第三話 彼女は私か、私は誰だ
「改めて、言おう。我が名、ブラック。最強たる旅人だ」
突然現れ、突然その力を振るう謎の自称旅人。彼──ブラックは最強と謳歌おうかし、それに見合ったような不敵の笑みを浮かべた。
そして、白雪は気付いた。その怪しげに光る眼が、ヴ̀ィ̀ア̀ル̀ド̀を̀殺̀し̀た̀者̀と̀よ̀く̀似̀て̀い̀た̀ことを。
(…………うっ!)
そこで白雪は、あの時と同じようにノイズに襲われた。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「貴様が願った世界は叶えられたか?」
「うん。だって、美しいと思わない?愛そうと想わない?この世界を」
ヴィアルド戦での脳裏に浮かんだ映像に映っていた黒服の男と白服の女だ。
彼らは何かを話していた。世界という、大きな規模の話である。
「この醜い世界を、か?見よ、人間は愚かだ。脆弱だ。光に近く生まれながらも、闇を愛した愚者に過ぎない」
彼は否定的であった。人間のことをよく思っていないのであろうか。
そもそも、彼らの会話の内容は理解に苦しむものだ。人間は光に近く生まれた。それが一体、何を示すのか。
いわゆる、思想や哲学なのだろうか。
「そう言って、内心では思ってるのに」
彼女はクスクスと笑う。
「……うるさい。それで、どうするのだ。貴様が満足したのなら、次は管理者を決めなければならない。後継する者が必要だ」
「あぁ、それならアレ…………序を任せて…………始…………にも代理…………」
段々と映像が薄まり、ノイズがまた走る。
「…………の件だが…………本当に…………でいいのか?」
(誰なの……声が…………あれは私?)
映像の中で、さまざまな情報や疑問を抱く。もっと知りたい。もっと見たい。だが、時間がそれを許さなかった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「……雪様!!白雪様!!!」
(誰……?私を……呼んでる……)
「白雪様ァ!!!!」
「ッ?!!」
「白雪様ッ!!!やっと、起きましたか!もう、心配したんですよ」
「優司……?どうしたの…………って、あれ?ここは……」
白雪は優司の声によって、意識を取り戻したのだ。目が覚めた、とも言っていい。
見れば、辺りは綺麗で清楚な一室で、病院を想起させる。
「白雪様が急に倒れこむから、近くの病院まで運んだんですよ。ほんとに、急にどうしたんですか?みんな心配してましたよ?」
「悪いわね。ありがとう」
「運んだのは、ブラックさんですけど。なんか、能力で浮かせてました」
「……少し、雑な気がするのだけど。まぁ、ともかく本当にごめんなさいね。少し、異常があったのよ」
あの旅人、ブラックが無情にも能力で運ぶという行為を聞いて、少しジト目になってしまう。
それよりも、今回のことについて話さなければならないだろう。このノイズの正体。それで見たきたこと、ブラックがヴィアルド戦での映像の中の人物と似ていたこと、そして、自身にも似ていた人物がいたこと。
「異常じゃなかったら、急に倒れせんって!それで、一体どうしたのですか?」
「最初は、ヴィアルドが殺された後のときだった。謎の人が現れたでしょう?その人の輝いている『眼』を見ていたら、急に頭痛が走ったの。そのときに、頭にノイズが走るような感覚に襲われた。その後に、脳裏に映像が浮かぶようだったわ。そこで、何かを見たの」
「フラッシュバックみたいなものですか。その何かとは?」
「私によく似た白い服の女の人と、彼──ブラックさんとよく似た黒い服の男の人が居たわ。何かを話していたように思えた」
白雪は自分の身に何が起きたかを説明する。もちろん、疑問だらけだ。起きたことを全て話しても、全体を理解できるわけでもない。
それは、優司にとっても同じことであった。
「白雪様に似た女性。そして、あの自称旅人のブラックさんに似た男性。んー……どういうことでしょうか?もし仮に、これがフラッシュバックの類であれば、白雪様は過去にブラックさんと会っていたことになる?いやでも、それだと三人称の視点で映像が見えているのに説明がつかない…………」
「私もよく分からないのよ。あの女性が私とも限らないし、あの男性がブラックさんとも限らない。仮に、フラッシュバックだったとして、それは私の記憶ということになる。それだと、あなたの言う通り、説明がつかないわ。私はきちんと昔の記憶があるわけだし」
「おかしいですよね。まず、なぜ、白雪様にだけそのような現象が起こるのか」
「分からないけど、少なくともきっかけは『眼』よ。ヴィアルドを殺したあの人を見たときから始まったわ。それと、ブラックさんの眼を見たときも」
「今回、白雪様が倒れたのはブラックさんの眼を見て、フラッシュバックのようなものに襲われたから、というわけですね」
優司は頭の中で情報を整理する。
「今回見た内容はなんですか?」
「今回のは、更に疑問が増えたわ。例の男性と女性が不思議なことを話していた。人がどうこうとか、世界がどうこうとか。そして、後継者とかいう話もしていたわね」
「一気に話が飛躍しますね……。白雪様とブラックさんに似ている人が話していると思うと、余計に違和感が」
「優司たちにはこういう異変はないってことよね。なぜ、私だけが……」
「白雪様は『眼』がトリガーとなっているように、もしかしたら、僕たちにも何が別のトリガーがあるのかもしれません。もちろん、白雪様のみという可能性も十分にあります」
するとここで、白雪が今最も疑問に思っていることを話す。
「実はね、優司。映像で見た男性がブラックさんに似ていたって言ったでしょ?ヴィアルドを殺した人にも似ているのよ」
「え?!!」
「ヴィアルドを殺した人の顔はフードで見えなかったと思うけど、さっきも言ったように眼が光っていたでしょ?その光り方が、今回見たブラックさんの光り方にも酷似しているのよ」
「それは、つまり────ヴィアルドを殺した人の正体はブラックさんではないのか、ということですか?」
「その可能性が高いと思っているわ。そもそも、ヴィアルド戦でのノイズと今回のブラックさんで起きたノイズ。両方とも、頭痛がきて映像が流れて、その映像に映る人がブラックさんに似ている。『眼』がトリガーになっているだけで、実は誰の眼でもいいという可能性もないわけではないのだけど」
優司は顎に手をやり深く考える。なぜ、白雪にはこんなことが起こっているのか。ブラックという自称旅人の正体。
色々な可能性がありすぎて、すべてを疑ってしまう。特に思ったのは、仮にヴィアルドを殺し、旅人と名乗ってきたブラックが同一人物なら、一体それは何が目的なのだろうか。
そして、ヴィアルドの封̀印̀を̀解̀い̀た̀の̀は̀誰̀な̀の̀か̀、ということ。《法則技能》を保有している白雪たちをも、超えるような力を見せつけたブラック。
たったそれだけで怪しいのだ。《法則》よりも更に上の等級を持っている可能性もある。
それが発見されている十三名のうち、残りの五人の行方は不明。鴉真でさえも分からないという。ならば、ブラックという者がその一人でもおかしくない。
「ともかくです。これは、玲兜様たちに報告するべきでは?もちろん、ブラックさんには内密に」
「ええ、万が一の場合もあり得るわけだし。それがいいわ」
「あんな登場の仕方。怪しいと言っているようなものですからねぇ…………」
「私が倒れた際に、運んでくれたのは感謝しなきゃね。そこだけは」
「あはは。まぁ、運んでくれたとはいえ、雑でしたからねぇ」
「病院の人たちには悪いことをしたわ。自分で言うのもアレだけど、私は帝王なわけだし……」
確かに、一般的な病院に国の王がやってくるとなったら、相当なパニックになるだろう。よく、今平然と話していられるものだ。
「それは、ブラックさんがきちんと説明してくてました。白雪様が急に倒れたから、休ませてやって欲しい、と」
「そこは案外、ちゃんとしてるのね……」
「ちょっと、疑うのがかわいそうになってきました」
「あなた、将来、詐欺に引っかかるわよ」
「同い年の上司に言われるのが、こんなにも辛いなんて…………でも、白雪様がこんなことを言ってくださるということは、僕の心配をしてくれてる?!」
優司はショボンと肩を落とす。が、すぐにいつもの調子に戻り、変な発言をする。恋愛感情を抱いていない、否、抱いていないからこそ、この発言は相当いら立たしいものである。
「何、一人で言ってるのよ」
だが幸い、白雪には聞こえていなかったようだ。
「いえ!何も!それより、白雪様の体調が戻ってよかったです。では、そろそろ行きましょうか」
「ええ、戻りましょう。玲兜たちは白帝苑に居るのよね?」
「はい。そこで待機しています」
白雪がそっと、足をベットの外に出す。そして靴を履き、立つ。
「玲兜様たちは何をしているんでしょうかぁ」
優司が先に病室の外へと向かう。白雪は、立ち止まって窓を眺めていた。
「…………。彼女は私なの?一体、私は誰なの……?」
「白雪様?行きますよ?」
「ええ。今行くわ」
そう、自分に問いかけると、優司から声をかけられ、白雪たちは病室を後にするのだった。
第三話 完
どもども〜!Davidです!
さぁ、タイトルの記憶喪失って部分に、やっと触れてきたって感じですかね。ここからどんどん物語が展開していって、規模が大きくなる予定でございます。この後、ブラックと白雪たちとの関係はどうなるのか!多分、きっと、絶対見ものです。
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