EPILOGUE
EPILOGUE
N田町駅のロングエスカレーター。
午前八時三十分。
黒のジャンパーの男性。すっきりと伸びた背筋、足。
さっぱりと洗濯されたばかりの紺ソックスに、黄土色の便所サンダル。
そう、おろしたての松本製作所、型番ろ一〇三。
一段あけて、エスカレーターの彼の真後ろに乗りこみ、マヒルは声をかけた。
「おはよう。一号」
一号は、ゆっくりと振り返り、視線をマヒルの足下に走らせる。
(有)ナカガワのモデルA01。
色番は8。
シンプルに言うと。
水色の、便所サンダル。
一号は何も言わずに、そのまま前を向いた。
エスカレーターが終わり、改札に向かって歩く途中で、一号は人波を避け、少し脇の方に立ち止まった。マヒルもまた、そこで立ち止まる。
一号は、バックから小さな茶色い紙袋を取り出し、振り返ると、黙ってそれをマヒルに差し出した。
そして、改札の方へと歩き去って行く。
「一号!」
マヒルが、その背中に声をかけると、一号は、振り返りもせず、立ち止まりもせず、ただ左手を上に伸ばして、一度だけ大きく振った。
そして、自動改札を抜け、人波に消えていった。
マヒルは、紙袋をしっかりと両手で握りしめる。
開けなくても中身は分かっていた。
ソックスだ。
(ベンジョサンダリスト!完)