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ベンジョサンダリスト!  作者: 水城
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タックスペイヤーに一言いいたい。


お前ら、国Iを馬鹿にしてないか?

無責任な公務員、オイシイ思いに、利権まみれ、そう言うが。

そう言うが、本当にお前ら、本当にお前ら。

若手・中堅キャリア公務員やりたいか?


恒常的に夜十一時前には、絶対帰れないレベルの業務量。

その上、メンヘラ上司からは、砂つぶを数えるがごとき無駄な仕事を言いつけられて。やっと明け方、官舎に帰る。


帰ったところで、布団を敷いて眠ったりしたら、夕方ぐらいまで起きられないに決まってる。だから毛布をかぶって、壁にもたれてしゃがんで仮眠だ。


公務員宿舎、格安で立地最高。けしからん。

そう言うよな、お前ら、よくそう言うがな。


そうさ、最寄駅はS軒茶屋、月家賃一万七千五百円さ、破格さ。


だがな、築四十年、老朽化して、水回りボロボロ。畳は波打ってるぞ。

しかも、風呂、便所共用。


今時、風呂、便所共用だぞ。デビューしたてのお笑い芸人かよ? あり得るか?


しかも、錆び付いたバランス釜で、個人宅にあるような小さい湯船には青藻が浮いている。

そうだよ。入居者の誰も、掃除する暇なんて、あるヤツいないからな。


なぜだか知らんが、割れたガラスが散乱していて裸足では入れない風呂場だ。


しかもシャワーは、水しか出ない。


その水しか出ないシャワーを、明け方、帰宅して使うんだ、二月の早朝でも、歯を食いしばって浴びるんだ。


それでも、それでも、本当に、若手・中堅キャリア公務員が羨ましいか? 


T急D園都市線? 

は? そんなもの、使った事ないぞ。

電車が走っている時間に帰る事などないぞ。


たまの休みは、寝て、起きたら、もう日曜洋画劇場の時間だ。


そうさ、自分の時間を持つなんておろか、生命を維持する事すら危ういさ。当然、彼女なんかいない。

いや、絶対に出来ない。できようもない。


上司、親戚が見合いを準備してくれなきゃ、結婚などできる訳もない。

大学時代に遊んでなけりゃ、場合によっちゃ、結婚まで童貞だ。素人童貞を含めれば、おそらく三十五歳以下の全男性キャリアでは、童貞は七割を越えるだろう、間違いない。


見合い。

それだって、誰にでも来る訳じゃない。

見合いが来なかったら、どうなるか、見合いが来なかったらどうするのか。


敢えて、もう一度聞こう。


それでも、それでもまだ、国家公務員を羨むか? 

公務員を蔑むか?


どうなんだ、そこの所をはっきりさせようじゃないか、そこの所をじっくり語ろうじゃないか?


やっとご褒美の留学に出されて、アメリカくんだりでMBAまで取ってきて。

また、こんな生活に、戻りたいと思うか? そりゃあ、辞めるだろ? 普通辞めるだろ?

曲がりなりにもな、東大とか出ててさ。


転職するだろ? メリルリンチとか、JPモルガンとか。無理もないだろ? 


同じ忙しいにしたって、夜は、六本木ヒルズでシャンパンだよ。

年末は、ミッドタウンでカウントダウンだよ。

クリスマスは広尾の上司宅でホームパーティーだよ。年収八桁だよ。


役所辞めなかっただけ、褒めて欲しいよ。

すでにその時点で、日本国民に真の忠誠を誓っているさ。


あり得ない位偉い、僕は本当に偉いよ。偉すぎる。

誰も褒めてくれないが、誰も褒めてくれなくても自分で自分を褒めてあげたいさ。


分かったか。

文句あるヤツは、UR賃貸新築抽選にでも、インターネットで申し込んでろ。

僕のいいたい事はそれだけだ。


怒りのあまりに、口調が吉野屋になってしまった。

懐かしすぎるな。最近は、2ちゃんすら見る暇もない。


おっと。今晩の洋画劇場は、『ブロークンアロー』か?


ここ数年、僕にとって洋画封切りがこの番組って感じだ。とりあえず、今日最初の飯を食べよう。ちょっとコンビニいってくるか。

コンビニ行って、弁当食ってビール飲めば、あっという間に月曜になる。


月曜だけは、課内は割と朝早くから人が揃う。もちろん、以後は段々に出勤時間が遅れてくる。

なぜなら。夜が帰れないからだ。


土曜に、一号から頼まれた件。

問屋の取引詳細。


早く調べて、一号に報告したい……。


本来なら、こういったことで動くのは火曜以降がベストだ。

月曜は、問屋も銀行もどこだって、仕事の回し始めで、ばたつく。そんな時に色々聞き回っても、向こうの対応はあまり良くない、やり方として上手くないし、筋も悪い。


火曜の十時過ぎあたり、同僚もまだあまり来てないし、課長もいないはずだ。

そう、動くなら火曜の十時、それがベストだ。


だが……。

出来るだけ早く情報を得たい。

そして、一号に報告したい。

せめて、定例の水曜昼には、間に合わせたい。

だったら、火曜の朝ではちょっと心許ない。

……いや、焦るな、三号。急いては事をし損ずる。


それにしても……。

N田町駅というのは。盲点だったよな……。


そう、便所サンダルと言えば、Tノ門、Kヶ関。それが聖地だ。


それが……。

初めて一号に会った時……。

そう。あのN田町駅のロングエスカレーターで。 


あの時、すぐさま互いに足下をチェックしあった。

あたかも、切り結ぶ前の剣豪か何かのように。


マツモトとナカガワの足型の違いを解し、小売のデータチェックまで怠らない男。

何故だろう、こんなにも魅かれる、強く魅かれる。


何よりも、便所サンダルがあれほど似合う男を、僕はいままで見たことがなかった。


そして、どこかしら謎めいていて……。


謎……?


そうだ、そう言えば。

一号って何やってる男なんだっけ?

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