第二話 エピソード4『超能力者と盗賊の国』Bパート
今回は少し短いです。
夕刻に迫ろうかという裏通りで、三人は警戒していた。
というのも、この街の住人とは明らかに違う服装をした男が話しかけてきたのだ。
年齢は十代後半くらいだろう。男は短い金髪で、額には赤いバンダナを巻いていた。白衣に似た半袖の衣服も異彩を放っている。
リックスは警戒を崩さぬまま、怪しげな男に言葉を返すことにした。
「なんか用か?」
「もちろんだ。困っている人を見かけたら、放っておくことはできないんだ」
リックスは尚も警戒を解かず、男に言った。
「……もう一度訊く。なんの用だ?」
リックスの言葉には、呆れと同時にわずかな敵意が混じった。
言葉にできない威圧感がこもったリックスの発言を聴くなり、男は両手を広げた。
「そんなに敵意を向けてくれるなよ。まあ、こんなことを言うヤツに対して警戒を解かないのは良いことだと思うが、その点俺は大丈夫だ。そのままでいいから聞いてくれ。盗まれたアンタの財布のありかだけど、俺は知ってる」
「本当か!?」
ラノハはすぐに反応した。
もはや男に対する警戒はすべてリックスに任せてしまっている。
ラノハの様子を見た男は、警戒を緩めない二人に気を使ったのか、距離を縮めずにラノハと話し始めた。ここで始めて、男の名とこの国全体が盗賊で成り立っていることを聞いた。
「あの男、どう思う?」
リックスは二人の会話に目をやりながらハルムスに話し掛けた。
ハルムスは洞察力に長けており、相手の表情や言動から真意を見出すことができるからだ。
「言葉自体に嘘は無いと思う。でもそれが全体的な信用に繋がるかどうかはまだわからない。それと……なんか癇に障る」
「それは同感かな」
ローランコの話によると、三人の寝床は確保できるという。
警戒しなければならないのは尚のことだが、時間が時間であるため、やむをえず案内してもらうことにした。
行く途中、ローランコは一枚のチラシをラノハに渡す。
各季恒例 第×××回 財宝争奪決闘大会
日程 ○月△日
参加資格
・種族を問わない満10歳以上の者
(我が国の入国許可証を持っていれば国民でなくても参加できます)
優勝賞品
・今季この国にもたらされた金銀財宝のすべて。
(中略)
大会規則
・原則としてエントリーは個人に限る
(ドッペルゲンガーは別人と見なします)
・武装は一人で持ち込めるものなら、いかなるものでも可。
・相手が負けを認めるか、相手を気絶させた者を勝者とする。
・対戦相手を殺したものはいかなる事情があろうと失格とする。
「大丈夫だ。もし、これから行くところに盗まれた財布がなかったとしても、俺がここで取り戻してやるよ」
三人はチラシに見入った。
奇怪な決闘大会の内容を目にしてからの反応は三者三様だった。
リックスは読み終わるなり怪しげな笑みを浮かべ、一方のハルムスは羊皮紙に疑いの眼を向ける。ラノハはというと、その目に怒りを露にしていた。
「せっかくの気遣いだけど遠慮する。俺は誇り高き戦士の血筋だ。こういうのは自分で取り返さなきゃだめなんだ」
ラノハはそう言って背中の斧に手をやった。
街中で抜こうとはしないが、握る手には力が入っている。
「やめとけよ。だいぶこの国を見て回ってきたけど、やばそうなヤツもいる。俺くらい鍛えてたらなんとかなるかも知れないが、正直なところ、棄権した方がいいと思うぜ」
ローランコの言い分を聞いたハルムスは右手に拳を作り、自分たちの前方を後ろ向きに歩いているローランコに突き出した。
その刹那、ハルムスを中心に大気の層ができ、それは激しい風圧をまとった鉄拳となって襲いかかる。
突然のできごとに対応できなかったローランコは、宙を二回ほど舞って地面に転がった。
「これなら自分で出場した方がまだマシね」
「……容赦ないな」
先ほどよりも表情が穏やかになっているハルムスを見て、人知れずリックスはつぶやいた。
気の毒に思ったリックスとラノハが、仰向けのまま目を白黒させているローランコに肩を貸してやる。鍛えていると自称するだけあって、すぐにまた一人で歩けるほどに回復したのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話は明日投稿します。
2012/11/26表現を一部修正
2013/01/31加筆修正