無理心中って無理って入っているあたり、強引に行われている感じが半端無い。
時間がとれないことが都度都度あるので更新は遅めだと思います。
とある高校のとある部屋で賑やかな音が聞こえる。
ガンガン!!、ジジッガチャッン!!、ビビビビー!!ジュン、ジュワァー!!
鳴り響く騒音の中心に居るのは、一人の少女だった。
ラクダ色をしたあちらこちらに黒いシミをつけた作業服の上にこれまた黒いシミがあちらこちらに付いた白衣を着ている。
その目元はゴーグルで覆われてい、良く見えないが見えている小さな口元からその容姿が整っている事は伝わってくる。
口元にくわえている棒つきキャンディはふと見ると一瞬タバコかと思う程少女に似合っている。
真一文字結ばれた口元のそのせいかは分からないが、短い髪と合い極まってまるで男のように見えた。
少女の前の台の上には長方形で、掌から少しはみ出す位の大きさの銀色の箱が鎮座している。
少女はピンセットのような物で、花弁のような形をした金属片を摘まみ上げると一つ息を吐いき、パーナー片手にそれを銀色の箱に溶接しようとした。
が、突如部屋のドアが勢い良く開いた。
「ヤッホー、風兎。頼んだ物できたー?」
制作中のオルゴールに金属飾りをバーナーで溶接しようとしていると、同じ高校の食品システム科に所属する友人、叶がそう言いつつノックもせずに風香と呼ばれた少女の工房に入ってきた。
「叶、ノックをしてから入れと何度言わせる気だ?」
手にしたバーナーを止め、呆れた雰囲気を出しながら言う風兎はあくまでも無表情だ。
それに対し、しれっと叶は答えた。
「風兎がノックをしろって言わなくなるまでかな」
「はぁー」
目を保護するために着けていたゴーグルを目から外して首にかける。
「ため息吐くと幸せが逃げるのよ?」
「大丈夫だ、自分の工房があり、好きな物を作れている今私は最高に幸せだから」
ペリペリと新たに白衣のポケットから取り出した飴の包装を剥がし、口に放り込む。
「まぁ、一介の高校生にこんな立派な自分専用工房があったら確かに幸せだろうけどねぇ」
二人の通っているこの学校には工学科、食品システム科、インテリアデザイン科、情報科、デザイナー科、体育科、普通科の七種類の科が存在する中高一貫校だ。
普通科以外の科には毎年、その科の中でもトップの実力を持つ者がその科の代表になる。
代表とは、言わばその科の生徒会長みたいなものだ。
内申点を上げたい人はともかく、普通はそんなものには面倒くさいからなりたくないと思う人が多いだろうがこの学校では違う。
代表になると、大学、就職も自分が好きな所に自由に入る事ができる特権と自分専用の工房が付くという破格の厚待遇を受ける事ができるのだ。
だから、この学校は普通科以外のトップ争い及び、派閥争いが半端ない。
え?普通科はどうなのかって?普通科のトップは生徒会長だ。そこは普通なんだよ。
彼女源叶は高校からの編入者でありながらその食材加工の技術力の高さから高校入学してからの二年間食品システム科のトップに君臨している実力者だ。
ちなみに源とあるが、あのかの有名な源氏とは関係ないらしい。
「で、出来たの?」
「ああ、出来たぞ。丁度連絡しようと思ってたんだ、これだろ?」
口の中の飴を転がしながらさっきまで作業していた台の隣の台に置いてある桜色をした電子レンジ大の機械を軽くコンコンと叩く。
「さっすが風兎、本当に何でも作れるね。それに従来の物と比べると格段に大きさが小さくなった」
叶はそれに近づき、軽く淵をなぞりながら言った。
「ああ、ピンクで出来るだけ小さくという注文だったしな。それと一つ訂正、何でも作れる訳じゃない、興味を持った物だけだ。
それにしてもチョコレートコーティングマシーンなんて初めて作ったからなかなか面白かったよ」
「これでコーティングしてみた?」
「ああ、ちょうど前に作ったパン作り機でクロワッサンを作ったから、それをチョコレートでコーティングしてみた。これだ」
部屋の端に置かれた冷蔵庫から試作してみたパンの載った皿を出してくる。
「出来立てを食べたからか知らんが、なかなか美味しかったよ」
「へー、一つ貰い!」
叶はそう言うが早いか口に運んだ。
「うん、チョコは全体に均等にコーティングされてるし、ムラも無い。薄さも程好い感じ、コーティングの薄さとかは調整できるの?」
「ああ、バッチリだ。他に何か気付いた所は?」
「いや、無いよ。大きさの大幅な縮小も成功してるし、私の期待した以上の出来ね。さすが『工学の魔術師』」
「その呼び方は恥ずかしいから止めてくれと前にも言っただろう」
本当に何なんだそれは。
と風兎は思った。
さっき説明した代表の特典はもう一つあるそれが今、風兎が言われた異名。
代表になったらいつの間にかその人を表す異名が生徒たちによって付けられ、卒業するまで呼ばれ続ける。
誰が付けるのかは付けた本人しか知らないらしい。
卒業すれば呼ばれなくなるがその人が業界で有名になったらたちまちこの学校での異名が広まり、その後は死ぬまでその異名で呼ばれる。
……いらないだろこの特典。
と風兎はいつも思っている。
ちなみに彼女は珍しい事にこの異名を付けた人を知っている。
付けたのは彼女の眼前に居る人物の幼馴染みだ。
……何と言うか、予想の斜め293度程上をいった人物だった。
と後に彼女は語る。
「良いじゃない格好いいんだから、気にしない気にしない」
「むぅ」
異名を考えたのは幼馴染みだが、付けるきっかけを作った本人に言われると何だか釈然としないのは何故だと考える。
「それじゃあ、これもう持っていっていいの?」
「ああ、微調整もとっくに済ませてあるし『食シスの女王』がそれでいいと言うのならばそれはもう完成品だ。注文者が満足するのが何よりだからな。
待ってろ、今台車を持ってくる」
「ありがとう。それにしても私には何でそんな『食シスの女王』なんて異名が付いちゃったのかしらねぇ。
私も風兎みたいなカッコイイ異名が欲しかったー!!」
女王に関しては一瞬、彼女のSっ気のせいじゃないかと思ったが、言ったが最後、何をされるかわかったものじゃないから口にはしない。
「前人者は『キセキの舌』だったか」
「らしいね。『食シスの女王』よりそっちのがカッコイイよね!」
「……そうか?」
カッコイイ……のか?と風兎は内心首を傾げる。
「それにしても、一体誰が異名を付けるなんて思いついたのかしらね、調べてみたくない?」
「どうでもいい。だが、誰かわかったら教えてくれ、一発殴らせて貰いたい。
……ところで、そろそろ実験をしたいのだが」
「ああ、はいはいごめんね邪魔して。ところでこの後時間空けられる?」
「空けれないこともないがどうした?」
何か大切な用でもあるのだろうか。
「聞いてほしい話があるの。ここじゃあなんだからちょっと私の工房に来て頂戴」
「別に良いが、話って?」
「ちょっと一目惚れしちゃったの」
その言葉を聞いた瞬間風兎は、軽く自分のデコを叩く(はたく)演技をかますがやはり無表情なので少し不気味だ。
「おっと、実験をやりたいし、たった今やらなければいけない事を思い付いた、と言う訳でこの後時間は空けられ無い」
「他ならぬ親友である私の恋愛話が聞けないって言うの?」
その言葉に思わず呻く。
「勘弁してくれ、大体昨日失恋の話を聞いたばかりじゃないか」
それも夜の八時〜朝の五時まで。
お陰で眠くてしょうがない。
「いいじゃない、いつも五日間不眠不休で研究したりしてるんだし。今は別にそこまで夢中になっている物は無いんでしょ?
その時間を少しくらい私に使ってもバチは当たらないんじゃないかしら?」
「だが、その話に興味は無い」
「大丈夫」
何が大丈夫なんだ……?
「話をするなら勝手にしゃべっていてくれ、私は作業をしながら聞くから」
「あんたの作業は騒音作業が多いから私の話何て聞こえないでしょうが」
聞く気、無いでしょ?
と目で問われるのを肩をすくめて返す。
「はぁ〜…………せっかく新作のケーキ作ったのになぁ」
ぴくりっとその言葉に反応する。
「……え?」
「しかも風兎のだ〜い好きなフルーツたっぷりのケーキ何だけどなぁー、そうだね。忙しいのなら仕方がないよね。
仕方がないから私が全部食べちゃおうかな」
「…………く」
「え?何?聞こえないよ?」
「……行く」
「え?どこに?」
にこにこと楽しそうに笑っている女王様。
「……叶の工房に行く」
「何しに?」
「ケー、う、ごほんっ話を聞きに」
ケーキを食べにと言おうとしたら鋭く睨まれ、慌てて言い直した。
「本当?聞いてくれるのね。ありがと風兎、さすが持つべき物は友よのぅ」
ケーキを盾にとり、言わせたくせに何を言うか。
とりあえずと一つため息を落とすと、風兎は叶の工房に行くべく片付けを始めた。
「もうこんな時間か」
叶の工房から帰って、時計を見るともうすぐ夜の七時を回るところだった。
昨日も叶の話を聞いて寝るのが遅かったし、今日は早く帰って寝ようとあくびをし帰る支度をする。
作業着の上から羽織った白衣を脱ごうとしたところで工房の入り口でガタンと音がした。
一瞬叶かと思ったが、彼女は毎回喋りながら入ってくるから除外する。
だとしたら後は講師か警備員か不法侵入者か。
「誰だ」
身構えながら声をかける。
と、一人の男子生徒が姿を現した。
ネクタイの色とブレザーに付いているピンから同学年だと判断する。
一体、何の用なのだろうかと疑問に思う。
「お久しぶりです風兎さん」
知り合いだったのかと記憶を探るが、一向に思い出せない。
仕方がなく、本人に訊いてみることにした。
「あー、えっと、お前は……?」
すると、男子生徒はくしゃりっと顔を歪ませた。
「忘れてしまいましたか……そうですよね。僕みたいな凡人をあんたが覚えている訳ないですよね」
ずーんと沈んでいくので慌てて弁解する。
「や、えっと、すまない、覚えていない訳じゃないぞ、うん。佐藤君だったか」
「違いますよ。全国で一番多い苗字を言ったら当たるってもんじゃありませんよ。僕は小林です。
……その様子じゃあ、僕が三日前にあなたに告白してフラれた事も覚えてないですよね」
告白?そんな人生における重大イベントがあったのならいくら人の名前を覚えるのが苦手な私でも覚えていると思うのだが……。
必死に思い出そうとするが、やっぱり一向に思い出せない。
「……そうですか、告白しても気にもかけず、記憶から消去される位興味なかったんですね……僕が、……僕が一週間かけて考えて、考えて、考えて、考えぬいた最高の告白を覚えていない、なんて……ゆ、許せない…!…許さない……!」
そう言い放つと手に持った何かを思い切り突き出してきた。
何を持っているのか分からなかったが、咄嗟に風兎の体は動いた。
突き出された腕をしゃがんでよけ、立ち上がるついでに左足で相手の足をはらう。
相手が床に仰向けに倒れた所でその腹にジャンプして両膝を重力を利用し、打ち込むようにして勢い良く上に乗る。
相手が衝撃でむせかえっている間に両腕を足で押さえるのを忘れない。
カシャンと音がした。
見ると、棒状のスタンガンらしき物が転がっている。
「こんな物を使って何をしようとしたのかは知らんが残念だったな。女と思ってなめてたか?」
風兎の言葉に小林は悔しげな表情をする。
「スタンガンを使っての犯罪は例え明確な後遺症などがなくとも傷害事件扱いされるんだぞ?
まぁ、この場合は傷害事件未遂だがな。とりあえず、留置所の中で頭を冷やすんだな」
白衣のポケットから携帯を取り出そうとした所で、小林が暴れ始めた。
そして、背筋を使い驚く程の力で風兎を跳ね退けた。
「うぉっつ?!」
思わず床にしりもちつく。
その間に小林はさっと立ち上がった。
「ハァー、ハァー、ふっ、ハァー、……僕の物になって貰おうと思ったけど、無理ならしょうがないか」
ねめつけるような視線に思わず鳥肌が立った。
「それならさぁあ、僕と一緒に消えてよ」
そう言うと、ブレザーの前を開け放った。
その中には白っぽい四角い粘土らしき物がビッシリと巻き付けられていた。
流れ的にプラスチック爆弾かと、推測する。
「じゃあ、逝こうか」
そう言いながら粘土らしき物に繋げられている紐の端、おそらくそこにボタンが繋がれているのだろう、を手に近付いてくる小林の腹をバチドゥの要領で蹴りあげ、その反動を利用してバク転をして立ち上がる。
「ふざけるな、失恋したら相手を道連れに無理心中?は、下手な三文芝居みたいなこと考えやがって!
やっと、やっと、長年研究してみたかったレアな機械が手に入ったのに……今、お前の自己満足に付き合わされてたまるか!!」
実際にはその機械は自分で発明し、セーフティボックスと名付けたあらゆる衝撃に強い箱に厳重に保管してあるため、例え爆発が起きても無傷でおける自信はある。
今の時刻は七時十五分。
毎日七時半に警備員の巡回がある。
何とか時間を伸ばして警備員がくるまでは持たせれば爆発という危険に犯されずに済むかも知れない。
「じゃあ、今じゃなきゃ良いんですか?」
「んな訳あるかぁ!!!」
きょとんとした顔で聞かれた事を全力で否定する。
「そうですか、じゃあ、しょうがないですね」
その言葉に早まった真似をやめるのかとホッとするが、その期待は次の言葉に裏切られた。
「死にましょう」
「何でそうなる!?」
そして小林はスイッチを押した。
とっさに近くの作業台の陰に飛び込む。
その途中で手に何かが当たったので何も見ずに反射的に掴んだ。
飛び込むと同時に激しい轟音と衝撃が体に響く。
凄まじい衝撃に目の前がぼんやりと霞んでいくが、死の直前だというのに頭の片隅は妙に冷静で、目の前に思い出を走らせる。
あぁ、これが走馬灯かと思っていると、あるシーンが目の前を走った。
「僕と、……僕とずっと、一緒に鉄を加工し続けて下さい!!」
そう言えば、いつだか訳の分からない事を言ってきた奴がいたな。
記憶の顔と照らし合わせてみると一致した。
ああ、そう言えばあいつは小林だな。
……ん?ということは、あれは告白だったのか?!
この時に気付く衝撃の事実に愕然とする。
あれを告白ととれるのは余程勘の良い人か理解力のある人間に限られる、というかあれを告白と思う人は少ないだろう!
と内心、ツッコミをいれた。
人生の最後に考えるにはあまりにも色気の無い事に我ながら呆れて乾いた笑いしか出なかった。
熱が、襲ってくる。
とりあえず早く更新できるように頑張りたいです。
2014 .1/19 修正