表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/57

第二話 ────君は、誰だ

 白帝苑(はくていえん)。それは、白雪が住んでいるこの場所あるいは建物のことを指す。アメリカで言うホワイトハウスのようなものだ。

 目に映るのは、無垢な白亜に染まる巨大な邸宅。柱が支えるアーチ状の玄関口に、(きら)びやかな政庁風のガラスドーム──そこは〝帝王〟が住まうにふさわしき、政治・戦略・力の象徴である。

 その中枢には、白雪が暮らす居住棟と、各地の政務を処理する統治棟が併設され、全てが白く、静謐(せいひつ)に整えられていた。

 庭は芝生の広場やローズガーデンが囲んでいる。実に美しいと言えるだろう。


「それで、ご用件は?」


 白帝苑の中、目の前にいる、見た目だけでは男と分からないその人物を見る。その者は運ばれたケーキを嬉しそうに食していた。


「そう焦るな。時間は沢山あるだろう?……それにしても実に美味だ。このケーキ、気に入った」


「ありがとうございます」


 背後に立っていたシェフらしき男がお辞儀をする。

 それにしても、彼は本当に美味しそうに食べる。俗に言う、いい食べっぷりだろうか。はしゃぎはしていないものの、表情がまさにそれであり、いささか少女のように見える。


「私たちにも予定があるのです。手短にお願いします」


「貴様、シェフであってパティシエではないだろう?だが、この腕。素晴らしいこの上ないと言える」


 彼は白雪の言葉を完全に無視し、シェフを褒めている。それほどまでに美味だったのか、あるいは彼がいわゆる甘党なのか。それとも、両方かもしれない。


「ご用件を。ケーキ、取り上げますよ」


「ッ?!ま、待て。早まるな。辺りを見回せば、修復工事で忙しいのは分かっている。されど、時間は余るほどあるのだ」


「こわっ……」


 白雪が冷たく警告すると、彼は大慌てで言葉を放つ。どれほどそのケーキが食べたいのか。

 葉対も、白雪の恐ろしさと冷たさに怖さを感じ、ボソッと呟いてしまう。


「ないです。私たちには帝王として、国を治める者として、責任があります。あなたがご存知なのかは知りませんが、こうなった原因は私たち、いや、私にあるのです」


「なぜだ?」


「あなたが〝方位の都〟に来たのは、いつ頃ですか?都が破壊された後でしょうか?」


「…………」


「……どうされました?」


「いや、ふむ。確かにそうだ」


「では、手短にご説明を。三年前、この国にはヴィアルドという魔王がいました。ここ、〝北の帝〟を治める北の帝王(ノース・エンペラー)前任者である鴉真さんや他の帝王とも協力し、無事に封印することができました。ですが、先日、封印が解け、暴走を許してしまったのです。ヴィアルドの封印場所は〝北の帝〟にある。これは、完全に現北の帝王(ノース・エンペラー)である私の失態でしょう」


 簡潔かつ丁寧に白雪は事を伝える。しかし、そこにあったのは自責の念だ。彼女は責任を感じている。

 自身で言ったように、ヴィアルドの封印場所は白雪の領地、〝北の帝〟だ。であれば、封印が解けたのはその管理が甘かった自分自身のせい、と白雪は考えている。

 彼女は完璧主義な傾向にある。今回のこの自責もそのせいだろう。完璧主義がゆえに、失敗は許せない。

 だが、ここで自称旅人の彼が正論を放つ。


「それは本当に貴様のせいか?」


「え?」


「封印の管理を怠ったから。本当にそうなのか?……おい、貴様」


 彼は玲兜を指差す。


「俺か?」


「ああ。封印の解除方法はあるのか?」


「あるにはある。ただ、それには俺ら帝王が全員集まって、【技能(スキル)】を発動する必要があんな。もちろん、普通のじゃねぇ。特定の《法則技能(ルールスキル)》だ」


「ほう」


 玲兜は《法則技能(ルールスキル)》保持者ということを自慢げに言い放った。

 《法則技能(ルールスキル)》を保有している。それは確かに、自慢しても許されることだ。今日まで、十三名しか《法則技能(ルールスキル)》保持者は見つかっていないのだから。


「やはり貴様らが、かの有名な中学生にして国家元首となった天才だというわけか」


「ま、そうなるな」


「それは後ほど聞こうか。さて、ということは貴様が白雪だな。問おう。本当に封印が解けたのは貴様のせいか?解除するには四つものの《法則技能(ルールスキル)》が、まして特定のものが必要だ。それ以外の方法は、《法則(ルール)》よりも上の等級の【技能(スキル)】あるいは【技法(テクニック)】がなければならない。不可能だと言っていい。仮に、《混沌(カオス)》以上の能力保持者が生まれ、その者が封印を解いたのなら、どちらにせよ貴様のせいではないのだ」


「それは…………」


「気に留めるな。己のせいではないというのに、己のせいだと言うのは(おご)りだ」


 彼の言うことは実に正しい。白雪が思い悩む必要は全くないのだ。不慮の事故。そう片付ければいいのだから。


「ッ…………そう、ですね」


 ぎこちなく肯定する。彼の言葉を聞いて、いつまでも自責の念を置くことはできなくなったのだ。

 起こったのだから、しかたがない。それで片付けなければならない。(うつむ)いたって壊れた都は直らない。


「んで、用件なんだよ」


 玲兜が口を開く。


「ククク。いや、なに。旅のついでに、この壊れた都を直してやろうと思ってな」


「旅をしていて、ボロボロだった場所があったから来たってことですか?」


 ニコ、と尽世はほほえみながら尋ねた。


「そんなところだ」


「ご足労いただき、誠にありがとうございます。ですが、生憎(あいにく)修復を急いでいたとはいえ、人手に困っているわけではないのです」


 麗那が補足する。やはり、綾、牙瑜、麗那の三人は格式高い。そして、特段高いのが、牙瑜と麗那。この二人は最高幹部というよりかは、執事とメイドに近かった。

 もちろん、白雪も高いと言えば高いだが、孤高の女王のように冷たい雰囲気を(まと)っている。近づきがたい印象だ。


「貴様らは世にも珍しい《法則技能(ルールスキル)》を保有しているわけだ」


「ええ」


 白雪が答える。


「どのくらいかかる」


「え?」


「【技能(スキル)】を使い、どのくらいで完全に都を修復できる」


「……二日、早ければ一日です」


 彼の質問の意図が分からず、疑問を抱きながらも言葉を返す。すると、彼は不敵な笑みを浮かべ、立ち上がる。


「我なら一秒もかからぬ」


「は…………まさか、一瞬で国全域を修復できると?」


「一瞬も要らぬ。だが、信じられないと言うならば、七秒程度で片付けてやろう。演出も含めてな」


「演出……?」


 葉対が首を傾げながら聞く。

 《法則技能(ルールスキル)》を持っている白雪たちでさえ、一日二日かかる。だが、目の前にいる自称旅人は『演出』を含めて、七秒で直してやると言うのだ。

 ふざけているようにしか見えない。昔の地球と比べれば、今の環境も非現実的だが、彼の放つ言葉は更に非現実的だ。


「貴様らにとって、我はどこの馬の骨か分からない自称旅人としか映っていないだろう?(ゆえ)に、我が力を見せてやろう」


「自覚していたのね……。そこまで言うなら、見せてください。貴方の力を」


「ククク。良いだろう」


 そうして、白雪たち一行は外へと向かった。旅人の力を見るために。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 白帝苑を出て、最も崩壊が酷い場所に来た。

 昨日、ヴィアルドと戦闘した場所だ。旅人は白雪たちの少し先に立つ。


「その魂に刻め。我が力を」


 手のひらを上に向けながら、前に突き出す。今度は、指を曲げて拳を作りながらひじを曲げ、上に向かうようにする。

 すると、見る見る広がっていた瓦礫(がれき)の山などが、宙に浮かぶ。見渡す限り、全て浮かんでいるのだろう。


「物体操作の能力か?」


 玲兜が呟く。実際、物を動かすだけなら、《法則技能(ルールスキル)》でなくとも可能だ。《基本技能(ベーシックスキル)》や《基本技法(ベーシックテクニック)》ですらできる。

 無論、《基本(ベーシック)》の等級では、軽いペンを浮かせることや草むしり程度が限界だが。

 しかし、この規模。《究極(アルティメット)》の等級でやっとできるかどうかだ。ヴィアルドのように、魔力を大量に注いで《究極技法(アルティメットテクニック)》を使用するなら可能かもしれない。

 となると、彼は魔人?あるいは……


「フッ」


 微笑し、上げた方の手をフィンガースナップ、いわゆる指パッチンの形にする。刹那、


 ───パチンッ


 という綺麗な音が、広いこの空間に鳴り響いた。見ると、驚いたことに瓦礫やヒビなどもなくなり、完全に建物は修復されていた。

 完全に、だ。元々、老朽化や劣化がしていたものを含め、すべてが新築のように綺麗になっている。

 それも〝方位の都〟全域で。まさに奇跡。《法則技能(ルールスキル)》を保有している白雪たちでさえ、このような一瞬にしての修復は無理である。



「……ッ?!」


「なっ?!」


「すご!?」


「マジで?!」


「これは驚きました」


「まさかこんなことが……」


「驚いたよ。凄いね」


「なんたる奇跡。人間業とは思えませんね」


 全員が驚く。普段、あまり物を言わない牙瑜と麗那でさえも、驚嘆(きょうたん)している。

 事実、彼がしたことは人智(じんち)を超えているのだ。指をならすだけで一瞬にも満たない早さで、修復をさせてみせた。

 それがいかに驚くべきことか。《法則技能(ルールスキル)》という、周りからはチートだの言われていた【技能(スキル)】を持っていてもそんなことは可能ではない。

 クロノフィアも、一体、完成までに何十年かかったと思っているのか。


「ククク。見たか、これが我が力だ」


 自信家という言葉では足りない。そのさまは傲慢でありながらも、真実であるような気がした。


「改めて、言おう。我が名、ブラック。最強たる旅人だ」


 突然現れ、突然その力を振るう謎の自称旅人。彼──ブラックは最強と謳歌(おうか)し、それに見合ったような不敵の笑みを浮かべた。

 そして、白雪は気付いた。その怪しげに光る眼が、ヴ̀ィ̀ア̀ル̀ド̀を̀殺̀し̀た̀者̀と̀よ̀く̀似̀て̀い̀た̀ことを。


 (…………うっ!)


 そこで白雪は、あの時と同じようにノイズに襲われた。


二話 完

どうも。著者のDavidです。個人的にいよいよって感じがしますね笑。まだ、物語は序盤。白雪たちがこれからどんな力を身につけて、何を知っていくのか。そして、旅人とは何者で、ヴィアルドを殺した人は誰なのか。なぜ、封印が解けたのか。

謎はまだまだたくさんありますね。今後とも、皆様に面白いストーリーを提供できたらなと思います。

もし、面白いと感じてくださったら、ブクマと評価、感想をお願いします!では、次回お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ブラック……..実力がどのくらいなのか。楽しみ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ