。


 おひねりも大量に貰えた。

 ………まあ、小銭を投げつけられて痛かったけど。

 もうちょっと力加減をして欲しい。

 お陰であっちこっちに痣ができてしまった。

 気にしてないけども。


 碗に入っているお茶を一息に飲み干す。

 うん、やっぱり日本人にはお茶だね。

 気持ちがほっこりする。

 最初はお酒を勧められたが一応、未成年なので自粛した。

 お酒が無くとも食べ物があれば十分楽しめる。

 串に刺して焼いて塩をふった魚、何か分からないけど焼いた肉。

 煮物に野菜炒めに鍋。

 そして何と、天ぷらがあった。

 ダシ汁なんて物は無いので、塩を軽くふって食べる。

 この時代の天ぷらは衣に使うのは小麦粉ではなく米の粉らしい。

 慣れ親しんだあの天ぷらとはちょっと味や触感が違うがこれはこれでいける。

 甘い物が好きだと言ったからか干したさつまいもを何かで甘く煮込んだ物もある。

 うん、美味しい。


 皆から少し離れた場所に移動し、一心不乱に食べていると隣に誰か座ったような気配がした。

 視線をやる。

 燎次だった。


 「………………」

 「………………」


 何か用なのだろうか。


 「………………」

 「………………」


 何も話してこない。


 「………………」

 「………………」


 沈黙が重いっ!!

 何?一体何なんだ!?

 ちらりと視線をやると、燎次もこちらを見ていたらしく、視線が交じった。


 「何か?」

 「……いや、別に」


 いや、別にっじゃねぇよっ!!!!

 用があるならとにかく早く言って欲しい。


 沈黙をまぎらわすために食べていた料理もそろそろ無くなってきた。

 そうだ、料理を取りに行くついでにここを離れよう。

 うん、そうだ。

 それが良い。


 風兎がそろそろと食器を持って立ち上がろうとすると、やっと燎次が口を開いた。


 「あのよ、何か、その……欲しい物、あるか?」

 「…?」


 いきなり何を聞いてくるのだろうか。

 戸惑う空気を感じ取ったのか燎次が補足をしてきた。


 「うちの座ではな、新しい奴が入って、そいつの舞台が成功したら何か一つそいつの願いを叶えてやるっつう決まりがあるんだ。

 まぁ、出来る限りの事だけどな」


 この座をくれとかは聞けねぇし。

 と苦笑。


 「えーと、じゃあ、さっきまでの沈黙は………?」

 「あれは、あれだよ。

 『いきなりお前の願いを叶えてやる』

 何て言ったら不信感しか抱かないだろうが」

 「それを言うなら、いきなり 『欲しい物あるか』 もどっこいどっこいだけどな」

 「うっ………ち、ちょっと間を見計らおうかと」

 「見計らえて無かったけどな」


 バッサリとツッコミを入れると、何故か燎次がほんのり頬を赤く染めて視線をさ迷わせる。


 えっ?

 何、その反応?

 もしかして、


 「え、M……?」

 「えむ?」

 「あぁ、えぇっと、何て言うか、自虐趣味がある人と言うか、叩かれたり、苦痛を与えられると興奮する人と言うか……」

 「何だそれは!?」

 「それがM」

 「違うぞ!?俺はえむとかじゃないからな!?」


 必死で否定してくる。


 「どうだかなー」


 まぁ、趣味や性癖は個人の自由だし他人がとやかく言う筋合いも無いかと生暖かい目で燎次をみやる。


 「おい、その生暖かい目を止めろ!」

 「………」

 「視線を反らすなぁ!」

 まぁ、そんな感じで燎次を弄りつつ風兎は考える。


 欲しい物、ねぇ。


 今、欲しい物と言えばタイムマシーンしか思い付かない。

 でも、そんな物を用意できる訳もないし、他には特に欲しい物なんか思い付かない………


 「あ、」

 「どうした?」

 「欲しい物と言うか、願い事でも良いんだよね?」

 「あぁ」

 「じゃあさ………」


 ダメ元でお願いをしてみると意外と簡単に願い事は叶えられる事になった。


 うん、楽しみだ。



2013.12/31 修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ