第二十八話 謎は、月光のもとに晒される
「──俺ら、記憶を失ってんだろ?」
「……」
「白雪ちゃん!」
玲兜の言葉に対して、深刻そうな表情して黙るブラック。一方で、しゃがみ込んで苦しい様子の白雪を、ホワイトたちは心配していた。
「今なら理解できる。白雪がお前の『眼』を見たとき、少しの異変が起きる。禁忌書のあの件もだ。一体、何が起きてたのか。フラッシュバックか、そんな感じだろ?」
「……ああ」
わずかに沈黙を保ったあと、首を縦に一度振る。白雪が倒れているのもあり、情報量が多いこの状況に、綾や暁颶たちは困惑したままである。
それにしても、なぜ玲兜はブ̀ラ̀ッ̀ク̀が̀そ̀の̀こ̀と̀を̀知̀っ̀て̀い̀る̀のを、分かっているのだろうか。ブラックが知っているのをバラしたのは、白雪以外には居ないはずだ。
彼の視線は、いまだにブラックを突き刺すように見つめていた。
「なぜ、我がそれを理解していると知っている?」
「怪しいからに決まってんだろ。お前がヴィアルドを殺した本人かどうかは知らんが、少なくとも仲間のはずだぜ?あんなやつの味方、そしてお前のいままでの言動・行動から考えりゃ、知っててもおかしくはねぇ」
「逆になぜ、貴様はそれを知れた」
ブラックは玲兜の方へ振り向く。
「わっかんねぇ。けどよ、〈制限解放〉の影響だろうな」
「やはり、感じるか。……いいだろう。全ては話せないが、ある程度は言うべきであろう。それほどの時は満ちた」
「その前によ、白雪はどうすんだ。戦闘は中止させた方がいいだろ?」
「否だ。今、彼奴は核心を掴もうとしている。やがて、第二条件を解放するだろう」
ブラックと玲兜は白雪の方へ視線を向けた。そこでは、優司が皆と同じく心配そうに見つめていたが、ブラックと同様の思いがあったのであろう。何もせず、立っている。
「フラッシュバックと、第二条件の解放は関係あんのか?」
「むしろ、互いに関係性があると言える。現に貴様が感じているように、〈制限解放〉の影響で記憶が解放されようとしている。その影響が最も強く出ているのが、白雪だ」
「そうだな」
「第二条件を解放した白雪は、漠然としてはいるだろうが、嘗ての記憶を一部取り戻す。では、貴様らの記憶が戻ろうとする気配がないのはなぜだか分かるか?」
そう問われた玲兜は、顎に手を当てて考える仕草をする。少し考え込んだあと、口を開いた。
白雪は変わらず、苦しんでいる。ホワイトが助けに行かないのは、先ほどのブラックの言葉があったからだろう。
「……トリガーか。禁忌書っつぅ例外はあるが、基本的にお前に関することで、白雪はフラッシュバックを起こす。特に、眼でな。それと同じように、俺らにはそれぞれのトリガーがあるわけか」
「その通りだ。貴様らの過̀去̀に̀深̀く̀関̀わ̀る̀ものが、トリガーになる」
「てことは、白雪とお前は──」
「ククク。白雪とは、過去一度も会ったことがない。これは嘘ではないぞ。我は、必要ない嘘は吐かん」
彼の言葉に呆れながら、ため息を吐く玲兜。ブラックの発言には、いつも呆れるものだ。この旅人は、それほどまでに胡散臭いのである。
そもそも旅人であるかも怪しく、仮に旅人とて、普通の旅人ではないことは確かであろう。
白雪の呻き声が聞こえる。やがて、静まり返った。実に恐ろしいほどに。
「……星々」
その一言をきっかけに、彼女の周りからは凄まじい粒子が放出された。蒼く、蒼く光り輝く粒子が。
粒子は線になるように並び、円形となる。その円形がいくつか構築され、グルグルとゆっくり回転した。
「白雪様ッ!!」
優司が叫ぶ。
「「白雪……」」
玲兜と葉対の言葉が重なる。
「玲兜。言っておくが、貴様らは貴様らが思っている以上に、この世界は謎に溢れ、貴様らは強い」
「何を──」
玲兜は意味を問おうとしたが、その前に轟音が鳴り響いたため、言うのを憚られた。
見れば、封命主が戦闘時に服装が変化するのと同じく、彼女の姿も変化している。
まるで、氷惑星が如く氷で覆われていた。ドレスに近いようで遠いそ̀れ̀。身体の一部とも思える。
白雪は無言で、宙に浮かぶ。
「封命主。APOのお前からして、今の白雪は何だと思う?」
「急に私に話題を振るな。……まぁ、《法則技能》とやらが理に関する能力なら、今のあいつも理に近しい状態だろうな。《法則技能》との一体化とは、良く言ったものだ」
「感情は力、肉体は苦。──記憶は虚だ」
コツ、と足音がしたと思うと、ブラックが空を歩いて白雪の頭上まで歩んで行く。謎めいた発言をしたのち、彼の身体がゲームのバグのようにノイズが走ったのだ。
神秘と畏怖。その対比を表すみたく、白雪とブラックが対比的であった。
そして、最後に言い放ったのである──
「謎はやがて、月光のもとに晒さられる」
──と。白き宇宙の本来なき天に、月光が飛び出た。
第二十八話 完




