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愛の氷獄  作者: cian
9/12

悪魔の微笑み

更新が遅れてほんとうにすみません!!

 3日後、日名子は突然上司である花木に呼びだされた。

「水臭いな、本庄くん」

「…?何のことですか、部長」

 訝しげに問う日名子と対照的に、花木は随分ご機嫌だ。

 そして上機嫌のまま告げられた台詞に、日名子は愕然として言葉を失くす。

「三笠社長と知り合いだったら、早く教えてくれていたらよかったのに」

「!?」

 まさか職場で聞くと思わなかった名前に、日名子は青ざめて花木を見返す。中級に属する出版社と『MIKASA』は関わり合いがほとんどないはずだ。だからこそ、日名子はここを職場に選んだ。だのに、どうしてここで秀史の名前が出てくるのだろう。しかも、日名子と知り合いだと知っているという事は―――

「先ほど三笠社長が来てね。教えてくれたんだ。応接室で待っていただいているから、お相手さしあげてくれるかい?」

「……え…」

 からくり人形より拙い動きで、愕然としたまま日名子は問い返す。


 何故。

 どうして。


 疑問と共に蘇るのは、7年ぶりに再会したあの時の言葉。

『君には、償いをしてもらう』

 これが、彼の言う『償い』の始まりなのか。嫌な予感に冷や汗が湧きでる。

 叫び出したい言葉は喉の奥で閊えて音にならない。ただワナワナと震える身体と心を必死に抑え込もうと努力する。

「知っていると思うが、三笠社長は最近うちの大手株主になってね。どうしてかと思っていたら、君がいたからだったんだね」

 にこにこ顔で告げる花木の言葉に、日名子は気を失うかと思うほどの衝撃を受ける。

 株主?まさかと思うが、花木が嘘を言っているとは信じられない。株主にまで目を向けていなかったのは迂闊だった。けれど、どうして彼が自社の株を買っているなどと想像が着くだろう。

 拳を白くなるまで握り締めて、唇を引き結んだ日名子の様子にようやく気がついたのか、花木が不思議そうに尋ねる。

「どうした、本庄くん?気分が悪いなら、三笠社長に挨拶した後そのまま早退してくれて構わないよ」

 忙しい最中で花木がこれだけ言う事は滅多にない。相当機嫌がいい上に、秀史はそれだけ重要な人物なのだろうと想像がつく。

 日名子は震える心に渇を入れようと、もう一度強く拳を握りしめる。それから、大きく深呼吸をした。目をきつく閉じてからキッと強く開く。

「…わかりました。挨拶をしてまいります」

 対峙しなければならない相手を思えば心が挫けそうになる。

 けれど負けられない。つい先日、けして秀史には屈しないと誓ったばかりではないか。

 日名子はもう一度大きく息を吸うと、意を決して花木の元を後にした。




「失礼します」

 日名子の気配に、窓から外を眺めていた秀史が振り返った。

 相変わらず威圧感のある男だと日名子はこっそりため息をつく。

 広い肩幅に逞しい肢体。アルマーニのセンスのよいスーツにネクタイ。鋭く先を見据える切れ長の瞳。何よりその堂々とした佇まいと醸し出す雰囲気が、彼が大企業の社長である事を示している。

「3日ぶりだな」

「…そうですね」

 何を思っているのか、にやりと笑みを浮かべる秀史に、日名子は硬い声で応える。

 全くもって気に食わない事に、三笠秀史という人間はこうしたどこか傲慢な態度がよく似合う。他の人が行ったらいけすかない態度も、彼にかかればいっそ魅力的に感じるのだから性質が悪い。

 一瞬だけその魅力にぞくりとしてしまった自分を見てみないふりをして、日名子は自分の内から彼に対する怒りを呼び起こす。少し意識を向ければ、それは湯水のように溢れ出て日名子の敵愾心に味方した。

「聞けば、うちの社の大手株主だそうで。何のつもりかは知らないけれど、御贔屓いただけてありがとうございます」

「なに、優秀な社員を引き抜かせていただくんだ。これくらいは相応というものだろう?」

「……どういう事です?」

 余裕綽綽といった秀史の態度に、日名子は眉を顰める。

 秀史と日名子の距離は約3メートル。応接室の端と端にいると言っていい位置なのに、離れていても感じる秀史の威圧感に飲まれそうで、日名子は懸命に彼を睨みつける。

 そんな日名子を見て、秀史はフッと笑う。

 まるで小動物を見るような一種の憐憫をもった瞳に、日名子は屈辱で真っ赤になった。

「新しい雑誌を作るそうだね。君もメインになって、随分力を入れてるそうじゃないか」

「……なんで今その話が?」

 突然ふられた話題に、日名子は用心深く問い返す。新しい雑誌というのは、日名子と玲佳が手掛けている女性向けの雑誌の事だろう。株主ならば知っていてもおかしくないが、今この瞬間に話題に出てくるものだとは思わない。

「主となって投資させてもらうのが私だからね」

「…は?そんな、一株主だけで話が進むわけがないでしょ!?」

「でも、事実だからね。そうだとしかいいようがないな」

 秀史の言っている意味がわからなくて、日名子は困惑の表情を浮かべる。雑誌の予算は社の総予算の中から割り振られているはずだ。他の予算など―――献金などなかったはずだ。まさか、強引に秀史が手を回したのか。

 唖然として日名子は秀史を見る。


「君の大切な雑誌への投資は、君の身柄と引き換えだ」


 言われた言葉の意味がわからなくて、日名子は思わず聞き返す。

「私の身柄と引き換えって…どういう事?」

「決まっているだろう?君には仕事を辞めて私のもとに戻ってもらう。それが、投資の条件だ」

 油断なく浮かべられた笑顔に、新たな怒りが沸き起こってくるのを感じた。

「そんなの、ありえないわ!!」

「そう思うなら思っていればいい。その代わり、一生雑誌は発売されないだろうけれど」

 浮かべられた笑みはどこまでも傲慢で自信に充ち溢れている。獲物を狙う猛獣の目だ。一度狙いを定めた獲物はけして逃がしはしない。その視線が語っている。

 秀史は、どんな強引な手段を用いても自分の言う通りに事を進めるつもりでいる。

 目の前で言い渡された事が信じられなくて、日名子は目を見開いて秀史を見つめる。

 深く―――昏い瞳が日名子を見つめ返す。かつて焦がれた瞳は、こんな色だっただろうか。


 言葉を失くした。

 まるで、魔に魅入られた娘のように。

 日名子の視線の先で、悪魔が微笑む。


「償いの始まりだ、日名子。もう一度私のものになって、私の子どもを産むんだよ、君は」


 それは、とても魅力的な、うつくしい笑顔だった。


…難産でした。筆がまったく乗らず…

一週間以内に一回とか嘘言ってすみません。しかもなんか気に食わないのでそのうち改稿するかも(汗)

でもとりあえず物語が動き出した感じなので、少しは進めていきたいと思います。

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