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アブロード  作者: 大鳥椎名
第一部 逃避行
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第四話 エピソード5『猛獣使いの遺産』Iパート

 ようやく事態が動き出します。


 田んぼに囲まれた遊歩道を抜けて、ハルムスは登山道の入り口にたどり着いた。

 そこに魔物ハンターの姿はない。尾行に気づかれることを警戒して慎重に歩んだ結果、とうとう二人組の背中すら見ることなく、ここまで来てしまった。

 少女とっては、途中で見つかって追い返されることに比べれば大した問題でもない。

 むしろ彼女の誤算は別のところにあった。


「なんなの、これ……」


 到着するなり、登山道にぼうぼうと茂る草を見下ろして、さらにうなだれる。

 あらかじめ話を聞いていなければ、道だと認識すらしない。そのような光景が広がっていた。


「三人とも、ここを登ったというの……?」


 もはや、あきれ顔である。

 いら立ったハルムスが足元に転がっていた小石を蹴り飛ばす。するとその石は奇妙な音を立てて、はね返ってきた。不思議に思ったハルムスが石の着地点をあさっていると、『魔物出る。危険』という内容が書かれた小さな立て札が見つかる。


「注意書きが意味を成してないじゃない……」


 ハルムスは大きくため息をついた。

 立て看板の有無はともかく、道なき道を登った三人の仲間にあきれているのは変わらない。

 最初に見つけた立て札の近くから登山道の案内板も出てきた。そちらは長く人の手に触れていないのか、木が半分以上腐っていた。文字もかすれて読めたものではない。

 改めてハルムスは山を見上げる。


「……行くしかないよね」

 

 そのような考えも少し前なら出てこなかったかもしれない。

 自分本位で生きていたかつての自分とは違う。そのように自分の考え方を改めるきっかけを作ってくれた仲間をいつしかハルムスは家族以上の存在として受けとめていた。

 

 折っていた服の袖を下ろし、先に登ったハンターの足跡を頼りに草を掻き分けていった。





 屋敷にて、五人は客間に戻って歓談していた。

 うっかり朝日が昇るまで眠られるのは困るのだ。バランも、当事者であるリックスたちも。

 バランは吸血鬼としての威厳と風格を持ち合わせている一方で、眠っている人を起こすことができない人物でもあった。


 吸血鬼としては一般的な夜行性生活を送っているルオラもまた、朝日が昇るまで起きているのが難しい性分である。しかし、生涯で初めてできた友人との永久とわになるかもしれない別れが待っているとなると、そうも言っていられない。

 ルオラは三人に旅の思い出をたずねることにした。それ以外に話題が浮かんでこなかった。


 実際に尋ねてみると、三人は様々なエピソードを話し始める。

 リックスとラノハが出会った宝石鉱山の話、ローランコが加わった盗賊の国の話など、ルオラにとっては夢物語のような話ばかりだった。

 ハルムスという彼らの同行者にも会いたくなったくらいだ。

 この話が盛り上がったおかげで、旅人一行いっこうが眠気を感じることなく時間が過ぎていく。


 三人の話を夢中になって聴く我が子を見つめ、父は物思いにふけっていた。

 決して深刻な悩みを抱えているわけではなかったが、バランの考えるそれは猶予ゆうよがなく、決断を急がねばならないものだった。


 吸血鬼でありながら神を信じる彼は、太陽神をかたどったペンダントを握りしめる。気づくと、強く握り過ぎたせいで手のひらから血が出ていた。夢中になって旅の話を聴いている娘に、よけいな心配をかけまいと、気づかれないように治癒魔法で傷を消す。

 そんなとき、バランは何か異様な気配を感じて天井を見上げた。


「……ん?」


 わずかだが声を上げてしまったのは失敗だったかもしれない。その場にいた全員の注目が集まってしまう。

 仕方なく、違和感の正体を皆に伝えることにした。


「何者かが結界に干渉して侵入しようとしている」


 旅人一行がとたんに顔をゆがめる。

 一連の話を聞いていたバランも、彼らの仲間がいかような性格かは分かっていたつもりだった。


「少し見てこよう。君たちの仲間だったら、ここまで連れてくるさ」


 バランはマントでその身を包むと、霧のようにどこかへ消えていなくなった。

 出遅れたとばかりにリックスも立ち上がる。その内心は不安でいっぱいである。ハルムスがいかに好戦的な性格か知っているからだ。

 

「悪いルオラ、俺も行ってくる!」


 それだけ言い残すと、リックスは目にもとまらぬ速さで客間から出ていった。


「えっ!?」

 

 反応の間に合わなかったルオラの声が客間にこだまする。

 リックスに続いてローランコとラノハも立ち上がった。

 

「俺たちも行ってくる!」

「短い間だったけど、ありがとな」

「だ、だめ!」


 ルオラの悲鳴と同時に上がったのは、木製の椅子が倒れる音。彼女が勢いよく立ち上がったために突き飛ばされたのだ。


 次の瞬間、きびすを返した二人の身体からだが硬直した。口さえもいうことを利かなくなっている。

 それはルオラの放った金縛りの術だった。かざした両手に魔力を込めて、二人の身動きを封じている。


「行っちゃ……だめ……」


 背中を向けていた二人は、ルオラがどんな面持おももちで術を行使していたか、うかがい知ることができなかった。



 ハルムスにここまでの心情変化が起こったのはちょっとびっくりです。

 もっと後になってからだと思ってました。


 些細な勘違いから生まれた騒動の始まりです。


 思いのほか長くなってしまったので、物語がひと段落したら、文字を詰めてパート数を減らすかもしれないです。


2012/10/24キャラクターの名前間違いを修正

2013/01/29地の文を一部修正

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