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アブロード  作者: 大鳥椎名
第一部 逃避行
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第三話 エピソード4.1『ハルムスの激怒』

 盗賊の国編の補足回です。


 盗賊の国を後にする少し前の出来事だった。


 ハルムスはひと()の少ない通りを選んでローランコを路地の壁に突き飛ばし、右手に構えた杖を二又(ふたまた)の槍に変形させると、それを壁に突き刺した。

 ローランコは首を槍に挟まれ、身動きが封じられている。それでいながら顔色一つ変えておらず、真っ直ぐにハルムスを見据えていた。


「なんのつもりだ?」

「私の記憶、どこまで見た?」


 ハルムスの瞳には、激しい憎悪(ぞうお)の色が現れていた。

 平静を装ってはいたものの、ローランコは身の危険を感じている。

 そもそも、ローランコのハルムスに対する第一印象は決して悪くはなく、むしろ異性として見たハルムスはとても好印象であった。

 それだけに、目の前にいる別人のようなハルムスの形相に驚愕(きょうがく)し、恐怖していた。


「なんのことだ?」

「とぼけないで!」


 首を拘束こうそくする槍にまた力がこもった。


「決闘の開始直前、目を細めたでしょ。昔……といっても、旅に出てからだけど、ある人がこんなこと・・・・・を言ったの。『超能力者(サイキッカー)が目を細めたり、大きく見開いたりした時は気をつけろ。心を読まれるぞ』ってね。どうなの? 違うの?」


 槍は少しずつ壁の亀裂を大きくしていき、ローランコの首からスペースを奪っていく。

 ローランコは人の心や物を透視(とうし)するとき、目を細めるクセがあった。彼自身、このクセのことを知ってはいたものの、特に直そうとはしていなかった。

 実際のところ、ローランコは先日の決闘大会において、試合前にハルムスの心を読んだ。それは突然彼女が怒りだした理由を探ろうという好奇心から出た行動であったが、そのせいで彼女の触れられたくない過去の一端を知ってしまったのだ。

 ハルムスの言った『記憶』というのはおそらくそのことだろう。


 ようやく心当たりのできたローランコは、ゆっくりと目を閉じた。


「……すまなかった。このことは誰にも――」


 そこまで言いかけたところで、まぶたの向こうから光を感じたローランコは目を開く。

 ハルムスは左手に新たな木製の杖を構えていた。それは何かに変形させず、元の形のまま、先端から青白い光を放っている。


「……いらない。私の過去、誰にも共有してほしくない!」

「忘却術か。構わない、好きにしてくれ」


 ローランコは『正義の男』を自称する自分がハルムスを傷つけてしまったのは事実なのだと悟った。どのような仕打ちも受ける覚悟を決める。


「言っとくけど私、忘却術はそんなに得意じゃないから、余分な記憶まで飛ばしちゃうかも」

「!?」


 ローランコは目の前が真っ白になった。





「二人とも遅いな」


 国の北門を前にして、ラノハは途方にくれていた。

 出発直前に忘れ物をしたと言って、ハルムスが路地に戻っていったのだ。ここが盗賊の国であるため、盗まれている可能性があるからと、ローランコも連れていった。


「盗まれてたとしても、ローランコがいればすぐ見つかるだろうに」


 リックスはラノハの言葉に返事を返さない。行き先はわかっているとでも言いたげな表情を浮かべながら騎士団の用意した馬を撫でていた。

 馬は五頭用意されていて、リックスたち四人と騎士団長が乗ることになっている。本来は品の良いの輝きを放っていたはずの白馬は、その毛並みに砂がまみれて汚れていた。


 時間が経つにつれて、複数の宿に点在していた大会の参加者たちも、少しずつ集まってきた。必然と門の前には帰国者の列ができあがる。

 そこに紛れる異国の兵士たちは、一般人を装っているためか、次々と国を後にしていく他の大会参加者と区別がつかない。複数のグループに分かれながら、交代で騎士団長の合図を今か今かとうかがっているあたりは、統率が取れているようにも見えた。


 ハルムスとローランコが路地から戻ってきたのは、もうしばらく経ってからのことだった。


「俺の中の大事な記憶がいくつか抜けてるんだけど……」

自業自得じごうじとくよ」

「……そうだな」


 ローランコは溜息をついた。

 預けておいた荷物をリックスから受け取り、二人は馬に(またが)った。

 馬に慣れていないラノハをリックスが手助けしてなんとか乗せ、それからリックスが自分の馬に取りついた。


 それとほぼ同時に国の門が開く。馬を含めた大人数の移動であるためか、門を通る許可は問題なく下りていた。

 片手を負傷している騎士団長の合図に従って、一同は歩み始める。


 ここは入国の際に利用した南門から見て、国の反対側に位置する北門だった。

 それゆえ、ラノハの財布をスリ取った門番の姿は無かったが、嫌な記憶がフラッシュバックしたのか、盗まれた当人はムシの居所が悪かった。

 馬のペースに合わせて揺られる中、不機嫌なラノハにローランコが話しかける。


「荷物を無事に返還できれば、盗まれた財布以上のお礼だって何かしら貰えるさ」

「そうか?」


 半信半疑のラノハにローランコは頷いた。

 その直後、ローランコは何を思ったのか辺りを見回し、ハルムスの方へと視線をやる。


「どうした、ローランコ?」


 心配するラノハに、ローランコは非常に申し訳無さそうにたずねた。


「えっと……お前、誰だっけ?」



 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 最後はコメディ面が目立つ展開となりました。


 また長編に突入するので、次回はプロローグが入ります。


 2013/01/28地の文を中心に一部修正

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