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アブロード  作者: 大鳥椎名
第一部 逃避行
14/31

第四話 エピソード5『猛獣使いの遺産』Bパート


 夕食の少し前に四人は集まった。

 ハルムスは帰るなり早々、ラノハが腰に挿している手投げナイフを一つ奪い取り、買ってきた川魚をヒラキにして二階のベランダに干していく。乾燥させて保存食料にするためだ。


 魚と果物を干し終えた頃、家主の呼び声を聞き、ハルムスとラノハは先に食堂へ下りていった。

 出遅れたローランコは、リックスが見慣れない剣を二本、腰に下げているのに気づいた。それと同時に、リックスがいつもより一回り小さく見えた気がした。


「リックス、その剣どうした?」

「さっき買ってきた」


予想通りの返答を聞いたローランコは、次の質問を出した。


「いつも背中に挿してた大剣デカいのは?」

「売った。数が多けりゃ良いものでもないだろ?」


 速答だった。さぞ未練など無さそうな顔を浮かべ、双剣を同時に引き抜いた。どちらも先端がそった片刃の剣で、一方は青、もう一方には赤い装飾が施されていた。

 剣を持ち上げ、満足そうに見下ろすリックスを見て、ローランコはわずかに目を細めた。


「なるほど。値引き交渉に失敗したわけか」

「……人の心を読むなよ」


 ローランコはリックスの返答を待たずにきびすを返し、下へ降りていった。


「とりあえずメシだ。いらんなら俺がもらうぞ」


 リックスは抜いた剣を鞘に納め、すぐに後を追った。


 夕食のあと、干した魚と果実が乾燥するのを待ってから出発することで話がまとまった。

 この地域の気候から、遅くても二日から三日程度で出発できると見込んだのだ。

 出発後の行き先に関して、いくらかもめた後、四人は床についた。





 翌日、朝食を終えたリックス、ラノハ、ローランコの三人は村の観光をすることにした。

 一方でハルムスは「乾パンを買い足してくる」と言って別行動をとる。


 商店の並ぶ通りを抜けると、人をほとんど見かけなくなった。畑らしき敷地に目を向けても、農作業をしている人をちらほらと見かけるくらいだ。

 住居は平屋が主体で、時おり見られる二階建ての家屋は民宿の名残りであるという。


 かつては複数の国を又にかけた旅商人の一団キャラバンの中継地として栄えたらしいが、ここ数百年のうちに戦争や疫病で周囲の国が滅び、人の往来が途絶えたと民宿の主は語っていた。

 建物が不規則に密集した集落は塊村かいそんと呼ばれ、自然発生的に成立した集落であることが多い。この村も決してその例に漏れない。

 村には商店もあるが、現在はどこも副業と化していて、農業による自給自足の生活をしているそうだ。


 散策を続ける三人は、村のはずれに神社を見つけて参拝した。

 その後は神主かんぬしの勧めを受け、昼食を近くの団子屋で済ませる。

 腹ごしらえを終えると、今度は団子屋の店主に勧められて山へハイキングに出かけた。


 ヴァンチェニア大陸の南東部には『ホワイ山脈』と呼ばれる巨大な山々がいくつもつらなった山岳さんがく地帯が広がっている。

 推奨された山は、他のものに比べて傾斜が緩く、気軽なハイキングには向いているとのことだった。


 だが、三人が登山道の入り口だと言われた場所に立ってみると、そこに階段らしきものは見当たらず、代わりに生い茂った草が一面に広がっている。


「団子屋のじいちゃんの話と違うぞ。とてもじゃないけど、子供からお年寄りまでハイキングに出かける登山道とは思えないな……。道、間違えてないのか?」


 ラノハと同様の疑問を感じたリックスがふところから地図を取り出すが、大陸全土を模した地図では分からない様子だった。

 見かねたローランコは少しだけ目を細め、やぶの下を透視する。


「一応この下に階段らしきものは見える。だが、人の出入りはだいぶ少ないようだな。本当に登っても良いのだろうか?」

「そうでもない」


 地図をしまったリックスは登山道の左端を指差した。

 よく見てみると、丈の高い草むらの中に、人が一人歩けるくらいの分け目がある。


「登山客はいるみたいだ。このやぶのせいで、登るのを諦める人が多いだけだと思う」

「なるほど」


 頷くとローランコは山の頂上を見上げた。


「決まりだ。俺たちでこの草むらをどかしてやろう」


 二人は揃って嫌そうな顔をする。

 リックスとラノハ双方の対応を予想はしていたものの、ローランコは少しだけがっかりした表情を見せた。


 そんなことなど気にとめず、「競争しよう」と言いだしたラノハが草むらに突入して姿を消す。

 挑戦を受けたリックスも、後を追うように木のみきに跳び乗り、枝から枝へと跳び移りながら次第にその姿を小さくしていく。


 突然の出来事に、残されたローランコは対応に困った。

 やがて、二人を見失ってはいけないと思ったローランコは念力で空中を浮遊し、草むらの上を滑るように追い駆ける。


 あまりにも慌てていたために、ローランコは草に埋もれた小さな立て札に気づかなかった。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、ユーザーネームを変更いたしました。

 名前が変わっても、この奇怪な作品を書き続けていきます。


 今回の話は文字数が少ないので、本日もう一話更新しますね。


 2012/11/22双剣の形状を明記

 2013/01/30加筆修正

 2013/02/08加筆の不足分を追加

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