プロローグ アナザーエピソード『ヴェクナスとレミーア』
次回から長編に入るので、プロローグが入ります。
「待ってよぉ、レミーア!」
黒いマントを羽織った少年は叫ぶと同時に転んだ。
砂漠独特のキメの細かい柔らかな砂が、目から鼻から口からヴェクナスの体内に取り込まれる。慌てたように咳き込むが、かえって砂ぼこりが舞うだけだった。
ヴェクナスの悲鳴に近い声を聞き、真紅のショートボブが振り返る。
「男の子でしょ! そんなことで泣き声立てないで!」
レミーアと呼ばれた少女がベージュ色のローブを翻して怒鳴りつけた。
ヴェクナスが何か言いかけたが、気にせずレミーアは続ける。
「大体、この世界を見て回りたいって言ったのはヴェクナスでしょ! 今私たちが立ってる『ヴァンチェニア大陸』の環境は過酷そのものよ。いつまでも泣き言を並べてたら、そのうちどこかで野たれ死ぬことになるのよ。それでもいいの?」
「良くないけど……」
レミーアは尻餅をついたままになっているヴェクナスに目線を合わせて、その金髪から砂を払ってやる。それが終わると、緩やかに立ち上がった。
再び進路を取ろうとするが、疲れたヴェクナスに気を使い、しばしの休憩を入れることを決める。
見渡す限りの砂と地平線が広がる中では、まぶしい太陽を遮るものなど何もない。
そこでレミーアは、魔法で砂を固めてドーム状の日除けを作った。ヴェクナスを招き入れて休ませる。
「とにかく、今日中に次の国まで行くのよ。絶対だからね!」
「うん……」
ヴェクナスに釘を刺した後、レミーアも腰を降ろして大きく伸びをした。
しばらく日除けに寄りかかって息を切らしていたヴェクナスは、ゆっくりと呼吸を整えてから、それまで頭に浮かんでいた疑問について訊ねた。
「歩き始めてから、まだ人を見かけてないけど、旅をしてる人って僕たち以外にもいるのかな?」
「結構いるのよ。これだけ歩いて、誰とも出くわさないのは、ちょっと珍しいけどね。ただ休んでるのも暇だから、このヴァンチェニアで旅をしてる友達の話をしましょうか?」
その言葉を聴くなり、ヴェクナスは閉じかけていた目を大きく開いた。
幼さの残る上目使いで興味を示し、レミーアに続きを求める。
「そうね。最後にその友達に会ったのは、だいぶ前なんだけど、そのとき聴いた話をするわ。彼女が十五歳のときの話なんだけど――」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
プロローグが長くなりましたが次からが本編です。
2012/08/17あとがきの変更
2012/08/31あとがきの変更
2012/09/18蛇足部分の撤去
2013/01/28句読点の一部変更