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第四話 加わる日常、黒い影

「貴様にとって最強とは何だ」


That was (突然)sudden(だな).何だよ急に」


 辺り一面が草原。そこに、黒い服装の中性的な顔立ちをした者が立っており、もう一人、ピンク色の髪をした者が寝そべっていた。


(かつ)て、最強を欲した人間が居た。だがそれは、戦闘面での話ではなかったのだ。誰にも屈しない『愛』を欲していた」


Huh (へぇー).つまり、最強はなにも、戦闘とかの力のことだけを指す言葉ではないってことか?」


「ああ。(すなわ)ち、個々で見えている最強は異なり、各々が各々の最強を目指しているのだ」


「お前がそう言うの、珍しいな」


「我は力が全てとは考えていない。それを踏まえて貴様に問う。貴様の最強とは何だ、虚理(きょり)


 虚理と呼ばれた男は上半身だけ起き上がり、答えた。


Even(それ) though (でも),俺の信念は変わらない。俺が俺の信念を誰にも邪魔されないことこそが、俺の最強だ、ブラック。俺はあの子を止める」


「そうか」


 黒い服装の男──ブラックは静かに呟き、どこか満足げに、されども(さび)しげな表情を浮かべた。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


「ただいまでーす」


「心配させたわね」


 白雪と優司は病室から戻り、皆がいる白帝苑に向かった。

 部屋に入ると、いつも通りのメンバーにブラックが混じって、またもやケーキを食べていた。


「たく、急に倒れんなよ」


 玲兜もやはり心配していたのか、そう言う。


「悪かったわね……って、あなた、ケーキ食べすぎですよ。糖尿病が心配です」


「フン、中学生にしてよく言う。こんな美味なスイーツがあったら手に取ってしまうだろう?自然の摂理(せつり)だ」


 何を当たり前のことを、と言いたげな顔で言葉を放つ。


「はいはい、あなたが甘党なのは分かりましたから。それと、今から帝王会議をしないといけません。つまり──」


「分かっている。我が一人、ここで残っていろ、というわけであろう?」


「はい。すみません。すぐに終わらせますので」


()()い。我のことであろう?存分に話し合うがいい。まぁ、我はここに居座るつもりであるがな」


 ニヤっと、得意げな顔をするブラック。つまり、何を言い渡されても〝方位の都〟から出るつもりはないということか。

 だが、なぜだろうか。彼はボロボロの街並みを見たから来た、そう言ったはずだ。であるならば、ここを修復した今、残る理由などないはずなのだ。


「……分かりました。優司たち、行くわよ」


「了解でーす」


「たく、だりぃな」


「ほら、行きますよ。玲兜様」


「お前は真面目すぎんだよ。綾」


 面倒くさがる玲兜とは違い、その部下たる綾や葉対たちは大人しく会議室へと向かう。


「では」


「ああ。ここで待っている」


 そうして、全員が部屋を出た。

 すると、ブラックは──


「…………勘付いたか。どうやら、記憶が……」


 と、自分以外誰もいない部屋で、怪しげなことを言い放つのだった。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 白帝苑、地上二階の会議室にて。


「で、どーせブラックのことなんだろ?」


「あなたね、そのタメ口やめなさいよ。国外からの来客よ?帝王として、品性を持ちなさい。まったく、学校で習っているのに」


「あんな眠くなるような授業なんざ、受けてねぇよ。寝てるかサボってる」


「最悪ね……。国の元首としての自覚持ちなさいよ」


 何度も言うが、白雪たちは中学生なのである。中学生にして、国を治める天才。そう呼ばれていた。無論、いくら国を治めるといっても、中学生だ。きちんと、勉強をしなければならない。

 普通の学問も含まれるが、帝王なので、もちろん、普通の授業だけじゃない。君主論や英語以外の言語、貴族としての振る舞いなど、金持ちの子どもと思うような内容もある。

国を治めるには最低限の知識が必要だ。それを拒否する玲兜に、白雪はため息が止まらない。


「まぁ、玲兜の言う通り、ブラックさんのことで話し合うわ」


「ほらな」


「それで、それについて議題にする前に、言っておきたいことがあるの」


「言っておきたいこと?」


 優司以外は白雪の身に何が起きたか知らない。白雪は、ここで全員に打ち明けるようだ。

 尽世は尋ねる。


「……ヴィアルドが殺されたあのときから、私は頭にノイズが走って、脳裏に映像が、景色が浮かぶようになったの」


「マジ?えっと、フラッシュバックってやつ?」


 葉対は優司と同じ感想を抱いた。やはり、フラッシュバックという可能性が高いのだろうか。白雪自身もそれは知らない。


「考えられるのは二つぐらいね。まず、みんなが思うフラッシュバック。もう一つは、あるものを媒体とした記憶の混入」


「なるほど。白雪様は『眼』をトリガーにその現象に落ちる。なら、『眼』を媒体として、その人の記憶が流れ込んでいる可能性もあるわけですね」


 優司は事前に話を聞いているので、白雪の発言はすんなり理解できていた。だが、玲兜たちは知らないので、まず、それを説明しなければならない。

 白雪は口を開く。


「私が最初にこの現象に()ったのは、ヴィアルドを殺したあの人の眼を見たとき。そして、今回私が急に倒れたのも、この現象のせいよ。つまり、今回はブラックさんの眼をトリガーとしてなった」


「つまり、お前は眼を見たらフラッシュバックみてぇな感覚になるってわけか?なら、俺らの眼はどうなんだよ」


 もっともらしい言葉を玲兜は吐いた。白雪が眼をトリガーにその現象に(おちい)るのであれば、優司たちも同様に眼を光らせれば、同じ現象が起こる可能性もないとは言えない。しかし、即座にその可能性を白雪は却下した


「いえ、あなたたちの眼を見ても何も起こらないし、例え【技能(スキル)】や【技法(テクニック)】を使って特殊な眼を使ったとしても、こうはならないと思うわ。きっと、あの光り方の、雰囲気の眼じゃなきゃいけない」


「ブラックみたいのか?……ちょっと待てよ。仮に、ブラックの眼がお前のその現象のトリガーだとして、それだとヴィアルドを殺したやつの正体はブラックってなんじゃねぇか?!」


「ええ。今集まってもらったのも、それを伝えようとしたからよ」


 皆、息を呑む。仮にあの者がブラックであったとして、一度ヴィアルドを殺してから旅人のふりをして接近してきた理由が分からない。

 わざわざ嘘をつく価値などあるのだろうか。


「では、白雪様。貴方(あなた)様はブラック様にお帰り頂くと言うのですか?」


 麗那は問う。


「……やすやすと迎えるわけにはいかない。でも、決めつけで追い返すのも悪いし。しばらくは様子見で滞在してもらうわ。彼自身も、ここにいたいと言っていたわけだし」


(わたくし)が思ったのは、日本語が達者であったなと。名前が英名である以上、例え地球からの訪問であった場合でも、外国の人と見て間違いないでしょう」


 確かによくよく考えれば達者であった。よく勉強していたのか。考えすぎであることも否定はできないが、怪しさの一つとも言える。

牙瑜の発言に白雪は答える。


「日本語を上手く扱えているのはさておいて、重要なのは彼の目的は何なのか、よ」


「一体何がしたいのか分からないよね」


 それである。葉対の言うように、皆が思っているのは彼の目的や意図は何なのか。何をもって〝方位の都〟に訪れて、なぜ、住まう気なのか。

 タイミング、行動、姿からして、怪しいと言わんばかりである。それは、当の本人も自覚しているはずだ。


「ちょっと、いいですか?」


 麗那が手を挙げる。


「ええ。どうしたの?」


「トイレだろ」


「ふざけないで、玲兜。第一、そうだったとしてもいちいち言わないで。あと、トイレじゃなくてお手洗いって言いなさいよ」


「その、お手洗いではなく……。ふと、思ったんです。的外れかもしれませんが、封印が破れたのもブラック様が原因ではないかと」


「ふむ。あり得ます。魔王ヴィアルドを殺した者もブラック様の可能性がある。そして、旅人として訪問されたブラック様が、都全体を一瞬にして修復された。これほどのお力がある方ですから、封印を解けるのも納得です。ただし──」


「ヴィアルドの封印を解いておきながら、殺すのは矛盾している」


「はい」


 牙瑜の考察に玲兜も重なる。そこで白雪は一つの可能性を述べた。


「もし、ヴィアルドの封印を解いたのも、ヴィアルドを殺したのも、ブラックさんだとするなら────私たちを利用する気なのかもしれないわね」


「つまり、全部一人芝居(しばい)で、俺たちに何かをさせようとするためにやったと。んで、信頼を得る必要があるから、ヴィアルドをわざと解放して殺した。……筋は通っているように思うが、だったらブラックってやつはあそこで名乗るべきだったんじゃないか?」


 玲兜の意見は正しい。もし、ブラックが何らかの目的のために自作自演をしたのならば、ヴィアルドを殺した後に名乗り、そのまま白雪たちと行動する方が自然で、信頼を得やすい。

 わざわざ、ヴィアルドを殺した者と旅人という区別をする必要はないはずだ。

 組織という可能性もなくはない。同一の力を保持していて、目的のために別々となり、演ずる。白雪のあの現象のトリガーが眼であるならば、その力によって引き起こされ、組織なら同一の力を持っているのもおかしくない。

 つまり、白雪の現象は特定の力に反応したものではないのか。白雪が見た映像にはブラックが酷似した人物が居た。そのことが、今回の騒動と関係があるかもしれない。


「……そうね。はぁ、考えれば考えるほど分からなくなるわ」


「一つぐらいは合っているぞ」


「何でそんなことがわかるの…………って、え?!ブ、ブラックさん?!!!」


「「「ッ?!」」」


 誰かの声がすると思ったら、その声の正体はブラックであった。突然現れた彼に、全員驚く。


「一体、どうやって入ってきやがったんだ?!」


 この会議室は円卓式だ。入る扉は絶対に目につく。だが、ブラックが入ってくる姿など誰も見ていないし、白雪たちならば気配を感じることができるはずだ。

 しかし、気配など全くなかった。


「悪いな。ケーキを完食した故、おかわりを貰おうと厨房に向かおうとしたら、我が散々な言われようだったからな」


「下手な嘘はやめてください。察しぐらいつきますよ」


 白雪は(けわ)しい表情をしながら言う。


「そうか?貴様らが我を怪しむのは当然、理解している。だが、ヴィアルドの封印を解き、貴様らを殺戮しようとしているわけではない。殺して信頼を得ようとしたわけでもない」


「なら、一つぐらいは合っているとは?」


「我は確かに、目的があってここにきた。ボロボロだったから、というのは建前に過ぎない」


 ブラックは事実を述べていった。そして、もはやいつも通りのように、理解ができない言葉も。


「貴様らには、旅人になってもらう」


 ブラックの冷たい眼が、白雪たち全体の空間を包んだ。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


「約束は守るぞ、リュミエール」


 誰もいない神殿のような場所で、『黒』は言った。


第四話 完

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