表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アブロード  作者: 大鳥椎名
第一部 逃避行
8/31

第二話 エピソード4『超能力者と盗賊の国』Fパート


――誰か助けて……。


 ラノハはご機嫌斜めなハルムスと観客席にいた。相変わらず立ち席である。

 居づらい雰囲気の中、ラノハは恐る恐る彼女の顔をのぞき込んでみたものの、暴力的な威圧感に圧倒され、すぐに目をそらした。


――もうどっちでもいいから、早くケリをつけてくれー!


 声にもならないラノハの悲鳴は舞台へと消えてゆく。





 リックスとローランコは本日二度目の対面を果たした。

 観衆のボルテージは上がっており、二人の男の決闘を今か今かと待っていた。


「はっきり言って、あんたとは戦いたくなかったな」


 ローランコは、大剣を勢いよく素振りするリックスに話し掛ける。

 振り回した剣の刃を軽く肩にかけて、ローランコに返した。


「そうか? おれは楽しみにしてたけど」


 ローランコは軽くため息をつく。

 彼が愛用の剣を抜くなり、試合開始の合図が鳴る。

 角笛の音と同時にローランコは右手の手の平をリックスへ向けた。


「初めから全力でいかせてもらう!」


 先ほどハルムスに使ったのと同じ幻惑の術である。

 対するリックスは両手持ちの大剣を構えて走った。ローランコが間合いに入るなり、勢いのある横薙ぎを繰り出す。


 ローランコはジャンプでかわし、リックスの真上を跳び越えた。

 着地して向き直ると、背中を向けたままリックスは人差し指を横に振り、両手でも重たそうに見える巨大な剣を左手だけで持ち上げ、刃の根元を肩に乗せて振り返る。


「俺にその手の技は効かないぜ」


 ローランコは予想通りの結果を前に、静かに息を吐いて気を引き締める。

 左手の剣を逆手に持ちかえ、右手の人差し指を立てた。その指先に、松明たいまつから炎が集まってくる。


「どうやらそのようだな」


 ハルムスでいうところの火炎球ファイアーボールが放たれた。

 リックスは剣を両手で持ち直し、上段に構える。

 そして――





 昼間だというのに、二つの・・・大きな花火が上がった。


「お? やってるやってる!」


 茶髪と金髪の入り混じった長髪の男は、広場に辿たどり着くなり、ステージを見上げた。

 時おり聞こえる金属音。それを瞬時にかき消す観衆の雄叫び。そして白服の男がまれに放つ花火。

 この日は祭りと言って申し分ない状態だった。


「あらら。やっぱり受付に遅刻したのは正解だったな。負けるかどうかは別にして、あんなやつらを二人も続けて相手にするのはめんどくさい」


 誰も耳にしない独り言を口にしながら、彼はステージの脇にある選手の入場口に向かった。そこには景品の保管庫らしきものもあり、四人の見張り番がいた。


 始めは足音がならないよう気をつけていたが、歓声が絶えず響く中では気にする必要もないと思ったのか、保管庫の入り口を見張っていた兵士の背後に堂々と歩み寄り、剣の鞘で殴って気絶させる。

 危機感の薄かった残りの見張りも順番に叩き伏せ、いとも簡単に財宝にありついた。


「まあいいさ。俺が興味あるのはこっちだし」


 男は腰に下げていた袋に金目のものを少しばかり移してテントを出た。

 人々の目が舞台に向かっていたため、彼の行動を目撃した者は気絶している見張り番以外、誰もいなかった。


 そして彼は、誰にも気づかれることなく盗賊の国を後にしていった。





 ハルムスは機嫌が悪かった。

 ステージ上の男達が一進一退の攻防を繰り広げているが、どうでもよかった。モチベーションが上がらなかったのだ。

 もちろんローランコに敗北したというのも大きな要因だが、それにはもう一つ理由があった。


 腹が減ったのだ。

 幸い、虫の声は荒れ狂った観衆がかき消してくれている。

 考えてみれば、昼食の時間だと気づく。

 それでも、広場にそれらしい露店は見当たらない。祭りと聞いて人知れずあきれていた。


 ハルムスはポケットから飴玉を一つ取り出す。選手控え室からくすねてきたものだ。

 これでも腹の足しにはなるだろうと思い、包みを開いて口に放り込む。

 すると、数秒と待たずに吐き出した。


――何これ!? (から)っ!


 ハルムスはむせた。あまりのからさに言葉が出ず、涙も出てくる。

 不意にラノハと目が合ったが、反射的に目をむいてしまったらしく、怯えたように視線をそらされる。


 戦う二人をもう一度見上げた。

 試合の結果などどうでもよくなっていたハルムスは、このまま消耗戦になって両者が共倒れになればいい、という破滅的な考えも脳裏に浮かんだ。


 こんなとき、自身には寛容が足りないと感じる。

 言葉にできない苦しみに耐たえながら、ハルムスは雑念を頭の端へと追いやった。

 ハルムスにとってこの旅は、寛容を身に着けるための試練の旅でもあった。


 涙で視界がにじむ中、闘う二人の影がぼやけて浮かぶ。

 あえてどちらかを応援するとしたら、答えは決まっている。

 付き合いの長いリックスに軍配が上がった。


――とりあえずリックス勝て!


 声にもならない彼女の叫びは舞台へと消えてゆく。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 この話は次回で完結です。


 2013/01/30加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ