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アブロード  作者: 大鳥椎名
第一部 逃避行
9/31

第二話 エピソード4『超能力者と盗賊の国』Gパート

 今回で盗賊の国は完結です。



 ローランコは明らかに押されていた。

 勢いづいたリックスは、本来両手持ちの大剣を片手で振り回してくる。

 文字通り大剣は大きく重い。当然のことながら一振りの破壊力も跳ね上がる。その反面、一緒に身体からだも振られてしまうのが隙となる。

 定説に従い、ローランコは横薙ぎをかわした後に接近を試みた。


 しかしリックスは、片手で振った大剣を素早く逆手に持ち替え、振り下ろされたローランコの剣を受け止めるという荒技をやってのけたのだ。常人ならば腕が砕けてしまうだろう。


――こいつ、強い。


 一回戦の疲れだとか、序盤で大技を使ったことなどが決して言い訳にならない。それだけリックス・マービィは強かった。

 気づけば技の回避に瞬間移動テレポーテーションまで使う始末。それは決して万能な技ではなく、使うたびに大きく体力を消費する緊急用の手段である。これでは自身の体力が先に尽きるのは目に見えている。


 観衆もリックスの味方をしていた。

 ローランコが瞬間移動テレポーテーションを使うたび、「逃げるな!」や「戦え!」などの怒声が上がる。

 彼にとっては、思いの他アウェーな試合になってしまった。


 だからといって攻撃を受けるわけにもいかない。一撃でも当たれば大怪我は間違いない大きさである。ローランコは自身の中途半端な武装を今さらだが悔やんだ。

 そこで気になる。リックスに恨まれることをしたかと。考えてみたが、これといって思い当たる節はない。

 ローランコは接近したおりに、たずねてみた。


「そんなことはないさ。俺は決闘が好きなんだ。一定のルールのもと、互いが死力を尽くした真剣勝負。最高じゃないか。全力だからこそ、人はまた強くなれる!」


 語尾に力を入れ、剣を一振り。


「噂通りの決闘バカだな!」


 跳躍でかわすローランコ。

 リックスが着地地点へ向かったため、超念力サイコキネシスを駆使した二段階目のジャンプをして距離を取る。その間も相手の有り余るダッシュ力に驚きを隠せない。


――剣の重さはどこにいった!?


 無事に着地したローランコは右手の人差し指を立て、四方の松明たいまつから火を集め始めた。

 長期戦になればなるほど、実力差が大きく出る。

 そう思ったローランコは、またしても捨て身の反撃に出ることにした。炎は瞬く間に膨れ上がり、人をも飲み込めるサイズになる。

 それを見ていたリックスの表情が、わずかに変わったのを見逃さなかった。


「いける! 火炎操作念力パイロキネシス!」





 炎が迫り来る中、勝つか負けるかの瀬戸際に立たされたリックスは笑みを浮かべた。


――これだから決闘はやめられない!


 放たれた炎は竜の形をとる。長く、大きく、そして地をっていた。

 竜は標的の近くに来ると大きな口を開き、相手を丸飲みにしようとする。

 対するリックスは竜に向かって勢いよく駆けた。

 その無謀な行動に、観客席にいたラノハとハルムスも息を飲む。


 目前に迫る業火ごうかを前に、リックスは横っ跳びで衝突を回避する。相手の右側面に出ると、あごを境に、その大剣で竜を上下に切断した。

 これまでの花火と同様、コントロールを失った炎の竜は大きな爆発を起こした。

 湧き上がる大歓声の中、舞台全体が黒煙に包まれる。


 普段のローランコであれば、煙の中を透視しながら瞬間移動テレポーテーションを駆使して有利な位置に移動しただろう。

 だがこの場では、攻撃の反動もあってか、爆風にあおられて仰向けになってしまった。すぐに身体を起こそうとするが、手足がいうことをきかない。


 そうしているうちに、聞き覚えのある金属音が耳を打つ。

 気づくと、目の前にはリックスの姿があった。そこから少し視線を右に泳がせると、透き通った刃に自分の顔が映る。

 ローランコは悔しさと疲れの入り混じったため息を漏らし、相手に告げた。


「俺の負けだ」





 さらに翌日。


「どういうことだ!」


 戦闘斧バトルアックスを両手で構え、今にも門番に斬りかかりそうなラノハをリックスとローランコが二人掛かりで押さえている。

 先ほどまで門番の上司とおぼしき傷だらけの男もいたが、ハルムスが軽く微笑むと、血相を変えて逃げ出した。


 彼女の仲間三人は、おそらく予選で何かあったのだろうという結論に至ったが、特に気にしない方向で一致する。

 そのハルムスも、ラノハの様子にあきれて一足先に門番小屋を出た。


 ラノハが怒る理由はただ一つ。

 リックスに授与された景品の中に彼の財布が見当たらないのだ。

 門番は「大会当日に強盗に入られ、大会の優勝賞品である財宝が一部盗まれた」と話す。偶然にもその『一部』に、ラノハの荷物が含まれていたのだろう。


 納得のいかないラノハは門番に罵声を飛ばし続ける。

 その間、ローランコはリックスに何かを耳打ちした。リックスはそれに黙って頷く。


「だいたい、アンタが俺の財布をスリ取ったりしなければ――おい、二人とも! どこへ行くんだよ!?」


 付き添いの二人に引きずられ、ラノハは門番小屋を後にする。


 それから四人が訪れたのは、寝泊りした門番小屋の近くにある宿だった。

 入り口をくぐるなり、三十代半ばほどの気立てのよさそうな男が四人を出迎える。その男は先日の大会で負傷したらしい左腕を、首から下げた三角巾で固定していた。


 話によると、彼は盗賊団に襲われた商業国家の騎士団長であるという。

 ローランコは予選の最中、盗まれた品の奪還をもくろむ騎士団員を発見した。

 この国に潜伏している騎士と兵士は合わせて六十人にも及ぶといい、腕に自身のある精鋭が大会に出場したそうだ。


 気の毒にも、彼らはリックスとハルムスに手も足も出ず予選で敗退してしまった。意気消沈していた騎士団の前にローランコが現れ、こっそり取引を持ちかけたのだという。

 それは、自分が優勝して授与された宝石や金銭などのすべてを返還する代わりに、出国から商業国家までの移動の間、護衛をしてもらうという内容だった。

 景品の授与が正確に行われるかいぶかしむ彼らだったが、ひとまずはその条件を飲んだ。


 試合の後に一連の話を聴かされたリックスは喜んで賛同した。

 もともと景品など興味は無かったが、盗まれたと分かっている国宝級のアイテムを持ち続けるのは、身の危険に繋がりかねないと判断したからだ。

 その上、一国の騎士団が護衛につくというのは、野盗や肉食動物との遭遇といったリスクを減少させる大きな要因になる。

 過酷なヴァンチェニア大陸での旅において、安全面の強化は何よりも優先すべきものだった。


 リックスとしては、盗賊団の強襲に圧倒され、ハルムスにも引けをとる騎士団の護衛は心もとないものだったが、それでも無いよりはマシと考える。前述したリスクに対する見てくれの戦力だけでも十分だと思うことにした。

 昨晩のうちに伝令が走り、国を挙げて四人を出迎える準備が進んでいるという。


 ことがうまく行き過ぎていることに一同は疑念を抱いたが、透視魔法で騎士団長の深層心理を読んだハルムスが頷いたため、この場での話はまとまった。

 ハルムスとの戦闘で負傷した兵の手当てが終わるのを待ってから、四人は騎士団と共にこの国を後にした。



 次回はエピローグです。

 短い話なので少し見直しをしたら、すぐ投稿すると思います。


 2012/08/27一部表現を修正。

 2013/01/31加筆修正

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