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第六話 時と命の国、〝風籠〟

「〝方位の都〟から〝風籠〟まで、どのくらいの距離だったけ?」


 木々の間から光が差し込む。〝方位の都〟から一時間と少し歩いただろうか。もう〝方位の都〟は見えなかった。

 ここは、〝方位の都〟の周辺にある森だ。大森林と言っていい。まるでジャングルである。葉対は歩きっぱなしであることに対して苦痛を抱いていた。

 余談だが、〝方位の都〟のそれぞれの国の果てからおおよそ、120km。その範囲は実質的に〝方位の都〟の支配地である。つまり、〝方位の都〟は基本となる都の半径157kmの円と、半径120kmの森の円を合わせたものが国土となる。

 全域は半径約591,738 k㎡。クロノフィアに存在する国の中では少しだけ小さい部類に入る。地球に存在する日本の面積は約378,000km²だ。とりあえず、日本よりは大きいということである。


「大体、200kmぐらいだったような気がするわ」


「今、一時間ぐらい歩いたよな。後、何時間歩いたらいいんだよ」


 玲兜も疲れているのか、そう言う。まぁ、人間誰しも一時間も歩き続けたら疲れるだろう。


「そうね。歩く速度が時速4kmと言われているから、残り196km、つまり後、四十九時間歩けばいいって事ね」


「舐めてんだろ……。あと二日も歩けって?」


「そうなるわね。まぁ、旅なのだから我慢して頂戴(ちょうだい)。今から休憩にするから」


「やっと、休憩ができんな。んで、よくブラックは疲れねぇよな。そう言う能力でも使ってんのか?」


 白雪たちは立ち止まって、各自座る。


「そんなもの、使っていない。旅の面白みが消えるだろう?」


「体力もバケモンだな。細い身体してんのによ」


 ブラックは確かにモデルのような体型をしていた。本当に旅人なのか、疑うレベルだ。無論、旅人かどうかは前々から怪しかったが。


「我だからな」


「自分だから何でもありってことか?……ムカつく野郎だな、マジで。それと、俺の【技能(スキル)】を使っちゃいけねぇとか言ったのも、その旅の醍醐味(だいごみ)だとか、面白みがなくなるからなのか?」


 玲兜の《法則技能(ルールスキル)》はエネルギーの生成だ。もちろん、無限に生み出せるわけではないが、膨大な量を生み出せ、また、そのエネルギーのあり方も運動エネルギー、光エネルギー、魔力などさまざまなものに変換できるので、とても便利な能力である(ヴィアルドに通用しなかったのは、黙っておくべきだろう)。

 今回、言っているのは、自分たちに運動エネルギーなどを付与して、本来よりも速いスピードで進もうということである。

 だが、ブラックはどうやらそれを拒否したようだ。


「それもあるな」


「それもって、他に何があんだよ」


「じきに分かる」


「……たく、毎回説明が雑だなこいつ」


 すると、そこでブラックは水筒を虚̀空̀から取り出した。


「うお、収納系の能力か。マジで何でもできんだな、お前………………って、あぁッ!!俺、何も持ってきてねぇ!!!」


「だから、持ってきたんだ。やる」


「マジかよ。さんきゅー。用意周到(しゅうとう)だな」


 水筒を受け取ると、一気にそれを飲み干していく。もう三分の一しか残っていなかった。水筒は1L程度の大きさに見えるが。

 白雪たちの方を見ると、〝方位の都〟を出たときには気付かなかったが、全員が水筒及びバックを持っていた。


「てかおい、お前らも用意周到かよ。いつ準備したんだ?」


「葬白たちに準備させたのよ。それと、あなた、用意周到なんて言葉知っているのね。意外だわ」


「バカにすんなよッ?!!はぁ……あいつらに準備させたって、まるで旅に行くのが分かってたみてぇだな」


「さっきも言ったけど、旅人になれって言われたときから、『これ、絶対行かされるやつだわ』って察したの。だから、前もって葬白に伝えた。葉対たちもそうだったみたいね」


 ブラックが旅人になれ、と言ったあのときにもう、察していたわけだ。それで、白雪は部下である葬白に伝えた。

 葉対たちも同様であった。だが、どのようにして伝えたのか。そんな時間はなかったように思えるが。


「いやよ、どうやって知らせたんだよ。そんな時間なかっただろうが」


 玲兜も疑問のようだ。


「帝王でいながら、まさか知らないの?」


 木にもたれて座りながら、ジト目で見る。


「あく言えよ」


「はぁ、呆れた。【通信(シグナル)】よ。《強力技能(ストロングスキル)》の」


 《強力技能(ストロングスキル)》【通信(シグナル)】。一定範囲内ならば、テレパシーのような連絡が可能になる能力だ。

 なるほど。それなら、あの(わず)かな時間で用意できたのも納得できる。用意した葬白たちの動きの速さは、尋常(じんじょう)ではないが。

 ちなみに、【通信(シグナル)】は《強力技法(ストロングテクニック)》の場合だと、効果範囲が伸びる。


「んぁ?……あぁ、あれか。ッチ。忘れてた」


「やっぱり馬鹿ね」


「あ?!」


「葉対でさえ、ちゃんと使っていたのに」


「まぁ、僕は旅に出るって確実に言われたときにしたけどね」


 名前を出された葉対が答える。


「こいつにだけは負けたくなかったな……綾、なんでテメェは俺に言わなかった。てか、なんでお前だけ持ってんだよ!」


「斑雨さんから、玲兜様は手ぶらで行け、と命令を」


 綾は玲兜の最高幹部だ。斑雨は幹部であるが、綾の部下という形になるため、さん付けをしているのは彼が敬意を持っているからだろう。

 そして、歳上だから、と言うのもあるのだろう。立派な大人が子どもの部下というのは何とも不思議なことだ。


「何してんだあいつ……。帰ったらぜってぇぶん殴る」


「斑雨さんと玲兜様は、いがみ合っていますからね。斑雨さんも、よく、帝王という立場である玲兜様にあそこまで反発できますね」


「歳上だからつって、調子乗ってんだよ」


「それは、玲兜様じゃ……」


 優司はボソッと呟く。と、玲兜には聞こえていたようで、怒った様子で叫ぶ。


「なんだとテメェ?!」


「ひぇッ!!何でもないです何でもないですぅ!!!!!」


「……白雪。一つ、問うてもいいか」


「ええ」


「貴様らは、いつもこんな感じなのか?」


「そうね。騒がしいのが通常だわ」


 もはや慣れたように答える。それほど、日常的に起こっていることなのだろう。


「仲が良いのは結構だが、余計疲れないか……」


「呆れるのは仕方ないことよ。まぁ、それだけ元気があるってことでそっとしてあげて」


「天才は変人だと言うが、個性が豊かすぎな気がするな……。《法則技能(ルールスキル)》を保有しているとはとても思えぬ」


「自分で言うのもアレだけど、私たちは中学生なの。本来は、あれが普通なはずよ」


「いくら、教育をされていたとしても、年齢が低ければ精神年齢も幼いわけか。その点、貴様や牙瑜、麗那と言ったか?貴様らは精神年齢が高いと見えるがな」


 とても中学生には思えないというわけだろう。牙瑜と麗那は、どちらかと言えば執事とメイドあるいは秘書のような感じなので、そう思うのも仕方ない。

 一体、どのように教育されたらこうなるのか。

 玲兜たちが牙瑜たちを迎え入れた話は、まだブラックにはしていない。実はそのときから既に、牙瑜と麗那はこの口調だった。

 白雪がブラックにこのことを話すのは、まだ先のことだろう。


「そういう性格なだけよ。特段、意識しているわけではないわ」


「そうか。なら、やはり貴様たちは天才と呼ばれるに値するの──」


 値するのかもな、と言おうとした刹那──ガサッという音が聞こえ、何かが飛んでくる。

 ブラックは白̀雪̀の̀頭̀に̀向̀か̀っ̀た̀ソレを、おそらく、能力で止めた。

 ソレは弾̀丸̀だった。


「ッ?!何だ?!」


 その様子を()の当たりにした玲兜が叫ぶ。


「これは──」


「敵襲ですね」


 白雪の言葉に牙瑜が重なる。

 白雪たちの空間に緊張が走る。あの弾丸は確実に白雪を殺そうとしていた。白雪は恐ろしさで、狼狽(うろた)えているが、徐々に冷静さを取り戻し、立ち上がる。



「全員、備えろ」


「了解です」


「はい」


 牙瑜と麗那も立ち上がる。

 全員が立ち上がり、あたりを見渡す。と、またもやガサッと音がした。


「《法則技能(ルールスキル)》【儚げの雪月花エフェメラル・スヌーンラワー】」


 白雪の身体が蒼く光ると、雪が降り出す。すると、白雪は手を振り、雪が弾丸に向かっていく。衝突した雪は消え去り、弾丸はコロン、と地に落ちた。

 ヴィアルド戦でも言ったが、白雪のこの【技能(スキル)】はさまざまな効力がある。あのとき使ったように麻痺、そして、運動エネルギーなどの減少を含む、速さを低下させる鈍足、また単純な熱低下など本当に色々ある。

 今回は、鈍足だ。運動エネルギーがゼロになった弾丸が、地面に落ちていったわけだ。


「流石、《法則技能(ルールスキル)》保持者だな。一度は我に手助けされたとは言え、一瞬で対応するとは」


「舐めないで」


「あぁ、白雪なんかに負けてらんねぇ。綾、弾丸の跡は分かるか?」


「お任せを。《法則技能(ルールスキル)》【分解主義の技師デコンストラクション・エンジニア】」


 綾の琥珀(こはく)色の両目が、明るく輝く。綾の視界には、弾丸の撃った跡、つまり『流れ』が見えていた。

 《法則技能(ルールスキル)》【分解主義の技師デコンストラクション・エンジニア】。その名にある通り、機械を操ることに長けている。探知、設計、修復。主な能力内容はこの三つだ。今回はこの中の探知である。

 この探知は、帝王が所持している〇〇の大地とは異なるものだ。綾の探知は、より『人工物』の探知に優れる。


「玲兜様、【通信(シグナル)】で視覚を共有しますので、そこを狙ってください」


「ありがとよ。……そこか」


 玲兜も、その赤い瞳が輝きだす。

 【通信(シグナル)】の良さは、意思の伝達だけではなく、感覚の共有(伝達)も可能なところだ。

 玲兜は落ちていた石を拾い、狙いを定めて──投げた。その石は玲兜の【技能(スキル)】により運動エネルギーが付与され、超がつくほど加速していた。

 ────ドォンッッッ!!!!

 激しい音が鳴り響く。白雪を狙った狙撃者に当たったのだろうか。


「そのまま眠ってくれれば助かるんだがな」


「そんな甘くないですよ」


 そんなやり取りをしていると、奥からなにやらガサッガサッと、今度は弾丸ではなく、確実に生き物が動いている音がした。


「たく、(いて)ぇだろうが。こんな石ころを銃みてぇに投げてくるとか、どんな化け物だよ」


「言った通りですね」


 森の草むらから、一人の男性が出てきた。年齢は、四十代後半だろうか。体格は随分(ずいぶん)と大きい。

 なるほど。これがブラックが言っていた殺̀し̀屋̀か。


「なんだよ、お前。いきなり撃ってきたと思ったら、ご挨拶もなしに登場か?」


「ブラック。これがあなたの言っていた殺し屋?」


 人をこれ呼ばわりとは、白雪は相当怒っている。当然と言えば当然だが。なんせ、自分のことを殺そうとしてきたのだから。


「ああ。やはり、我の予想通り来たな」


「おいおい、これ呼ばわりか?俺にはちゃんと名前があんだよ」


「なら、名乗れよゴミ」


 玲兜は物凄く反発している。


「たくよぉ、ガキのくせに生意気だな。……ま、どうせ殺すんだ。言っても無意味だが、逆に言っても問題ないってことだな。コードネーム〝(らく)〟。よろしく、ガキども」


 こうして見ていると、親近感があるような会話だが、両者共々、バチバチに睨め合っていた。今ここで、殺し合いが始まりそうな雰囲気が漂っている。


続く

こんばんは!Davidです。

皆さん、いかがお過ごしでしょうか。私はマジで忙しいです。本当は、こんな後書き書いてる場合じゃないです笑。いやぁ、部活の大会がありまして、その練習が本当に忙しい。

テストも近いという始末。みなさんも、無理せずに頑張ってくださいね!

ここまで読んでくださった読者の皆様には本当に感謝です。面白いと思ってくれましたら、ブクマと評価お願いします!それでは、また次回お会いしましょう!

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